Б.б アトレシア大王国 - 03
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アトレシア大王国の王宮に到着し、それぞれの荷が解かれ、全員がセシルにあてがわれた特等室の客室で、まずは一息をついていた。
両親にあてがわれた客室が一つ。シリルにも一つ。
それぞれの来客の世話係としてつけられた使用人が、各部屋に軽く4~5人が。その全ての管理を任されているのが、第三王子殿下付きの執事である。
それぞれの部屋で、旅で着ていた洋服を着替え、支度ができたらセシルの部屋で合流する約束で、全員がセシルの客室に集まっていた。
優雅で豪奢な長椅子が並び、その前に置かれているテーブルの上には、燦然と並べられたお菓子の数々。使用人達がその用意を済ませ、紅茶の用意も済ませると、やっと、ヘルバート伯爵家一家は、家族だけになっていた。
「やっと、アトレシア大王国に着きましたわね……」
紅茶を優雅に呑みながら、母のレイナもほっと一安心しているようだ。
「このように、ゆっくりと一息つけるのは、きっと今だけでしょうね」
今日はアトレシア大王国に到着したが、明日からは婚約の儀の為に、早速、準備が始まる。
あさっては、ギルバートとセシルの婚約の儀が執り行われる予定となっているのだ。
ヘルバート伯爵家が到着した報をギルバートにも知らせてくれるそうだから、それから、ギルバートが挨拶にやって来るとは、先程の執事から聞いている。
その挨拶が終わり、祭務官から派遣されてくる儀式の運行役が、式典の運行内容、アトレシア大王国の慣習や決まり事などを説明しにくるらしい。
一夜漬けで猛勉強――なんて状況になりそうな雰囲気でも、ヘルバート伯爵家は全員で、セシルの婚儀の前に、一気に学べるだけの最低限の知識を学ばなければならない。
さすが、王族の式典である……。
マナー違反は許されることではない。
「お父様やお母様、そして、シリルにも、ご迷惑をおかけします……」
「あらあら。迷惑でなんてありませんわよ、セシルさん。伯爵家から娘が王家に嫁いでいくことになるなど、とても名誉なことでありますもの。それが隣国であろうと、伯爵家の恥は出せませんものね」
そして、レイナの意気込みも強く、ゴォーっと、その背後から、熱意が燃え滾っている。
その光景を見ながら、はは……と、シリルも微苦笑を浮かべている。
その時に部屋のドアがノックされ、ドア側に待機しているセシルの護衛二人が、ゆっくりとドアを開けた。
ドアの向こう側にギルバートの姿を認め得て、椅子に座っていた全員が立ち上がる。そして、礼儀正しくお辞儀をした。
「そのようなことは気にしないで、顔を上げてください」
静かに顔を上げていく全員の前で、ギルバートが椅子の側までやって来ていた。
「お久しぶりです、ヘルバート伯爵令嬢。そして、ヘルバート伯爵家の皆さん」
部屋に足を進めて来たギルバートの視界には、一番にセシルの姿を目に留めている。セシルに最後に会えたのは二月の初めで、それから、優に、四ヵ月は経とうとしている。
結婚を申し込んでから、手紙のやり取りと、ギルバート抜きの話し合いだけで婚約の話が進められ、ずっとセシルに会えないままだった。
ずっと会いたかっただけに、ギルバートの視線が、一番初めにセシルに行ってしまうのだ。
「お久しぶりです、副団長様」
「お久しぶりです」
セシルと、セシルの父であるリチャードソンが礼儀正しく挨拶を返す。
さすがに、セシル達はコトレア領ではなく、アトレシア大王国の王宮にいるだけに、今のギルバートに対する態度は、第三王子殿下としての扱い以外のなにものでもない。
少し堅苦しい挨拶の場になってしまったが、お互いにまだ親しい仲でもないだけに、仕方がないな……と、ギルバートも考え直す。
「掛けてください。休憩中すみませんが、挨拶に伺わせてもらったので」
「いえ、わざわざお時間をいただきまして、ありがとうございます」
セシルの父であるリチャードソンが返答をし終え、静かにシリルがその場を離れていた。
セシルの客室にある豪奢な長椅子は対面式で、セシルとシリルが片方の椅子に、その向かい側にセシルの両親が座っていた。
シリルは椅子から離れ、両親が座っている椅子の後ろに静かに控えるように立った。
その動きを見て、どうやら、セシルの隣の席をギルバートに譲ってくれたようである。
「どうぞ、掛けてください」
「ありがとうございます」
立場上、ギルバートが椅子に座る前にセシルは座ることはできなかったのだが、ギルバートは、なにしろ、“紳士道”を地で行く紳士である。
こんな場面でも、レディーファーストなのだ。
セシルが椅子に腰かけ直すと、ギルバートがセシルの隣に腰を下ろす。それを見て、セシルの両親も椅子に座り直した。
「ヘルバート伯爵、挨拶が遅れましたが、今回は、ご令嬢との結婚を許してくださって、ありがとうございます」
「いえ、我が伯爵家でも、そのようなお話をいただきまして、とても名誉なことでございます」
「そう言った――社交辞令を抜きにして、伯爵には感謝してします。私が望んだことは、私の我儘ではあるかもしれませんが、それでも、私は心からこの結婚を望んでいます」
「それは……」
ギルバートの真剣な様子で、ギルバートの心内を話されて、リチャードソンも少し考える様子をみせる。
「王子殿下……」
「ギルバートと、呼んで下さい」
「ギルバート殿下……。そのようにおっしゃっていただきまして、私も……私どもも、安堵しております。正直なお話ですが……、セシルの……娘の、結婚のお話は突然でしたので、私も驚いてしまいましたが、それでも――ギルバート殿下の娘に対する誠意を感じ、私も安堵しております。今までずっと、娘には……いらぬ苦労をかけてしまいました。ですから、どうか、娘をよろしくお願いいたします……」
「お父様……」
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