Е.в 眠り姫 - 03
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背中はシリルが押さえてくれているから、そのまま、ゆっくりと慎重に踏み台を後ろ向きに下がっていき、セシルを馬車の中から連れ出すことに成功していた。
「マイレディーは?」
イシュトールが、小声でギルバートに聞いて来た。
「疲れているようですので、運ぶのをお手伝いします」
「そうですか。わかりました。邸の者に指示を出してきます」
「わかりました」
イシュトールはその場をユーリカに任せ、邸の方に走っていく。
扉から執事も丁度姿を出してきた時で、何事かと、走って来たイシュトールが何かを説明しているようだった。
その間、ギルバートは屈んで片膝をつき、器用に、そっと、セシルの腰を自分の膝の上に座らせるようにした。
セシルは疲れ切っていって、動かさないように慎重に動いているギルバートの傍でも、目を覚ますことはなかった。
「ドレスの裾を持ってください」
「はい。わかりました」
すぐに、シリルも屈んで、セシルのドレスの裾を足に巻きつけるようにして抱える。
ギルバートは、自分の肩に寄りかからせているセシルを片腕で支え、シリルが持っているドレスの下で、反対の腕を膝下に滑り込ませた。
「大丈夫ですか、ギルバート様?」
「ああ、問題ない」
抱えている腕でもう一度セシルを支え直し、ギルバートがそこで立ち上がっていた。それで、セシルを抱え直して抱き上げる。
きちんとギルバートが立ち上がったのを見て、シリルが、ホッと、安堵の息を吐き出した。
「申し訳ありませんでした」
クリストフに謝罪したシリルが、クリストフに預けていたトレーを、もう一度、持ち上げる。
「いえいえ。そのようなことは、全く問題ではありませんから、気にしないでください」
「ありがとうございます」
申し訳なさそうなシリルがトレーを持ったまま、また頭を下げるので、クリストフも少し困った顔をしている。
「マイレディーの部屋の準備は、整えております。お手数をおかけいたしますが、どうぞ、邸の中へ、お入りになってください」
すぐ傍までやってきた執事が、ギルバート達を促した。
「わかりました」
執事を先頭に、ギルバートはセシルを抱き上げたまま、邸の中に入っていった。
そこで待機していた侍女達が、ギルバートの姿を確認すると、全員が頭を下げる。
「マイレディーの寝室は、客室側とは反対の二階になっておりますが……」
「問題ありません。そのまま、案内してください」
「はい、かしこまりました」
それから、廊下を抜け、階段を上り、セシルの寝室へと続く廊下をゆっくりと進んで行くと、扉の前で、セシルの付き人である侍女が二人待っていた。
ギルバートの姿を見ると、二人が深く頭を下げていく。
扉を通り過ぎて部屋の中に入っていき、すぐに、オルガがギルバートの後についてきた。
「ベッドは、こちらでございます」
「ああ、わかった」
オルガに案内され寝室に進んで行くと、ベッドのカバーはすでにまくられ、ベッドでいつでも寝れるようになっていた。
ギルバートは、そっと、セシルをベッドの上に寝かせていく。
ドレスを着たままのセシルのドレスの裾もベッドに乗せて、最後に、上半身を寝かせていく際に、セシルの長い髪の毛を腕でかきあげるようにして、枕に頭を乗せていた。
オルガが、すぐに、セシルの履いている靴をそっと脱がせていた。
「ドレスを脱がせないと、ダメだろうか?」
「それは…………」
ちらっと、セシルを見やっても、全く目を覚ます気配がないほど、セシルはぐっすりと眠っている。
もう、ずっと、多忙を極めていたセシルを知っているだけに、オルガだって、今のセシルを起こしたくはない。
「ドレスは窮屈かもしれないが――ドレスを脱がせている間に、目を覚ましてしまうかもしれない。今夜は、このまま寝かせることはできないかな?」
「それは……」
「あまり動かさないように、背中だけ緩められないかな?」
パっと、オルガが、後ろにやってきたシリルを見返す。
「それは、問題ございません……」
「じゃあ、そうしてあげて? ドレスが、少し、しわになってしまうけれど、今は、姉上を休ませてあげたいから」
「はい、かしこまりました」
オルガは、まず、セシルの手袋だけは脱がすようだった。
スルスルと、簡単に腕の部分から手袋を滑らせ、固まった手袋も簡単に手から外れていた。
長く細い白い腕が、シーツの上で伸びていた。
そして、真っ白なシーツの上に広がる深紅のドレス。
まるで、大輪の薔薇の花がベッドの上で咲き誇っているかのような艶やかさで、それとは対照に、眠っているセシルは儚げな美女だ。
そんな艶やかな薔薇に囲まれた、儚い眠り姫だ。
「副団長様、姉上を運んでいただきまして、本当に、ありがとうございました」
シリルが丁寧に深く頭を下げる。
「ああ、そのように気にしないでください。とてもお疲れのようでしたからね」
「ありがとうございます」
「いえ、お力になれたようで良かったです。我々は、このまま部屋に戻らせてもらっても構いませんか?」
「もちろんです」
「では、お送りいたします――」
「ああ、気にしないで。今夜は、もう遅くなってしまいましたから。世話も必要ありません」
「ですが……」
「気になさらずに。我々は、このまま休ませてもらいますので、大丈夫です。それでは、このまま部屋に戻っても、よろしいですか?」
「もちろんです。今夜は、ありがとうございました。どうぞ、ごゆっくりお休みください」
「ありがとうございます」
それでクリストフに合図して、ギルバートとクリストフは、ゆっくりとセシルの寝室を後にしていた。
その二人の背に、全員が丁寧に頭を下げる。
さっき来た廊下を戻り、客室側の棟に向かって、ギルバートとクリストフは、ゆっくりと足を進めていた。
それからすぐに、あてがわれた客室に戻って来て、扉を開けて通り過ぎていくギルバートは、部屋に一歩入ると、ふう……と、長い息を吐き出していた。
「大丈夫ですか、ギルバート様?」
「ああ、私は問題ない」
スタスタと、部屋の中に足を進めながら、制服の留め金を緩め、手慣れた風に、着ているジャケットを脱いでいた。
クリストフが手を出すので、簡単に脱いだジャケットを手渡す。
ジャケットを受け取ったクリストフは、近くにあった椅子の背に、ジャケットをかけていた。
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