* А.г 一人きりの時間 *
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十周年記念の時計塔完成式典も無事に終わり、領地内では、また日常が戻り始めている。
セシルは、多忙さを理由に先延ばしにしていた問題を、もうそろそろ、しっかりと決めなければならない。
昼間は活動の時間で、誰もが忙しく、セシルだって自分の仕事で忙しい。
だから、今、夜のこの時間、一人きりになると、落ち着いて考えることができる時間ができる。
もう、いつまでも、セシルの決断を先延ばしや引き延ばしてばかりはいられない。
なにか大切なことをする時、決める時、迷ってしまったのなら、することは決まっている。
まず、しないことを決めた場合に起こる可能性の状況や、その結果を考えるのではなくて、必ず、したことを決めた場合、何が問題になってくるのか、それを考えることを優先するのだ。
ネガティブに考えるという思考回路も、その行動も、初めからやりたくない、断りたいことを前提として、可能性を潰し、全てを否定してしまう行動だから、セシルはそれをしないようにしている。
だから、いつもポジティブな決断の方から考えて、その結果で生まれてくる問題などを考え、どうしても絶対にできないことがあるのかないのか、それを確認していくのだ。
もし、絶対にできないことがあったり、問題解決が見つからない場合があるのなら、ポジティブ側の行動をする決断は、少し考え直すべきかもしれないと、そこで判断ができるからだ。
もし、セシルがギルバートの結婚を承諾した場合?
なんの問題点が上がってくるのだろうか。
#1:隣国?
でも、セシルの領地に帰って来ることは約束された。それも、年に三度も里帰りして良いなど、と。
おまけに、他の理由がある時だって、好きに領地に戻ってよい、とまで言われている。
ただ、多少の問題……いや、苦労というか懸念があるとすれば、セシルは隣国の習慣も知らないし、アトレシア大王国の貴族達も見知りはしない。
仲間となる貴族も誰一人いない、孤立した立場から始めなければならないのだ。
だが、その状況だからと言って、生死を決めるほどの深刻な問題ではない。
時間がかかるだろうが、隣国の習慣を学び、味方となる貴族を探していけば良いだけの話だ。
味方、というのなら、ノーウッド王国でも、セシルは社交界も避けていたし、貴族達も避けていた。
だから、はっきり言って、ノーウッド王国だろうと、アトレシア大王国だろうと、どちらも、セシルがいる状況には左程の違いがないことになる。
だから、#1は、問題と言うほどの問題ではないのだ。
#2:領主問題?
これも、全く問題がない。
セシルが領主をしているその姿が好きだから、やめて欲しくない、とギルバートは口にした。
おまけに、第二王子殿下である現宰相にまで頼んで、ノーウッド王国と領地問題の話し合いをしてくれるらしい。
ノーウッド王国の王宮(いや、あの役立たずの国王) に関わらずに済むのなら、それに越したことはない。
#3:王族?
でも、ギルバートは、すでに臣籍降下を考えていて、アトレシア大王国の国王陛下だって、その潔いよい決断とも言えるギルバートの決断を、承諾したようなのだ。
#4:両親?
これだって、ヘルバート伯爵家の面々は、いつでもアトレシア大王国に遊びに来ていいし、セシルに会いに来ても良いと言われた。
今までだって、豊穣祭を除けば、家族にほとんど会う時間がないだけに、豊穣祭に里帰りを許されているセシルなら、両親やシリルとだって、今までのように、豊穣祭でちゃんと会えることになる。
全くの問題点にもならない。
そうなると――セシルは、特別、それ以上の問題点を上げられない。
見つけられない。
そして、あのギルバートは、セシルが考えそうな問題点以上の好条件を提示してきた。
本当に、あそこまでの本気を見せて、用意万端で、セシルに求婚しに来た隣国の王子殿下だ。
普通なら、結婚や縁談話が持ち上がると、考えることは決まっているだろう。
性格はどうだろうか?
自分と話が合うのだろうか?
二人の相性も合うのだろうか?
なんて、心配するはずだ。
だが、セシルには、去年、たくさんギルバートと会う機会があったことで、ギルバートの性格のことは、ほとんど問題点に入れていなかったのだ。
第三王子殿下でありながら、騎士団に入団し、騎士となった王子サマだ。
でも、副団長という高位の立場にまで昇格して、それがただの名前だけでないのは、ギルバートの実力から見ても、あまりに明確だった。
部下にも慕われていて、それで、能無しの上官ではない事実が、簡単に証明されている。
そして、ギルバートはちょっと真面目なところがあって、真摯な性格をしている所は、もうずっと前から気付いている。
セシルは、その手の読みは、ほとんど外したことがない。
そうなると、今のセシルには、普通、縁談話が持ち上がって悩む女性の心配事が、なくなってしまったことになる。
初めから、結婚話で相手の性格の問題点が上がってこない時点で、セシルには、この結婚話を断る理由がなかったのだ。
絶対にできない問題点もない。
生死を決めるような、深刻な問題点もない。
相手の性格だって、問題にしていない。
「ああ、そっか……」
ただ、迷っていたのは、婚約破棄以後、セシルは、もう絶対に結婚などしないだろうな、と自分で決め込んでいたので、それで困っていただけなのだ。
なにしろ、少女時代の大半は、あの侯爵家のバカ息子の為に、無駄に費やされてしまったので、そんな無駄な時間を、また費やす羽目になりたくなかったのだ。
だから、結婚する気はなかったし、考えもしなかったのだ。
そんなセシルの前で、ギルバートは、セシルの考えを一掃してしまったほどだ。
本気で、セシルを望み、手に入れたい――なんて、婚姻契約まで持ち出して。
これ、人生のどんでん返し、なんて言うのかしら?
そこまで大袈裟な状況ではないだろうが。
ギルバートは王子殿下であるほどの高位の立場なのだから、ちょっと命令すれば、自分の縁談話など、すぐに決まることだろうに。
王族からの婚姻話を断れるような貴族など、皆無に近い。余程の重大な理由がなければ。
だが、ギルバートはそんな権力を持ち込まず、どこまでもセシルの意思と意見を尊重し、セシルの為に隣国まで結婚を申し込みに来てくれたほどの誠実さだ。
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