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Е.в 眠り姫 - 05

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* * *



 重い(まぶた)を開けてみると、もう、朝がやってきていた。


 カーテン越しでも、明るい陽射しが視界に飛び込んできて、ああぁ……と、セシルも溜息をこぼす。


「……疲れたぁ……」


 体が重い。動きたくない。だが、今日も一日が始まっている。

 寝坊をしているわけにもいかない。


 それで、仕方なく、モソッと、ベッドで起き上がっていた。


 すぐに、自分の視界に深紅の色が飛び込んできて、そこで、セシルの目が一気に覚めていた。

 まだ、ドレスを着込んだままで寝入ってしまったらしい。


 昨夜の記憶をたどって見ても――馬車に乗り込んだ後からの記憶がない。

 そうなると、馬車に乗り込んで、グースカ寝入ってしまったらしい。


 ベッドの横にあるサイドテーブルの上の呼び鈴を鳴らすと、すぐに、オルガが寝室に入って来た。


「おはようございます、マイレディー」

「おはよう、オルガ」


 オルガがベッドの側まで進んできて、セシルの前で一礼した。


「お疲れなのですから、もう少し、お休みになられたらいかがですか?」

「いえ、もう大丈夫よ。それより、一体、誰が、私をベッドに運んでくれたのかしら?」

「王国騎士団の副団長様でございます」


 うわぁ……!


 これは、セシルの大失態である。


 隣国の騎士団のあの二人の前で、グースカ寝入ってしまっただなんて。


 おまけに、熟睡――いや、爆睡して意識もないセシルを抱えて、わざわざ、ベッドに運んでもらっただなんて、なんて恥ずかしい失態をしてしまったのだろうか……。


 寝ている人間など、死体同然の重さである。

 きっと、セシルを運ぶのだって、ものすごく重かったことだろう。


 大失態である……。



(……うわぁ……、なんて、恥ずかしい真似を……。穴が入ったら入りたいですわ……)



 グースカ眠りこけている寝顔まで見られて、恥ずかしくて、今朝は、あの二人の騎士に会わせる顔がないが、朝食会には、あの二人も招待されている。


 逃げ道はない。


 ふう……と、息を吐き出して、セシルもそこで諦めていた。


「着替えます」

「かしこまりました」


 セシルはベッドから出ると、背中を緩めてあったらしいドレスの肩が、少しずつ滑り落ちてきた。

 そのままで、セシルはクローゼットの方に向かい、オルガが静々とセシルの後をついてくる。


「マイレディー、今日は仕事をなさってはいけませんよ。お疲れなのですから、きちんと休まれなければ、マイレディーが倒れてしまいます」

「そうですねえ……」


 ここ数週間の疲れが、ドッと、出てきている状態だけに、セシルも、今日はのんびりするべきか。


「今日は、孤児院の訪問だけにします」


 その返答にも、オルガはあまり賛成しているようでもなかったが、文句は出てこなかった。


 簡単に着替えを済まし、朝の身支度を終えたセシルは、その足で、客室が続く廊下を進んでいた。


 昨夜は疲れていて、速攻で熟睡してしまっただけに、自分がどんな状態で、顔で、グースカ眠りこけてしまったのか覚えていないし、分からない。


 考えたくもない、話題ではある……。


 あぁ、あまりにひどい顔で、寝こけてしまっていなければいいのだけれど……。


 別に、殿方に(こび)を売る気もないが、さすがに、赤の他人である隣国の騎士(おまけに王子サマ)の前で、グースカ眠りこける女などいないだろう。


 いびき……なんて、かいてないといいのだけれど……。


 ちょっと恥ずかし過ぎて、穴があったら入りたい心境ですねえ。





 すぐに、目的の客室のドアの前にやって来て、セシルは、一度、軽い深呼吸をする。

 トントンと、軽くドアをノックした。


 部屋の外で誰かが来たらしい気配は感じていたが、特別、警戒を見せていなかったギルバートとクリストフは、ただ、ドアの方に視線を向けていただけだ。


 すぐにクリストフが立ち上がり、ドアに向かっていく。


 扉を開けると、ドアの外にセシルが立っていたのを目にして、クリストフが、スッと、軽い一礼をした。


「お早うございます」

「おはようございます。朝早くからお訪ねしてしまいまして、申し訳ありません」

「いいえ。どうぞ、お入りください」


 扉を大きく開け、セシルを部屋の中に招き入れる。


 部屋にある長椅子に座っていたギルバートがセシルの姿を目にして、すぐに立ち上がっていた。


「お早うございます、ご令嬢」

「おはようございます。このように、朝早くからお訪ねしてしまいまして、申し訳ありません」

「いえ、お気になさらないでください」


 ギルバートもクリストフも、セシルが来る大分前から起きていて、着替えも済まし、朝の支度は済ませていたのだ。


 今朝は、豊穣祭後の恒例の朝食会があるから、朝食はいつもと違い、八時頃になる。それで、呼ばれる時間まで、二人は客室で時間を潰していただけなのだ。


「どうぞ、お掛けください」

「ありがとうございます」


 ギルバートの向かいの席を勧められ、セシルも簡単に腰を下ろした。

 ギルバートがそれを見て、またゆっくりと椅子に腰を下ろす。


「昨夜は、お二人にも、大変、ご迷惑をおかけしてしまいましたので、その謝罪を、と……。馬車の中で寝こけてしまいまして、本当に失礼をいたしました。おまけに、寝ている私をベッドに運んでくださって……。大変、ご迷惑をおかけいたしました……」


「そのようなことは、気になさらないでください。お疲れのようでしたので」


 疲れてはいた。


 だが、グースカ寝入っているセシルを抱えて、ベッドまで運んでくれたのは――この会話からしても、きっと、ギルバートなのだろう。


 熟睡している人間なんて死体並みの重さで、おまけに、グースカ寝こけている寝顔まで見られてしまって、最悪……である。


 ああ……、なんて恥ずかしい失態をしたものかしらぁ……。


「本当に……申し訳ありませんでした」



読んでいただきありがとうございました。

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