* Е.в 眠り姫 *
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ギルバートの瞳が、微かに上がっていた。
「ご令嬢?」
そっと、ギルバートが確かめるように、小声で声をかけてみた。
それで、心配そうに、暗がりでも、前に座っているセシルの顔を覗き込むようにした。
「大丈夫ですか?」
パっと、シリルがセシルを振り返り、
「あのっ、これをお願いします」
咄嗟に、持っていたトレーを、シリルがクリストフに押し付けるような形で、差し出してきた。
シリルもギルバートと同じように、隣に座っている姉の顔を覗き込むようにした。
暗がりでも分る、セシルは微かにうつむいて、眠っていたのだ。
それが分かって、シリルが安堵の息をこぼす。
「どうやら、全員に『祝福』 のケーキをあげ終えたので、気が抜けてしまったようです」
「そう、ですか」
宿場町でも、『祝福』 の儀式を終えたセシル達は、馬車に乗り込んで、あとは邸に戻るだけだった。
だが、ギルバートの目の前に座っているセシルは、馬車に乗り込んで数分もしないのに――なんだか、うつむいてしまったので、ギルバートが驚いて声をかけていたのだ。
まさか――馬車に乗り込んですぐに、眠りに落ちていたなど思いもよらず、ギルバートとクリストフも、かなり素直に、その驚きを顔に映していた。
シリルが手早く自分の着ているジャケットを脱ぎ、そっと、セシルの肩からかけるようにする。
それで、クリストフに向き直ったシリルが、頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
「いえいえ。お気になさらずに」
シリルは、律儀に、クリストフに預けたトレーを、また持ち直していた。
「姉上は、ここずっと、多忙なものでしたので」
「昨年も、豊穣祭の準備期間中も、豊穣祭の間も、休まる暇がないほどでしたね」
「はい、そうです。大抵はそうなのですが、ここ数日は――少々、徹夜並みの仕事をなさっていらしたので……」
「そうでしたか。そのような多忙な時に、我々が押し寄せてきてしまい、申し訳なく思っております」
「いえ、皆様がいらっしゃることは、全く問題ではありません。他国からいらしてくださるゲストは、中々、いません。ですから、姉上も、皆も、ゲストがいらしてくださって喜んでいます」
「そう言ってくださり、安心しました。無理をお願いしてしまったのではないかと思いまして」
「いいえ、そのようなことはございません。ただ――今回は、少々、仕事が詰めていましたものですから……」
深く説明しないシリルの口調は、なんだか濁ったものだ。
「なにか、あったのですか?」
シリルはそれを話そうかどうか迷った顔を見せたが、すぐに気を取り直して、ギルバートを見返す。
「はい。今回は、豊穣祭が始まる二週間前に、急遽、孤児を引き取ることになったのです。それで、姉上は王都に戻り、孤児を引き取り、そのまま、また、領地に戻って来なければならなかったものですから」
豊穣祭の準備期間で多忙を極めるセシルが、その仕事を途中でやめて、わざわざ王都に戻り、孤児を引き取らなければならないほどの、急遽、というほどの理由だったのだろうか。
「ご令嬢が、いつも、孤児を引き取りに行かれるのですか?」
「その時々によりけりですが、今回は……緊急の要件でしたので、姉上が、王都に出向いたのです」
「緊急? なぜ、ですか? ――これは、込み入った質問でしたか?」
「いえ、構いません。隠していることではありませんので。緊急――で、孤児を引き取る時は、少々、事情が込み入っていることが多いのです」
深くは説明しないシリルだったが、ギルバートもクリストフも、すぐに、シリルが口に出さない事情を理解していた。
孤児となる子供は――大抵、孤児達が集まる区域や、果ては、スラム街に追いやられることが多い。
そんな中、大人の保護がない子供達だけでの安全を確保することなど、とても難しいことであることも、ギルバートもクリストフも知っていた。
貴族のお坊ちゃまとは言えど、二人だって、王国での騎士団の騎士である。
王国騎士団は、王都の警備も任されるだけに、王都でお綺麗な仕事ばかりをしている騎士達ではない。
「それで、ご令嬢が、わざわざ、王都に向かわれたのですか?」
「はい、そうなのです。それで、行き来で六日ほど費やしてしまいましたので、帰って来てからの仕事が詰めていまして、皆様がいらっしゃる数日前は、少々、徹夜のようなことをなさっていらしたのです」
「そうでしたか。それでも、六日など、随分な強行軍ではありませんか? この領地から、ノーウッド王国の王都までは――」
「アトレシア大王国の王都に向かうほどの日程と似ています。馬車で五日、または六日ほどです」
それなのに、行き来が六日など、ずっと騎馬で走り続けていたことになる。
「子供が少ない時には、持ち運びのできる椅子のようなものを背負うことができるので、きっと、子供をその椅子に乗せ、騎士の一人に、背負ってもらっていたのでしょう」
「そうでしたか」
「それで――帰って来てからも、姉上は忙しく……」
口を濁すような喋り方のシリルの口調が、少し硬いように聞こえるのは、気のせいではないだろう。
「問題、だったのですか?」
「いえ……。ただ、込み入った事情のある子供を引き取る時は、少々、気を付けなければならないのです。事情のある子供というのは――こう言ってはなんですか、精神的にも、ひどく傷ついている子供が多くて……。それで、大抵、いつも、姉上が最初の世話をしていることが多いのです」
「ご令嬢自らですか? 確か、世話係がいると、お聞きしましたが」
「世話をする女性はいます。ですが、心が――荒んでいたり、ひどく傷ついている子供の世話は、注意が必要なのです」
なにが引き金となって、子供を更に怯えさせてしまうか、怖がらせてしまうか分かりらないから……。
「ですから、大抵は、姉上が最初の世話をすることが多いのです。姉上は、昔から、人の心を読むと言うか、感じることに長けていらっしゃって、そういった心の機微を見逃さないお方ですから、問題のある孤児の扱いは、姉上が最初に世話をして、管理することが多いのです」
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