* EPILOGUE 03 *
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「ご相談したいことがあります」
それで、ギルバートは、手に持っていた書類をレイフに渡した。
レイフは書類を受け取って、簡単に中に目を通し出す。
「まあ、よく考えたんじゃないのか」
驚いた様子もなく、あまりにあっさりとした反応だ。
「一応、考え得ることは考えてみたのですが――まだ問題点が残っていまして。また、私が見落とした点など、ないでしょうか?」
「領地の問題が、お前にとって、最大の問題点だな」
「そう、なんです……」
「だったら、領地を、そのままアトレシア大王国に持ってくればいい」
「――――――――え゛っ?!」
今、自分の耳を疑ったかのように、ギルバートだって、珍しく声を上げていた。
「驚くことでもないだろう? 領地問題が解決しない限り、お前の結婚は、ほぼ不可能に近いだろう」
「そう、なのですが……。――あの……、ですが、領地を持ってくる? そのようなことが可能なのですか?」
「可能か、可能でないかの問題ではない」
「ですが……、どのように?」
「この場合、侵略ではないから、併合は無理があるだろう。だから、王国にとっての有益さを強調できなければ、誰も賛成はしない。あの領地は、価値があるのか?」
「もちろんです。領地だけではなく、あの地の統治や運営法だって、画期的、または前衛的で、私が知る限りでも、近隣諸国では見られない方法です。それなのに、全てが全て潤滑で、効率的で、無駄がない。あのような統治方法や運営方法は、絶対に、王国でも為になるものです」
「まあ、そう熱くなるな」
熱弁してくるギルバートに、ふっと、レイフもおかしそうに笑う。
「それだけの価値があるのなら、この場合、政治的、商業的利益で、王国への加盟を推薦するのだ」
「――王国へ加盟、ですか? そのようなことが、可能なのですか?」
「まあ、交渉次第だろう。だが、価値はあるのだろう?」
「もちろんです」
「私情の挟み過ぎ?」
「いえ、それはありません」
「なら、問題ない」
あまりにあっさりと――最大の問題点で、超難関がクリアしてしまったのだろうか?
予想外に、あまりにあっさりとした結論に、ギルバートも信じてよいのかあまり定かではない。
「――――本当に、問題ではないのですか?」
「きちんと、お願いしてみたらどうなのだ?」
「では、隣国の領地の加盟に関する交渉役を、お願いできないでしょうか?」
「ああ、いいよ」
そして、レイフは、またも、あっさりと返答するだけだ。
少々――肩透かしの状態でもないが、そんな気分になってしまうギルバートだ。
「ついでに、ノーウッド王国が介入してきた場合も、私が交渉してやろう」
「――――よろしいのですか?」
「ああ、いいよ」
あまりにあっさりし過ぎで、あまりに――快く同意してくれて、ギルバートも言葉が出ない。
普段のレイフの性格で言えば、ここらで、手厳しい文句の一つや二つ、出てきてもおかしくはないのに……。
「そんなに驚くことでもないだろう?」
「いえ、あの……」
「私など、初めから、お前の我儘を、反対もしていなかったではないか」
「そう、なのですが……」
その点も、ギルバートはずっと不思議だった。
国王陛下であるアルデーラには、ギルバートの我儘を許してもらった。
その報告を聞いて、おめでとう、と言ってきたのはレイフだ。文句もなければ、反対の一つもなかった。
「どうするのだ? 私の助力が必要なのか? いらないのか?」
「いえ――どうか、お願いいたします」
切羽詰まって切実なだけに、ギルバートは座った姿勢で、深く頭を下げていた。
「画期的、前衛的な領地の統治方法や運営方法は、王国でもきっと役に立つだろう。多種多様な政策も興味深い。だから、王国に嫁いできた後に、その経験と知識を生かして、王国の為に働いてもらうべきだろう」
「それは――ご令嬢に、政に関わらせる、とおっしゃっているのですか?」
「そうだ。そのような能力、手腕、知識、経験は、簡単に手に入るものではない。それを見逃していては、王国の発展などは遂げられないだろう」
「それは……私も、そう思いますが」
だが、この話の流れで行くと――ギルバートの結婚が決まったとしたら、隣国から嫁いでくることになる他国のご令嬢に、この王国の政にも、政策にも、口を突っ込んでいい、などとのお墨付きをもらったも同然の発言ではないか。
政官でもない。文官でもない。官僚でもない。
ただ、他国の貴族の令嬢、という立場なのに。
さすがに、この話の流れの展開には、ギルバートも驚きを隠せない。
「後は、国王陛下の承諾を得ることだけだろう」
「はい。その際には、正式な婚姻契約書を提示しようと考えています。もし、迷惑でなければ、その確認も、していただけないでしょうか?」
「ああ、いいよ」
「ありがとうございます」
予想外に、今夜のお願い事は、全く問題もなく、あまりにあっさりと、レイフの承諾を得て終えていた。
ギルバートは手を後ろで組み、真っ直ぐな姿勢で起立していた。
ギルバートの目の前では、執務室の机の向こうで、国王陛下であるアルデーラが書類に目を通している。
死刑の判決を待つ囚人……は、大げさすぎる表現かもしれないが、それでも、今のギルバートは、国王陛下の最終判決を待って、神経質になりがちな緊張と戦っていた。
書類を全部読み終えた国王陛下が、顔を上げる。
「お前の意向を、全て支持する」
ほっ……と、ギルバートの全身の力が抜けてしまっていた。
「……ありがとうございます」
まず、アトレシア大王国側の準備は、全て整った。
あとは――年が明け、ギルバートの一生を左右する、運命のその日を待つのみ――――
これで、Part2完結になります。この半年、長かったです。一気に書き上げ、投稿しました。
エンジョイしていただけたでしょうか? 今までお付き合いくださって、本当にありがとうございます。
ギルバートの期限も迫りつつあり、これからの展開がどうなることでしょう。また、Part3にて、お会いしましょう。
次回の投稿は、12月19日(月)を予定しております。乞うご期待 •͙‧⁺o(⁎˃ᴗ˂⁎)o⁺‧•͙‧⁺





