А.а 始まり - 07
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「ええ、そうです。それは、トマトのベースで、フォークだけで食べれますよ」
「そうですか……」
「それから、次の時は、前菜で頼んだのが、ブルシェッタとガーリックブレッドだった。最初のは、ブレッドの上にトマトの刻んだのが乗っていた。どちらもおいしかった。その時のメインは確か――チキンのカネロニだったかな? それを頼んだはずだ」
「なるほど」
「その時に、私はビーフボロネーゼのリングイーネというのを頼みました。クルクル巻いてみるのに、挑戦しようと思いまして」
「ああ、そうだった。私のことをバカにしていたのに、クリストフも、最初の時は、時間がかかっていた」
「最初の時は、誰でもそうでしょう」
「そうだな。今回は、私は、この“コンキリエの肉詰め”というのを頼んでみようと思う。ここのお店のパスタというのものは、大抵、トマトのベースでお肉が入っていて、それにスパイスやチーズが混ざっているというのが多い。トマトのベースでなければ、クリーム系のものになるだろう」
「なるほど」
料理一つを注文するのに、この二人も、ものすごい真剣である。
慣れているギルバートとクリストフを抜かし、残りの護衛の四人の騎士は、メニュー表を端から端までしっかりと読み込み、最終的に、自分達の食事のメニューを決めたようである。
オーダーを終え、料理を待っている間、新たな騎士の二人は、つい、きょろ、きょろ、と目線だけでレストラン内の内装などを確認してしまう。
向こう側に座っているお客が女性客だけではなくて、それで、(密かに) ホッとしているようでもある。
「お洒落なお店だろう?」
パっと、ギルバートに声をかけられて、二人がギルバートの顔を見返す。
「あの……、いえ……」
「その……」
笑いそうになるのを堪えながら、ギルバートもチラッと室内に目を向ける。
「この領地では、珍しい食事処やレストランがあって、そのどれも内装が凝っていたり、清潔感が漂うようなお洒落なお店だったり、色々な工夫がされていると思うんだ。そして、なにより、どの料理も珍しくて、とても美味だ。私とクリストフは、かなり病みつきになってしまっているな」
ははと、おかしそうに笑ったギルバートを見返しながら、騎士の二人も(ものすごい) 真剣になって上司の話を聞いている。――そこまで真剣になって、話の内容を見逃さないようにとの意気込みなど、今は必要ないのに……。
「初めて豊穣祭でいただいた料理も、とてもおいしいものでしたねえ」
「ああ、そうだったな」
「去年の豊穣祭でいただいた料理も、とてもおいしいものでしたねえ」
そして、あの時の料理を思い出し、またお腹が空いてしまうクリストフだ。
「ああ、確かに」
「2年連続で豊穣祭に参加させていただきましたが、全く飽きる兆しもなく、驚きが満載なのも、驚きですよねえ」
「確かに」
新たな護衛の二人は豊穣祭に参加したことがないだけに、はあぁ……と、真剣な表情のまま、二人の上司の話を聞いている。
それで、ここ二年続きでギルバートの護衛役に任命された二人は、新たに加わった二人の方に顔を向ける。
「私達も豊穣祭に参加させていただいたのですが、見たこともない、耳慣れない料理が出て来て、驚きました」
「……それも、おいしかったと?」
「ええ、そうですよ」
そうそうと、アンドレアに同意を求められて、ガスも大きく頷き返す。
「夜になると、後夜祭というものに変わって、昼間とは全く違ったお祝いがされるのですが、そこでは、領民全員が一緒になって夕食を取る習慣になっているそうです」
「そうなんです。我々も参加を許されて夕食を一緒にしましたが、通り一面が料理で埋め尽くされているなんて、私は生まれて初めて見ましたっ!」
その光景が全く想像できない二人は、はあぁ……と感心したような相槌を返しながら、理解に苦しんでいる。
料理が運ばれてきても、先程の会話が弾み、見たこともない珍しい料理を初挑戦する二人を(少々、笑いながら)見守って、全員が大層満足したランチを終えていた。
「昼食を終えたことだし、さて、観光でもしようか」
そうなると、やはり、最初の場所は“なんでも便利屋”になるのだろうか。
観光情報館からもすぐ近くにある、一番最初の大きなお店だ。
「この領地の観光は、お店巡りが多いようなのだ」
「はあ……、そう、でしたか……」
でも、新たな二人の騎士には、買い物をするような必要もない。それは、口には出されないが、その時の二人には、この領地のお店巡りを甘く見ていることを知らない。
ギルバートに連れられて“なんでも雑貨屋”にやって来た一行は、お店の中にズラリと並べられている棚の品物の種類に、数に、おまけに――内容に、目が釘付けである。
ギルバートだって、以前にこのお店にやってきたことはある。買い物だってした。
なのに、あの時よりも、更に品物の種類と数が増えているなんて、驚きな話だ。
つい、ギルバートも、見たこともない新しい商品を確認しながら、商品の前にある簡単な説明書をしっかりと読んでしまった。
「洗濯、機……?」
丸い筒のようなものがあり、手漕ぎ用のハンドルもついている。
だが、洗濯機の説明書を読んでも、ギルバートにはさっぱり理解できない商品だった。なにしろ、本人は王子サマで、生まれたその時から、使用人達に全てのことを世話されて育って来ただけに、なぜ、洗濯機が必要なのかも知らないのだ。
セシルにとっては、手でゴシゴシと洗わなければならない洗濯が大変で、大変そうで、使用人達の時間がかかってしまうことが面倒で、手漕ぎ用の洗濯機を開発したのだ。
ドラム缶のような形の筒を作り、そこに洋服を詰め込み、手漕ぎのハンドルでクルクルと回すだけの原始的なものだ。
それでも、要は、回転させて洋服を洗えば済むだけなので、わざわざ、盥や洗濯板を持って洋服を洗う必要が減ったものだ。
少しお値段は張るが、領地内でも、ぼちぼちと人気が出てきている商品の一つである。もちろん、セシルの邸では、最初から洗濯機を導入している。
使用人達からは、こんな素晴らしい発明品で、無理に屈まずに洗濯ができるようになり、大喜びされている。
「さすが……、コトレア領……」
ギルバートには全く理解できない商品でも、セシルが関わっている商品なら、必ずお役立ちグッズの一つで、需要が高い品物なのは間違いない。
読んでいただきありがとうございました。
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Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)





