* Е.г 恒例の *
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「セシルさん、今年も、豊穣祭は、盛況な賑わいでしたわね」
「ええ、そうですね。今年も、それほど問題なく済みまして、安堵しています」
「それは、よかったですわ」
恒例の、豊穣祭の次の日に開かれる、後祭りの朝食会には、昨日、警備をしていて参加できなかった騎士達や、護衛達が邸の庭に集まっていた。
その賑わう輪の中で、伯爵家も、朝食用に用意されたテーブルを囲み、食事を済ませていた。
今年も、セシルの好意で豊穣祭に参加することがギルバート達も、朝食会には招待されていて、伯爵家の家族が揃うテーブルに座っていた。
昨日のごちそうをたくさん頂いて、お茶を飲みながら一息し始めた頃、先程はずんでいた会話が落ち着いた頃を見計らい、伯爵家夫人のレイナが、おっとりとして、会話を続けていく。
「ねえ、セシルさん?」
「なんでしょう?」
「セシルさんの治める領地も、ここ数年で、随分、大きくなったことだと、思いませんか?」
「ええ、そうですね」
「これも、セシルさんの並々ならない努力の成果だと、わたし達は、とても誇りに思いますよ」
「ありがとうございます、お母様」
おっとりとした様子が変わらず、うふふと、レイナも嬉しそうに微笑んでいる。
「領地も繁栄し、領民たちの暮らしも、随分、落ち着いてきたようにも見えますわ」
「そうですね。一応は」
「そうですわよね」
なんだか、趣旨の分からない会話が続いて、態度の変わらないセシルの胸内でも、少々、訝しみが上がってきてしまう。
「ですからね?」
「なんでしょう?」
「もう、そろそろ、恒例行事など――おやめになっても、よろしいんじゃないかしら? ――なんて?」
やっと、本題に入ってきたようで、どうやら、今回は、その話題を話したかったらしい。
「もう、経済的にも余裕がない――という状況でも、ありませんでしょう?」
「そうですね」
「ええ、そうでしょう? ですから、もう、その必要は、ないんではないかと。――ね?」
先程から、おっとりとした様子は変わらず、かわいらしく首を傾げるレイナの横で、父である伯爵家当主さまも、弟のシリルも口を挟まない。
どうやら、今回の件は、家族全員一致の話題だったようだ。
「必要は、ないでしょうね」
「ええ、そうでしょう?」
「ただ、恒例――というか、邪魔なものでして」
すっぱり、きっぱり、のセシルに、おっとり微笑んでいるレイナの表情も崩れない。
「まあ、そうですわねぇ……」
この会話の前後関係、またはその要旨を知らない、理解していないギルバートとクリストフ達には、この会話が、一体、何を示唆しているのか想像も及ばない。
「そのように、心配なさらないでください、お母様。大したことでもありませんわ」
そうかしらぁ……と、にこやかな笑みを保っているレイナの笑みは、まだ、崩れない。
口を挟まないヘルバート伯爵とシリルも、賛成しかねていない様子なのに、まだ口を挟まない。
もしかして……家族内だけの重要な話し合いをしている場に、ギルバート達は居合わせてしまったのだろうか。
だが、セシルは全く気にした様子もなく、ギルバート達を朝食の場に呼んでくれた。
全く趣旨が解からない会話に挟まれて、ギルバート達も(密かに) 困惑気味だったのだ。
朝食を終え、その場で、ギルバートもヘルバート伯爵家の皆に挨拶を済ませると、後は、出立だけだった。
それぞれのあてがわれた客室で荷物を簡単に整理し、使用人に手渡した場で、自分の支度の済んだクリストフがギルバートの部屋にやって来た。
すぐに、残りの二人も揃うことだろう。
「もう時間になりましたね」
「ああ、そうだな……」
去年と同じ、恒例……ではないが、それでも、コトレア領を去るこの時が、一番気が重い。
セシルに挨拶を済ませれば、今のギルバートにはセシルに会える理由がなくなってしまう。言い訳もなくなってしまう。
アトレシア大王国に戻れば、それこそ、簡単に会えることなどできない。
次の理由を考えようにも、今は……全く、そんな行事が思い浮かばない。
その事実が一気に胸にのしかかってきて、どよ~ん……と、ギルバートが更に気落ちしてしまう。
激しく落ち込んでいるギルバートの様子を見下ろしながら、クリストフも、今日のところは、慰める題材がない。
こうなると、アトレシア大王国に戻っても、きっと、ギルバートはしばらく浮上しないままなのは目に見えている。
クリストフの方だって、溜息をこぼしたくなってしまう。
邸の使用人から馬の用意が整ったとの知らせが届き、ギルバート達は客室を後にし、玄関先にゆっくりと向かう。
階段を降りていく先で、廊下の向こう側からセシルとシリルが見送りの為にやって来るのが見えてきた。
階段を降り、玄関先で、ギルバートはセシルを待つ。
ただ……なにか、ギルバートには違和感があるのは気のせいではないだろう。
ギルバート達を見送りにやってきたセシルの姿を一目見て――ぱちくりと、ギルバートが大きな瞬きをした。
「――――その髪を、どうなさったのですか……?」
「邪魔でしたので、切りましたの」
あまりに何でもないことのように話すセシルを前に、ギルバートとクリストフは、言葉もなく、二人揃って顔を見合わせていた。
ギルバート達の前にやって来たセシルは、ズボン姿で、これから、また、忙しく領地内の確認と視察に行く予定なのは、すぐに見て取れた。
この姿も、今日この頃では見慣れたもので、驚くこともなくなった。
それで、驚いたのではない。
サラサラと、癖のない真っ直ぐな銀髪が肩を流れ、そして、動く度に、その背中を揺れていた。
なのに、今のセシルの髪の毛は――それが全部なくなってしまっていたのだった。
肩すれすれになるくらいの長さで、あの長い銀髪が切りそろえられた長さだけがあり、ボブになっていたのだ。
「――――邪魔、でお切りになったのですか……?」
「ええ、そうです」
だが、貴族の令嬢なら、長い髪の毛も、貴族の子女としてのステータスの一つではなかったのだろうか?
はっきり言って、ギルバートの知っている貴族の令嬢やら、子女は、全員、髪の毛が長い。
ストレートだろうと、カールがかかっていようと、形には関係なく、全員が長い髪の毛をしていた。
それは女性らしさの象徴だったのか、貴族令嬢の象徴だったのか、髪の毛の短いご令嬢というのは、ギルバートも、今まで、一度もお目にかかったことがない。
セシルの隣にいたシリルが、ふぅ……と、なにか、諦めたような溜息をこぼした。
「姉上には、三年に一度、ご自分の髪の毛を切る習慣がございまして……」
「――なぜ、ですか……?」
「初めは、領地の収益がほとんどない状態でしたので、それでも、売り飛ばせるものはなんでも売り飛ばし、まず、開発資金を目的としていたのです――」
「えっ?! ――ご令嬢の髪の毛でっ?!」
さすがにその理由に驚いて、失礼と分かっていながら、ギルバートが口を挟んでいた。
「はい、そうです」
「あら、そんな大げさな理由でも、問題でも、ないんですのよ」
「いえ……」
「ただ、私の髪の毛は銀髪で、まあ、銀髪も探せば周囲にはいるでしょうから、それほど珍しいものではないのですけれど、それでも、真っ直ぐサラサラの髪の毛は高く売れる、と言われましてね」
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