А.б 困ったわ…… - 02
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「――――臣籍降下、を考えていらっしゃると……」
「そうでございますか。そこまでの覚悟も見せられたのですね。なるほど、道理で、お嬢様が、お困りになっていらっしゃるはずですね」
「……困っています……」
「ですが、逆に言えば、その程度の覚悟も見せられないような殿方には、お嬢様を手に入れる資格はございません。かのお方も、どうやら、そのことを十分に理解なさっているようですから」
「……………………」
「私は、お嬢様がご自身で望まれる結婚をなさり、お子をお作りになり、そういった幸せを望める、そして、手に入れることができる将来を願っております。領主として、この地で生涯を懸けることもできましょうが、お嬢様はまだ若いご令嬢です。領主として縛り付けられたままでは、お嬢様の幸せが遠のいてしまいます」
「私は、そんな風には考えていないのよ」
「ええ、もちろん、お嬢様がそのようにお考えになっていらっしゃらないことは、我々も一番に理解しているつもりです。私としては――個人的に、お嬢様のお子であるのなら、それは、さぞ、美しいお子がお生まれになるだろうと、心待ちにしております」
「そんなぁ……」
ふふと、オスマンドが親しみを込めて、セシルを見つめている。
「私も年をとってきました。これからの老後を考えまして、お嬢様のお子を、死ぬ前に一度でも、お世話ができることを願っております」
「やだわぁ……。まだまだ、働き盛りではありませんか……」
ふふと、オスマンドは微笑んでいるだけだ。
「そのご様子から察するに、お返事はなされていないのですね」
「ええ、そうです……。今は私が繁忙期で忙しくなるから、その後に返事を聞かせて欲しい、と……」
「そうでございましたか。それなら、二月ほどは考える時間がおありではございませんか。じっくりお考えになられるのも、よろしいかと思われますが」
「そう、かしらぁ……」
全然、そう思っていない声音が明らかだったが、セシルは、また長い息を吐き出していた。
「まだ、邸の者達には、この話は知らせないでね」
「はい、もちろんでございます」
「でも、お父様には、知らせないといけないかしら……?」
「ええ、そうでございますね。ご結婚は、お二方のお気持ちも重要でございますが、正式なお話ともなれば、伯爵家の問題ともなりますでしょう」
「そうよねぇ……」
あの父親がどんな反応をするのかは、セシルもある程度予想できたから、やはり、文を出して、一応、状況報告を済ませるべきなのだろう。
それで、一応、報告がてら、セシルは父親に文を送ったのは良かったのだが、王都からは、速攻で、早馬を飛ばした返答が返ってきた。
すぐに領地に駆けつけるからそれまで待っていなさい――などと、余程パニックしたのか、父からの伝言が送られてきたのだった。
* * *
「セシル」
「お父様」
邸に到着した伯爵家当主リチャードソンは、入り口に出迎えに来ていたセシルをしっかりと抱きしめる。
「ああ、豊穣祭ぶりだね」
「ええ、そうですわね」
セシルが「領主名代」 となってからは、リチャードソンは、ほとんどコトレア領に顔を出したことがなかった。
それは、セシルに全てを任せきりと、領地を見放したのではなく、セシルが一人でやり遂げている領主の仕事を邪魔しないようにする為で、それからは、年に一度、豊穣祭に、家族全員でコトレアの領地を訪れるのが習慣になっていた。
セシルを抱擁し終えたリチャードソンが、両手でセシルの顔を包み、セシルの顔を確認していく。
「ああ、元気そうだ」
「ええ。お父様もお変わりなく」
昔から、セシルの父親であるリチャードソンは、セシルを溺愛していると言っても過言ではなかった。
元気そうなセシルの顔を見て、今も嬉しそうに瞳を細めている。
セシル達の亡くなった母親とは、お見合いでも恋愛結婚だっただけに、亡くなった妻の面影を残すセシルに対するリチャードソンの愛情は、疑いようのないほどに、溢れんばかりのものだった。
セシルを溺愛しているからと言って、リチャードソンは、セシルを我儘に育てたり、礼儀の知らないような子供に育てたのではない。
ただ、セシルのすることに決して口を挟まず、反対せず、セシルが助けを必要としている時は、いつも手助けをして、そして、セシルを見守ってきた父親だった。
「お疲れではありませんこと?」
「いいや、そんなことはないよ」
「では、お父様はお着きになられたばかりですけれど、お茶などいかがですか? 休憩がてらに」
「ああ、じゃあ、そうしようか」
父の同意も得たことで、セシルはリチャードソンを連れて、一緒に歩き出した。
家族の談話などは、大抵、小さなパーラーを使用することが多い。家族以外の来客などは、大抵、邸の談話室を利用するのだ。
ゆっくりとパーラーに向かっていき、セシル達は大きなカウチに向かい合わせで座り合う。
執事のオスマンドが紅茶の用意を済ませ、一礼した後、静かにパーラーを後にしていた。
二人だけになるとすぐに、リチャードソンが(なぜか) 背筋をピンと伸ばし、セシルに向き直る。
「セシル……。それで――」
社交辞令もぶっ飛ばして、父のリチャードソンは本題に突入してきたようだった。
セシルもそのリチャードソンの緊張した様子を見やりながら、ちょっと笑いそうになり、
「はい、お父様」
「結婚、を申し込まれた……と?」
「はい」
「それも……あの、隣国の青年が……?」
「はい、そうです。お父様も豊穣祭でお会いしましたでしょう?」
「そうだね……」
初めてギルバート達がコトレア領にやって来た時から、セシルに密かに紹介された(知らされた) あの青年だ。
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