Е. б 豊穣祭 - 02
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「慣れて……来たかもしれませんが、それは、姉上の行動に慣れて来たのであって、きっと、スピードやボリュームには……どうでしょう。姉上が全力を出すと……そうですね……、誰一人、追い付ける者がいないものですから……」
「そうなのですか? 誰一人? では、領地での官僚や運営をしている者は?」
「彼らだって、毎回、毎回、追いかけて行くのがやっとだと思います。姉上は……そうですね……、なにしろ、物事の解決が(異常に) 早いものですから……。私が知る限りでも、気が付いたら、全て問題が片付いていた、という場面ばかりを見ています」
それ……ギルバート達と、ほぼ同じ状況ではないのだろうか。
まさか、身内のシリルまで、ギルバート達と同じ経験をし、領民までも、セシルの勢いについていけなかったなど、これまた驚きである。
「もしかして……呆気に取られてしまうことや、呆然としてしまうことなど?」
「よくあることだと思います。珍しいことではありませんから」
なるほど……。
セシルはどこに行っても、その勢いが止まらないのだろう。
それも、ある意味、すごいことだ。
「今日も……なにか、為になることを学びました……」
学んだのかは知らないが、これでも驚きのニュースである。
ギルバートの様子を見ているシリルも、少しだけ笑いを堪えているかのように、口をすぼめてしまう。
「皆様、そろそろ大通りの方に移動なさいませんか?」
“初めてのお買い物”の儀式が終わったようで、颯爽とセシルがギルバート達の方に近付いて来た。
今朝のセシルの整いは、セシルの瞳と同じ藍色をベースとしたドレスで、合わせるように薄い水色のドレープのかかったドレスがヒラヒラと流れ、晴天の下、太陽の日差しを受けてキラキラと輝いているセシルは、妖精が舞い降りて来たかのような可憐さだ。
ギルバートなど、一人、セシルが美しいなぁ……などと、感動してしまっているほどだ(重症である)。
「もう、“初めてのお買い物”のイベントは終わったのですか?」
「ええ、そうですわね。皆、張り切って、露店の方に駆けて行きましたわ」
子供達を見送ったセシルの表情も、嬉しさが滲んでいる。
去年、セシルが言った言葉だ。
「何度見ても、微笑ましい光景だと思われませんか? 初めてのお買い物。それも、自分で稼いだ初めてのお金で、自分の好きなものを買えるという実感は、もう、きっと、何にも代えられない瞬間だと思うのです」
ギルバートもセシルに全く異論はない。
元気よく、興奮した様子で、子供達がしっかりと財布を握りしめながら露店に駆けて行く様子は、何度見ても、心がほっこりと温かくなるシーンだ。
自分でできることがあって、自分で好きなものが買えて、何にも代えがたい一瞬だろう。
セシルに促され、ギルバート達も大通りの方へと足を進める。
「今年も賑わっていますね。もう、たくさんの観光客が訪れているようですから」
「ええ、そうですね。昨夜のうちに、かなりの観光客が到着したようです。皆さん、朝から張り切って豊穣祭に参加できるように、今年は、泊まり込みの観光客も多く出そろっているようですわ」
「そうなると、簡易宿泊所も満杯ですか?」
「そう、なるのではないかと、私達も予想していますのよ」
それは、大盛況だ。
去年だって、簡易宿泊所をちらっとだけ見せてもらったが、大型のテントがズラリと並び、中には、簡易のバンクベッドが何個も並べられていたほどだ。
その数だって、かなりのものだった。
その宿泊所が満杯になるほどなど、かなりの数が豊穣祭に訪れていることになる。
「今年も、新しい露店が並んでいますので、皆様、どうぞ楽しんで行ってくださいね」
「ありがとうございます。今年は、どのような露店が加わったのですか?」
「食事関係の露店が色々と出てきましたのよ。デザートの方にも、少々、力を入れましたので、楽しみにしていてくださいね」
「それは、楽しみです。この領地の食事やデザートは、本当においしいものばかりでしたから」
ギルバートとセシルの会話をこっそりと後ろから聞いている、クリストフと二人の護衛も、ついつい、今日のお昼を待ち遠しくなってしまう。
新しい食事の露店。一体、どんな食事やデザートが出て来るのだろうか。待ち切れないものだ。
「そう言えば、“ロトベーカリー”も、今日の豊穣祭の為に張り切るぞ、と言っていましたね」
「初出店ですものね」
シリルとセシルが仲良さそうに笑い合っているのを横目に、ギルバートもある会話を思い出していた。
「ベーカリー? 確か、パン屋ができるかもしれない、というような会話を……?」
「あら? 覚えていてくれたのですか? ええ、そうです、今年は、領地にパン屋 (ベーカリー)ができましたのよ。すぐに、売り上げも上々で、繁盛をみせていますの」
「そうですか。確か……パンを売るお店、など?」
「ええ、そうです。大きなパンも売っていますし、簡単に、一人用で食べられるパンも売りだしていますのよ。今年の豊穣祭は初出店ですからね。お店側も張り切っているようですわ」
「“ロトベーカリー”、と言うのですか?」
「ええ、そうです。デザート用の焼き菓子なども、売り出すようにしていますの」
「そうでしたか」
「私も、つい、気になってしまい、お昼に立ち寄ってみたんです。サンドイッチや、焼き立てのパンもあり、パイ菓子などもたくさんありました」
おや? と、ギルバートもシリルを見返しながら、首を傾げてみせる。
シリルと、両親のヘルバート伯爵夫妻は、豊穣祭の三日目ほどの一番多忙な時に、セシルにコキ使われる、いやいや、手伝いをする為にやって来る。
去年も、三人が到着すると同時に、ものすごい量の仕事が回されていたような……。
「シリル殿、仕事の合間に、パン屋に立ち寄ったのですか?」
「ええ、そうです。いい匂いがしていたので、つい、気になってしまいまして」
お腹が空いていると、焼き立てのパンの匂いが鼻に届くと、つい、食べたくなってしまう気持ちは分かる。
おいしい匂いを嗅ぐと、お腹が更に空いてしまう、なんて。
「シリル殿は、まだ若いのに、豊穣祭の仕事を任されるなど、立派ですね」
「そんなことはありません。私は手伝い程度で、ほとんどの仕事は終わっていることが多いのです。私はその確認をする程度ですから」
「そうですか?」
その程度の仕事を、セシルが(こき使う) 手伝ってもらう為に、シリルに割り当てるとは思えない。
他の人間でもできそうな仕事と責任だからだ。
シリルはまだ成人もしていない少年である。それなのに、セシルに似ていて、年齢よりも落ち着いた行動をし、利発で聡明な少年だった。
セシルに仕事を(押し付けられ) 頼まれても、問題なく承諾し、それを簡単に終えているようにも見える。
慣れているからかもしれないが、まだ、成人もしていない少年なのに、随分と、セシルの手伝い役がはまっている少年だった。
なんだか、ちょっと見る限りでも、かなり将来有望な少年であるのは間違いない。
「皆様、私はここで失礼させていただきます。どうぞ、豊穣祭を楽しんで行ってください」
多忙なセシルは、豊穣祭当日でも仕事が止まない。きっと、これから、領地の重鎮達や商工会の代表役からの挨拶などを受けるのだろう。
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