* А.а 始まり *
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年が明け、コトレアの領地には、今日この頃、お馴染みになりつつある顔がやってきていた。
「お久しぶりです。お変わりなく、ご壮健とお見受けいたします」
そして、なんだか、このセリフも聞き慣れ出しているセシルの前で、隣国アトレシア大王国から訪れた、第三騎士団副団長を務めるギルバートが、セシルの前に座っていた。
「ありがとうございます。副団長様も、ご健勝のこととお見受けいたしますわ」
「ありがとうございます」
これまた変わらない挨拶でも、ギルバートは丁寧な対応を崩さない。
大分、見慣れた光景になりつつあるこの社交辞令と挨拶も、まさかと思うが、毎年の恒例行事になりつつあるのだろうか。
昨年は、予定していなかった行事がかなり組み込まれ、ギルバートに会う機会も増え、それなりに、ギルバートの人となりというものを知る機会ができた。
だから、ギルバートとは知らぬ仲ではない。
でも、新年を明け、この訪問は――また、今年一年も、隣国アトレシア大王国の事情に振り回されてしまうのかしら……? などという、嫌な予感ではないことを祈りたいものである。
前回と違う点と言えば、いつもギルバートの傍を片時も離れず、付き従っている補佐役のクリストフがいないという点だろうか。
執事のオスマンドの説明によると、ギルバートに一緒に付き添ってきたであろう騎士達は、今回は、なぜか邸の外で待機しているらしいのだ。
今年こそは、平穏無事で、誰にもわずらわされない静かな生活を送りたいのになぁ……と、切に願っているセシルは、その願いを叶えることができるのだろうか。
王立学園を卒業してからというもの、セシルの周辺では、余計な騒ぎや問題ばかりが起こっている。
「今日は、突然、お伺いしてしまい申し訳ありません」
「いいえ」
「今回は、私の私用で、こちらの領地に立ち寄らせていただきました。私に与えられた有効期限が迫ってきておりまして、私も、悠長に待っていることも難しくなって来ているもので」
慎重にギルバートを見返して、セシルもその先を無言で促す。
「これからご令嬢にお話しますことは、全て私の本心で、個人的な私情です。王国や王族の立場や責任から、これをお話するのではないことを、まず、ご理解していただきたく」
「――わかり、ました」
一度、頷いたギルバートは、姿勢を正しセシルを真っすぐ見つめる。
「ヘルバート伯爵令嬢、私はあなたに惹かれています。私は、あなたを一人の女性として、そして、私が一人の男として、あなたを誰よりも望んでいます。そして、私は、あなたを私の妃として望んでいます」
さすがに――その最後の一言は、爆弾宣言だった。
予想もしていない展開で、セシルも黙ったままだ。
「あなたは勘の良いお方ですから、すでに、私の気持ちは、お気づきだったことだと思われます。それで何かが変わるのでもなく、あなたはいつも礼儀正しく、そして、決して、最後の一線を越えられない、超えさせない距離を保ち、アトレシア大王国、そして王族には関わり合いにならないようになさっていたことも、私は理解しているつもりです。ですが、私は、あなたにこの上なく惹かれています。手に入れたいと思うほどに、あなたを望んでいます」
「……っ……」
まさか、隣国の王子であるギルバートから、そこまで本気の、そして、真剣な告白を受けるとは夢にも思わず、ギルバートの瞳が冗談でもなんでもなくて、セシルは言葉が出なかった。
「あなたを手に入れる為なら、私はどんなことでもするつもりです。それで卑怯だと罵られるかもしれません。ですが、私は、あなた以外の令嬢を娶る気はありません。そうするつもりもありません。なぜなら、私は、あなた以外の女性は、もう、絶対に愛せない」
「……っ……!?」
その激しい激情とも言えるほどの思いをぶつけられ、セシルの瞳が微かに揺らぐ。
このセシルに面と向かって、そこまでの本気を見せたのは、このギルバートが初めてだったのだ。
「アトレシア大王国にあなたを迎え入れることで、あなたの今ある自由を奪ってしまうことになるかもしれません。問題に巻き込んでしまうかもしれません。命を狙われるような、危険にさらしてしまうかもしれません。それでも、私はあなたを望んでいます。あなたを手に入れることができるのなら、私は何でもします。そして、私の命ある限り、あなたを絶対に護り通してみせます」
「――あの……、そのような……」
だが、言葉に詰まってしまい、そこから次の言葉が出てこない。
予想もしていない場で、そこまでの本気をみせて――ギルバートがセシルに求婚してくるなど、困ってしまい……、どう反応してよいのか、分からなかったのだ。
「突然のことで驚いていらっしゃるかもしれませんが、まずは、私の本気を、あなたにお伝えしたく、そして、理解していただきたく」
「……それは……」
セシルがそれ以上の返事を鈍っているのか、出せないのか、それでも、ギルバートはそのセシルの様子に落胆しているのではない。
驚いているのでもない。
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