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* Б.б アトレシア大王国 *

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 セシルは、王宮から(つか)わされた豪奢な四輪馬車に乗って、今は、アトレシア大王国の王宮に向かっている。


 ここずっと、王家から派遣されてきた、アトレシア大王国の執務官や祭務官の遣いとの話し合いで、セシルの父は、ほとんどコトレアに滞在したままだった。


 それから、一度、報告の為に伯爵家の領地に戻った父だったが、婚約の儀の日程も決まり、全員の移動と護衛が簡単にできるようにと、父だけではなく、母のレイナと弟のシリルも一緒に、コトレアの領地にやって来ていた。


 去年の豊穣祭依頼、久しぶりに会うセシルに二人とも喜んでいたが、突然の結婚話で驚いた父のリチャードソンが、コトレアに(ものすごい早さで) 向かってしまった為、母と弟は――セシルとの話し合いがどうなったのかしら……と、その報告を、伯爵家の領地で、ソワソワと、待っていたのだ。


 戻って来たリチャードソンは、(随分) しょげていて、妻のレイナは、



「――旦那さま……。まさか、結婚のお話に、反対なさったのですか?」



 夫のしょげている理由を、妻のレイナは、結婚話を反対してセシルに嫌われた、と勘違いしてしまったのだ。


 レイナにしてみれば、娘となったセシルに、隣国の王子殿下からの結婚話が持ち上がって、とても喜んでいた。


 ここ数年、豊穣祭で会った隣国の王子殿下は、格下の伯爵家なのに、セシルの家族に対しても礼儀正しく、セシルには、いつもとても紳士らしく接している光景を見ていたから、好青年ですわね、とレイナからのギルバートの評価は良かったのだ。


 セシルだって、とても魅力的で、美しい女性に成長した。


 縁談話の一つや二つや三つや四つくらい(いや、それ以上) あっても当然のことだと、レイナは考えている。


 ただ、今までは、あの侯爵家のバカ息子の婚約解消を成立させる為に多忙であったから、その手の話題が上がってこなかっただけで、今は、セシルは完全にフリーのご令嬢だ。


 これだけ魅力的で美しいご令嬢を、殿方が見逃すはずはないと、レイナは自信を持って言える。


 だから、婚約破棄以後、初めて、セシルの周囲で男性の気配が出てきたのは、まがりなりも、あの隣国の王子殿下だけだった。


 その(えん)だったのか、やはり、王子殿下だって、セシルの魅力に魅了されて、セシルを妃として望んで来たほどだ。


 だが、結婚話に(かなり) 乗り気のレイナに反して、()()()()()()一人娘が結婚してしまいそうな気配にしょげているリチャードソンは、()()()()()()一人娘の近未来を受け入れられないでいるようだった。



「姉上は、結婚の申し出を承諾なさったのですか?」

「いや……、考え中だ……」



 それを口にしながらも、長年、娘を見て来た父親としては、あの決断が(誰よりも) 早いセシルが返答を躊躇(ためら)っている態度を見て、娘が心揺れている心情を、すでに察してしまっていたのだった。


 王子殿下。

 隣国で、大王国。


 いや、リチャードソンにとっては、そんな状況も、立場も、事実も、全く関係ない。


 ただ、一人娘が幸せになれるのであれば、文句はない――はずなのだが、いざ、娘が結婚してしまうかもしれない気配が出てくると、一気に、父親として、寂しくなってしまったのだ……。


 きっと、セシルは結婚の申し出を受け入れるんだろうなあ……という自覚と共に、ズーンと、寂しさが襲ってきて、それで、リチャードソンはものすごいしょげていたのだ。



「父上、そのように気を落とされる必要はありませんよ。考えようによっては、これ以上の好条件を出してくれる縁談話など、きっと、もう、ありませんでしょう。姉上は以前と変わらず、領主の任を継続されることができ、私達も姉上にいつでも会いに行っても良いと、太鼓判を押されているのです。以前と、ほとんど変わりはしませんよ」



 などなど。

 年若い少年のシリルは、しっかり者である。


 そして、そんな息子に慰めてもらっている、父のリチャードソンだ。


 セシルが結婚の申し出を承諾してから、すぐにアトレシア大王国側から婚約の儀の話が舞い込んできて、あれやこれやと、アッと言う間に、婚約の儀が計画され、決定してしまった。


 あまりの素早さと対応の早さに、セシル自身だって、少々、驚いてしまったくらいである。


 貴族の婚約の儀や、婚姻の儀など、軽く半年やら一年はかかっても不思議ではない(なにに、そんなに時間をかけるのかは知らないが)。


 きっと、内政が落ち着かないあの国で、セシルの身を案じて、早くギルバートの正式な婚約者とするべきだと、王国側で判断してくれたかもしれない状況は、セシルも想像ができた。


 それにしても、アトレシア大王国に手紙を送って数日後には、すでに王宮からの先触(さきぶ)れが飛ばされて、ヘルバート伯爵にもどうかご出席を、などという要請を受け、セシルの方も、ノーウッド王国の伯爵家に早馬を飛ばす羽目になってしまったほどだ。


 父には、今回の件で、コトレアとヘルバート伯爵領を行ったり来たり、それからすぐに、コトレアに戻ってきて休む暇もなく、今度は、アトレシア大王国の王都へと、長距離の移動を押し付けてしまった……。


 せめて、セシルの婚約の儀が済んだら、ゆっくりと休んでくれるよう、ちゃんと頼んでおこう。

 セシルの父は、まだまだ若い働きざかりだけれど、やっぱり、長距離の移動は大変ですから。


 アトレシア大王国までの移動は、前回と同じで、快適なスピードで進んでいる。


 この調子だと、たぶん6日はきっかりかかるでしょう。


「このように、家族全員が揃って移動するなど、本当に久しぶりですわね」


 馬車に揺られながら、広い馬車内で四人が揃って移動するのは、本当に、随分、久しぶりだ。


 四人が一緒に乗っていても、シートが幅広く、狭さを感じさせないゆったり感がある。


 さすが、王宮から派遣された()()()護衛団だ。


 その引いている馬車も豪奢で、広々として、座っている分には、少し足を伸ばせることだってできる。


 今回は、隣国の王宮での王子殿下との正式な婚約の儀とあって、付き人は、セシルの付き人であるオルガと、母親の付き人の二人だけだ。


 セシルの護衛は、付き添っている。


 ここで内緒だが――セシルの安全を考慮し、セシルの“精鋭部隊”の子供達は、数日前に、すでに、アトレシア大王国に発っている。


 リアーガと合流して、セシルが王国にやってくる時、滞在している間、ちゃーんと、アトレシア大王国の王都で待機していてくれるらしい。



「今回は、多分、必要ないでしょう」



と言う風にセシルが話したが、全くセシルの話を聞き入れず、しっかり、アトレシア大王国の王都についてきたのだ。



読んでいただきありがとうございました。土曜の更新は、これで最後になります。

この章から、エピソードの更新は週二回に変更したいと考えています。月曜日と金曜日の週に二回。いつも通り、正午の投稿を予定しております。

少し回数が減ってしまいますが、これからも、どうぞよろしくお願いいたします

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