Е.в 眠り姫 - 02
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「ご令嬢の観察眼は、目を見張るものがあります。きっと、その能力がおありだから、他の者が見逃してしまいそうなことにも、ご令嬢だけがお気づきになれるのでしょう」
「ええ、私もそう思います。姉上は、本当に、そういったことに、長けていらっしゃるお方ですから」
「もしかして、豊穣祭の準備があっても、子供の世話もなさっていらっしゃったのですか?」
「はい。午前と午後に2時間ずつ、子供の様子を確認しながら、一緒の時間を過ごしていらっしゃいました」
それでも、午前と午後の二回も。それだけで、すでに半日は費やしてしまうことになってしまう。
それなら、その間にできなかった仕事が繰り上がって、夜まで持ち越されていたとしても、全く不思議ではない。
「今回は、豊穣祭間近と言うこともあり、ああいった事情の子供でも、豊穣祭を経験すれば、少しは気持ちが高揚してくれる良い機会だと思いますので、それで、少しでも早く、領地に慣れてくれれば良いのですが」
「他にも、そのような――事情のある子供がいるのですか?」
「はい。今は、十人程います。そういう子供達は、小学でも、特別クラスに入れられます」
「特別クラス? それは、なんでしょう?」
「特別クラスの子供達には、つきっきりの世話役が必要となります。そして、交代制であっても、毎回、同じ顔で、同じ人でなければなりません」
先生が毎回変わると、知らない大人がとっかえひっかえやってくると思い、子供が怯えてしまって、大変なことになるものだから……。
「孤児院でも、仕事がフルタイムでない歳年長組の十二歳の子供が、それでも、しっかりとした子供が、お兄ちゃんやお姉ちゃんとして、世話をしてもらうこともありますが、特別クラスの子供達の世話は――時間がかかるものなのです」
「ずっと、特別クラスのままなのですか?」
「いいえ。時間がかかっても、最終的には、普通のクラスに交じることができまして、それからは、他の孤児院の子供達と一緒に、生活をしていくことができるようになるのです」
「その間、ずっと、ご令嬢が世話をしていらっしゃるのですか?」
「はい。姉上は、心の機微などを感じることが、とても長けていらっしゃいますが、それとは別に、きっと、姉上の存在自体が、子供達には安心できるのでしょう。姉上は、滅多なことで感情的になったりしませんし、声を上げることもありません。驚くことが少ないので、子供達にとっては、感情的でない大人の姉上は、恐怖の対象にならないようなのです」
「そうでしたか」
「事情のある子供でも、徐々には、領地にも慣れていきますし、周りの子供達とも、仲良くなっていけるものなのです。時間はかかりますが……」
「いつもは、どのくらいなのですか?」
うーんと、その時は、シリルも思い出すように少し考えている。
「私が――知る限りで、一番長かったのは、四年くらい? ――でしょうか」
それでも、セシルだってまだ子供であったはずなのに、それだけの長い時間を費やし、子供達を怯えさえないように、そうやって見守って、世話をしてきていたのだ。
簡単なことじゃないと、分かっていた。
だが、そんな見えない努力の長い積み重ねで、一体、セシルは、今まで、何人の子供達を救ってきたのだろうか。
「一度だけ、ひどい時は――腕を噛まれたことがありました」
「噛まれたっ?!」
ギョッとして、ギルバートが聞き返してしまった。
「はい。幸い、傷跡は痕が残らない程度のものでしたから、良かったですが、もう、大暴れして、大変だったそうです。それだけ――事情があったのでしょう……」
「――その、子供は?」
「今は、他の子供達と一緒に、生活をしています。仕事をすることも、問題なく」
「そうですか……」
「今回は――言葉がほとんど喋れないだけに……、姉上が付きっ切りになると思いますが……」
浮かない顔をみせるシリルの心配も、今のギルバートは、すぐに理解していた。
それだけ――複雑な事情のある子供を引き取るなど、容易なことではない。
四六時中、誰かが一緒にいなければならなくて、世話をするにも言葉が喋れなくて、それなら、本当に、手取り足取り、一から全てを教えていかなければならないのだろう。
「――――辛抱強さ、などと言う次元では、もう、ないでしょう……?」
「私も、そう、思いますが……」
それでも、セシルはきっと両腕を広げて、誰であろうと、全員を受け入れてくれるのだろう。
受け止めてくれるのだろう。
「人」として生きる機会を与える為に――――
動いていた馬車が止まり、サッと、窓を確認すると、もうすでに邸に着いていたようだった。
「ご令嬢を運ぶのを、お手伝いしますね」
「ですが……」
「お疲れのようですから、ここで起こしてしまうのは忍びない。私が抱えますので、シリル殿は、その間、手伝ってもらえませんか?」
「……本当に、よろしいのでしょうか?」
「ええ、構いません」
「では、よろしくお願いいたします」
「では、それは、私が持ちましょう」
クリストフが手を出して、シリルが持っているトレーを指した。
「では、お願いいたします」
座っているのに、シリルが丁寧に頭を下げるので、クリストフも、少々、微苦笑をみせ、トレーを受け取った。
外から扉が開けられたので、まず、クリストフが先に外に出ていた。
次いで、ギルバートが外に出ていく。
だが、外に出たギルバートは向きを変え、そこに膝をつく。
「あの……」
ギルバートが馬車の入り口で膝をついて、なんだか、体だけを前のめりさせたので、イシュトールとユーリカが驚いて目を輝かせた。
ギルバートが少しだけ顔を二人に向け、人差し指を口に当てる。
しっ、とその動作だけで二人に合図する。
「私の肩に乗せるようにしてください」
「わかりました」
膝をついて屈んでいるギルバートが、そっと、そっと、眠っているセシルの体を前に倒すようにして、まず、自分の右肩にセシルの顔を乗せることに成功した。
動かさないように、刺激しないように、ギルバートがセシルの体を引っ張る傍ら、シリルも背中側から、セシルを前に押し出すようにする。
ふっと、全身の体重が前にかかってきて、それで、ギルバートがセシルを肩に半分担ぎあげるようにして、その反動で、片腕で支えながら、セシルの足を囲むことができた。
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