А.в 世界は…… - 02
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きっと、ここに集まっている全員が、新たな「時計塔」 を見て、目を真ん丸にして驚くことだろうに。
ふふと、セシルだってその光景を想像して、つい、顔には出さず、顔が綻んでしまう。
「では、コトレア領の新たな「時計塔」 をご覧下さい」
観光情報館の前側は、屋根から地面まで届くほどの大きく長い布がかけられている。
屋根の上に登っている式典の運営係りが、慎重に、垂れ布のリボンとして結んである紐をナイフで切っていく。
その補佐に回って布を抑えている係り員達も、合図と共に一斉に垂れ布を手放した。
屋根から一気に降って来た垂れ布が地面に真っすぐに落ちていった。壁や窓に引っかかることもなく、無事に、垂れ幕は真っすぐに落ちていった。
屋根の上の係り員達も、下から見守っているセシルも、ホッと胸を撫でおろしていたほどだ。
まずは、式典最初の仕事は無事に済んだようである。
観光情報館の二階には、大きな丸い時計が飾られていた。見るからに、子供一人分の背丈は軽くありそうなほどの大きさで、長い針が真っすぐに伸びている。
丸い時計の周囲には柵のようなものが置かれていて、その後ろは広く平らな場所だ。その左右には、ドアも設置されている。
それを不思議に見上げている領民達や来賓達の前で、時計の針が正午を告げる為に、真っすぐ真上を差した。
突然、ギーっと、大きな時計の両端にある扉が、ゆっくりと開き出したのだ。それと一緒に、なにか、ポロン、ポロン~と金属音が奏でられてくる。
全員が見守る中、木の柵の後ろで花畑の花々が下からゆっくりと現れて、開いた扉から――人形のような女の子が登場してきたのだ。
そして、人形の女の子はそのステージの上を、クルクル、クルクルと、軽やかに回って行く。
真っ白なドレスを着た、深い藍の瞳をした髪の長いお姫さまだ。
人形の女の子は、長い銀髪の髪の毛を下ろし、頭に冠を付け、クルクルと踊っている。
軽快な音楽に合わせ、お人形の女の子が、左の扉から出て来て、右の扉に入っていくまで、クルクルと踊っている。
そして、お人形が消えて、扉が、ギーっと、自動的に閉まっていた。
その一連の光景を見守っていた全員は、目を真ん丸にしたまま、完全に動きが止まっている。
今、自分達が見た光景が理解できなくて、それで、目の前で、白いドレスを着たお人形がクルクルと回りながら、ドアの奥に消えて行ってしまったのだ。
誰かが後ろで操作しているようには見えなかった。でも、勝手に動いていたなら、なぜ、自動的に人形が躍り出したのか、全く理解できない。
「――よしっ……!」
全員が言葉もなく瞠目を激しくしている間、その場で、つい、誰かの呟きが漏れていた。
「時計塔」 の制作者であるケルトとハンスは、地上から、緊張して「時計塔」 の仕掛けを見守っていたのだ。
握りしめている拳は強く、手の平には汗が浮かび、どうか成功しますように……と、ドキドキする鼓動が止められなくて、二人はその場で立っていたのだ。
だが、二人の総結集とも呼べる「時計塔」 の完成披露式で、「時計塔」 の仕掛けは全く問題もなく、成功を見せた。
それだけで、今までの緊張が一気に緩んでしまいそうだった。
来賓席に座っているゲスト達の間から、歓声が上がった。そして、拍手が沸き起こる。
来賓席には「時計塔」 制作の関係者が多いだけに、事情を知っている関係者が、「時計塔」 の成功を間近で見て、感動したように大拍手を送っているのだ。
それに感化されたのか、その場に集まっていた領民達からも、大歓声が沸き上がる。そして、全員が驚きを映した顔を綻ばせながら、拍手喝采が起こった。
「ケルト、ハンス、とても素晴らしい出来ですね。「からくり仕掛け」 も、「オルゴール」 も、問題なく完成したことを、私もとても嬉しく思います。二人共、こんなに素晴らしい「時計塔」 を造ってくれて、本当に感謝しています」
セシルが嬉しそうに微笑みながら、二人にお礼を述べた。その瞳は心からの喜びを映し、セシルの真摯なお礼が伝わってくる。
「……っ……! いえ……、ありがとうございます、マイレディー……!」
感動してしまって、二人が声を詰まらせながら、セシルに向かって深くお辞儀をした。
「素晴らしい出来ですよ、二人共。本当にありがとう」
「いえ……! マイレディーに感謝していただき、私達も、とても、うれしく思います……」
周囲の大歓声と拍手喝采の喧騒に埋もれながら、ケルトとハンスの二人はあまりの感動で、涙が出てきそうだった。
式典の途中で泣くわけにはいかない。それでも、嬉しさや、喜びや、感動して興奮している気持ちや、そんな感情がごちゃ混ぜになって、涙が出てきそうなのだ。
まだまだ、周囲には人がたくさんいるのに……。
しばらく、周囲の喧騒も興奮も収まらず、拍手喝采が続き、そこに集まった人々の間から、「人形が……!」、「仕掛けが……!」 など、そんな会話ばかりが上がっていた。
周囲の喧騒と興奮が落ち着くまで待って、その後、「時計塔」 に組み込まれた仕組みの簡単な説明がされ、「時計塔」 制作や建築作業などの詳しい情報は、観光情報館の中に資料が展示されることも説明されていた。
「時計塔」 の資料が展示される二階には、外の「時計塔」 に続く部屋がある。関係者以外立ち入り禁止で、普段は鍵がかけられている場所だ。
そのドアの横には、製作者の名前を彫った金色のプレートが飾られている。
ゲストとして招待されている来賓達は、セシルと式典の役員達に案内されて、二階の展示室も観覧している。
今日は、招待されているゲストだけが展示室を訪れることができるので、明日から、領地での一般開放がされる予定なのだ。
落成式も無事に終え、その後は、セシルの邸で落成披露パーティーが開かれる予定になっている。
招待されたゲストを交え、「時計塔」 完成のお祝いをする宴が開かれるのだ。
もちろん、今日のこの日に向けて、セシルは大張り切りで、ケルトとハンスの二人に、正装用の服を新調してあつらえさせた。
「晴れあるお祝いだもの、いいじゃない」 なんて、遠慮している二人を無視して、お針子達と一緒に、セシルも大喜びで洋服選びに参加したほどだ。
普段着慣れない正装用の洋服を着て、首元にはクラバットがあり、なんだか、二人も落ち着かない。窮屈に感じてしまって仕方がない……。
それでも、二人は今日の落成式と、その後のパーティーの主役なだけに、文句も言えない。
パーティーでは、セシルに付き添って、二人は挨拶周りをする。その度に、会う人、会う人全員から祝辞を言われ、素晴らしい時計塔だと感動され、二人は揃ってお礼を言う。
社交辞令ではなくて、この三年半にも及ぶ制作や建築に携わって、協力してくれた関係者だけに、二人共、素直に感動の言葉と共に、お礼を述べて回った。
そうして、その夜は賑やかなパーティーで更けていった。
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