表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/539

А.г せめてもの慈悲を… - 05

ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。

醜態(スキャンダル)? そんなもの、あるはずもない」


「それなら良いが。未婚でありながら、貴族の令嬢が姦淫罪(かんいんざい)――などと、あまりの恥で顔など出すこともできないのではないのかな? ヘルバート伯爵家が、そんなふしだらな娘がいる男爵家を許すとは思えないが。きっと、今頃、徹底して、()クロッグ男爵令嬢の粗探(あらさが)しでもしているかもしれないとは、考えないのか?」


 面倒で厄介事をヘルバート伯爵家に押し付けるなんて、なんて卑怯な宰相か。

 これなら、伯爵家と男爵家を引き合わせて、互いに戦い合えばいいだろう、などとけしかけているも同然だ。


 宰相自身が男爵など扱いたくないものだからと、先に裏でけしかけるなんて、卑怯じゃないか。


 うぬぬぬぬぬぬぬ、と男爵の顔が更に険しくしかめられ、唸り声が上がる。


「もし……もし、娘が侯爵家の息子と――もしも、恋人関係に()()親しい間柄だったとしても、姦()罪ではないだろう? それなら、きっと、一時の気の迷いだったはずだ。若い時は誰でもあるじゃないか? それなのに、刑罰を与えるなど、なんと非情な行いだ……。宰相、慈悲というものはないのか?若い娘なのだ、せめて、慈悲くらいみせてくれてもいいじゃないか……」


 その懇願は無視して、宰相は表情も変わらず口を開く。


「まだ、今()()()()自分の立場を理解していないのか?」

「だから、わしは、宰相に懇願しているのだ……。娘はまだ若い。間違いだっておこすものだ……。せめてもの慈悲くらい、いいじゃないか……」


「第二に、ホルメン侯爵家はお家お取り潰し、家名断絶の刑罰を受け、逮捕されている」

「逮捕? なぜ?」


「国家反逆罪で」

「国家……反逆罪? ――えええぇ?! なぜだ」


「理由はクロッグ男爵が知る必要はない。だが、()侯爵家令息が()男爵家令嬢と()()親しい仲にあったのなら、当然のこと、悪事の裏で、クロッグ男爵家を疑うのが定石の捜査方針ではないのか?」


「な、なにを……。まさか、わしを疑っているのか? わしは何もしておらん」

「その証明は?」

「証明? ――わしは何もしておらんっ」


 そこで、発狂したように、クロッグ男爵が大声で叫んでいた。


「うるさいな。一々、(わめ)き散らさないように。次は(つま)み出すが?」

「だが――わしは、なにもしておらん。なんで、知りもしない罪で、ホルメン侯爵家の悪事など、押し付けられなければならんのだ? 宰相、そんな陰謀で、わしを(おとし)めるつもりなのか?」


 三度目の警告は無視された。


 ここで、ちょっと、余談を。


 小さな子供のしつけは、三度繰り返しても言うことを聞かなかったら、“Time-out(反省)”場に送るという方法もある。


 だが、児童心理学者によると、三度ではないそうな。

 二度だけである。


 一度目に注意する内容をきちんと説明し、次に同じことを繰り返したら、即、“反省場”に、ということらしい。それで、二度目に注意する時は、さっきちゃんと説明したのに無視をしたから反省してきなさい――ということになるらしい。


 でも、宰相は――ものすごく面倒だが、仕方なく()()の猶予を与えてやったではないか。


「クロッグ男爵家に捜査が入り、自らのボロでも出さぬよう、()()()()()証拠隠滅でもしておくべきでは?」


 そうでなければ、クロッグ男爵家だって、国家反逆罪で捕縛・逮捕されてしまうだろうに――なんて?


「そんな……!?」


 やっと、宰相の示唆する意味を理解したようで、サーっと、一気にクロッグ男爵の顔が青ざめていた。


「最後に、貴様こそ、一体、何様のつもりだ?」


 もう、感情の機微もなく、声色もあまりに平らなまま変わらず、それを一語、一語、まるで頭の悪い子供に言い聞かせるかのように、区切りまでつけて、クロッグ男爵に叩きつけられた。


「男爵の分際で、先程から、随分と私を侮辱してくれたものだ」

「いや――それは、違う……。そんなつもりはない……!」


 宰相は侯爵である。国のトップを務める宰相で、侯爵家でも上位貴族。

 一男爵ごとき、気軽に話しかけられるような立場ではないのだ。


「無実無根の誹謗、非難をしてきたのは、一体、誰だと思っているんだ? 誰が、一体、理不尽な行い、ひどい対応、差別、非道、ヒトデナシ、慈悲もない、陰謀、(おとし)める――などという行為をしたと言っている?」


 そして、わざとに、その指をゆっくりと折って数えて見せる。


「数々の愚弄、誹謗、非難。全て無実無根のものばかり。不敬罪、侮辱罪で、即刻、捕縛されないだけ有難く思え」

「なっ――それは、誤解だ……」


 宰相は片眉をきれいに上げただけだ。


 ひっ……と、クロッグ男爵は息を呑み、

「いや――そうじゃない……。済まなかった……。わしも、娘が心配で興奮していただけなのだ。悪気はなかったのだ……。だから、今日の所は、見逃してくれ……」


「二度と私の前にその姿を出さないように。あの薄汚い娘同様、貴族籍剥奪――などという事態に(おちい)りたくなければ」

「ひっ……」


 ものすごい動揺のしかたで、その小柄な身体が後ろにひっくり返るほどの勢いで、男爵が飛び上がっていた。


「いや――悪かった……。本当に、悪かった……!」


 そして、脱兎のごとく、挨拶も済ませず、クロッグ男爵が執務室から逃げ去っていった。


 おいおい?


 ()()の娘の釈放要求はどうしたんだ?

 宰相に意見してきて、文句をブーブー垂れていた間抜けな父親はどうしたんだ?


 ええ、ええ。


 もちろん、宰相ですもの。

 うるさい(ハエ)が飛び回ろうが、(ハエ)叩きで一発、パシンッ――と叩き落すことくらい、朝飯前ですよ。


 やーっと、静かな執務室に戻り、宰相の仕事ができるというものだ。


 なにも、宰相の時間は、あの()()()()()()()だけの為にあるのではない。そして、間抜けなロクデナシの父親に費やすものでもない。


 やーっと、通常の仕事に取り掛かれるようで、本当に、うるさい(ハエ)だった。




読んでいただきありがとうございました。

一番下に、『小説家になろう勝手にランキング』のランキングタグをいれてみました。クリックしていただけたら、嬉しいです。


Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Funtoki-ATOps-Title-Illustration
ランキングタグ、クリックしていただけたら嬉しいです (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
小説家になろう 勝手にランキング

その他にも、まだまだ楽しめる小説もりだくさん。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ