Д.г 根性見せろよ - 09
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昔話にお付き合いくださって、ありがとうございます。この章で、昔話はちょっと区切りがつきます。
「そうね。私もそう考えているわ。ですから、次の二年が決め手なのです。あの男なら、適当に寄って来たご令嬢でも、すぐに手を出していい気になることでしょう。それを狙い、できる限りの証拠を集めます。リアーガに協力してもらい、ホルメン侯爵家の内情を探る為に、かなりの数の密偵、及び、傭兵を使っています。これは、私の私事なんですけれど、父が全面的にサポートしてくれていますので、そういった出費は、父が出してくれているんです」
「伯爵サマは、婚約破棄になっても、怒らないのですか?」
「ええ、その程度で怒るような父ではありませんから。ただ、決して無理をしないように、としっかり言いつけられていますけれど」
それは、父親として、大切な娘を案じての話だろう。
「ホルメン侯爵家の内情を探るに当たり、今でも、かなりの悪事が挙がってきています。その証拠を元に、次の二年間、徹底的にあのバカ息子を監視し、最終的に侯爵家を叩き潰します」
ほえぇ……と、全員がセシルの“悪巧み”の話を聞き、感心している。
貴族制やら、貴族の階級は習った。その中で、伯爵家は上位貴族として扱われる、と。
だが、侯爵家は、その上を行く偉い貴族だ。
それなのに、今のセシルは、その侯爵家を叩き潰す、などと本気で考えているようなのである。
すごいっ――すぐに、全員の顔が興奮で上気しだした。
“悪巧み”なら、全員が得意とする十八番である。全員が、すでに、“悪巧み”に乗り気満々だった。
「トムソーヤとフィロ。二人を学園に送り込むことになるかもしれません」
「子供なら目立たないからですか?」
「ええ、そうです。特に、平民ともなれば、大抵の貴族なら、目にも入れないことでしょう」
「そうですね」
「フィロには、たぶん――うーん……そうですね、私の付き人ということで、私の傍に付いてもらうことになるかしら? でも、その間も、執事見習いとして、たくさん勉強してもらうことになってしまうけれど」
「わかりました」
「フィロは、勉強嫌いじゃないもんな。楽勝じゃん」
皆が茶化すが、フィロは、まだ領地にやってきて一年も経っていないのに、小学で習い始めた字の書き方、読み方を簡単に覚え、計算だって学んでいって、今では何冊もの本を読破したほどのすご者だ。
そして、その能力を見て、早くから、“執事見習い”の仕事も教えてもらっているようになったほどだ。
邸に一人だけ移ってきても、全く文句もなく、セシルだって、毎晩、フィロが遅くまで邸の図書室に籠って、本を読みまくり、勉強しているその努力を、誰よりも認めている一人だ。
「トムソーヤには、その時により、庭師の手伝いや、学園での侍従のような仕事を真似してもらうことになるかもしれないけれど、大丈夫かしら?」
「一応、がんばります……」
「無理だと分かった時点で、それ以上の継続はしませんから、その時は、すぐに言ってくれればいいのよ」
「でも、一応、がんばります……」
トムソーヤだって、チームの一員なのだ。
いつも、一番年下で弱いから、ジャン達が追われている時でも、トムソーヤは、ジッと、待っていることが多い。
隠れて、留守番状態が多かった。
でも、隠れることなら、トムソーヤにだってできるのだ。
「他の皆は、引き続き、勉強をしっかりと励みなさい。今は難しいことがたくさんでも、学んでいくことは、きっと皆の力になってくれるでしょう。きっと、これからの将来に、役立ってくれることでしょう」
「はい……」
勉強は、それほど好きではない。
字を書くのだって、必死で覚えていることだ。
計算だって、毎回、答えが間違ってしまう。
それでも――そうやって、スラム街の孤児でクソガキだった自分達に、こんな信じられない機会を与えてくれたのは、セシルが初めてだった。
セシルだけが、五人に、将来と可能性を与えてくれたのだ。
だから、勉強が嫌でも、苦手でも、今は必死で勉強している。いつか――セシルに認められるような人間になる為に……。
「皆、悪巧みをする際に、悪巧みを見つからないようにするには、どうしたらいいと思う?」
「それは、静かに、音を立てないこと」
「ひっそりと迅速に」
「絶対に見つからないこと」
「そうね。では、悪巧みを仕掛けて、それでも、その足を掴まれないようにするには、どうしたらいいと思う?」
「同じでしょう?」
「そうね。それも大切だけれど、一番に必要なことは、まず、絶対に一人きりにはならない、ということかしら」
「なぜですか?」
「一人きりになり、その間に隙を突かれたりしては、問題が起きては、絶対に一人では解決できなくなってしまうでしょう? そして、一人で行動してしまうと、誰も正当性を証明できなくなってしまう。ですから、必ず、誰か一人、そして、それ以上の証人が挙げられるように、絶対に一人きりにはならないことが基本だと、私は思うんです」
「確かに、理には適っています」
「そうでしょう? 隙を見せず、隙を作らず、というのは、徹底して、自分の周りを固めておかなくていけないと思うの。たとえ、相手から罠を仕掛けられようとも、こちら側では万全の態勢を整えていれば、罠にはまったと見せかけて、反撃が可能になってくるでしょうから」
「それなら、フィロの十八番じゃん」
「そう。とても頼もしいわね」
確かに、セシルにはなんと頼もしい味方ができたのだろうか。
まだ幼い子供達だが、それでも、大人以上に頼りにできるセシルの味方だ。
「二年後、私の婚約解消が成立しなければ、私は、あのバカ息子と結婚する羽目になります。そして、この領地は、ホルメン侯爵家に奪われるでしょう」
「それは、最悪です」
「冗談じゃありませんっ!」
ジャン達は、まだこの領地にやってきて、一年も過ごしていない。
それでも、この領地が、セシル以外の“バカ息子”の手に渡るなど、許せないのだ。
リアーガが言った通り、この領地は、ものすごいスピードで改革がなされている。発展を遂げる為に、毎日が、いつも新しいことの発見ばかりだった。
全部、セシルが率先して、領地を、領民を引っ張っていってくれているという事実は、五人だって、もう気が付いているのだ。
最初のグリーンハウスの見学で、顎が外れるほど驚いた五人は、秋の豊穣祭の前に果実の収穫を手伝った。
周り中、たくさんの木が植えられていて、実がなっていて、収穫した後に、採ったリンゴや梨をもらった。
頑張ったご褒美だ、と。
それから、領地には道ができた。大通りとなるらしい。違うお店もできた。
孤児がまた増えた。
まだ一年も経っていないと言うのに、目まぐるしいほどの改革があって、変革があって、毎日、この領地は変わっていっている。
一世一代のチャンス。
まさに、リアーガの言う通りだった。
だから、五人だって、もう、絶対に、この領地から出ていくつもりはないのだ。
セシルが五人を追い出さない限り、五人にとって、この領地が五人の「故郷」となるのだ。
「トムソーヤ、しっかりやれよ」
バシッと、ジャンが、景気づけに、トムソーヤの背中を叩く。
「うん……。でも、痛いじゃんか」
「それくらいいいだろ? がんばれよ」
「うん、わかってる……」
「でも、気張り過ぎて、ヘマしないでね」
「うるさい、フィロ」
五人それぞれの個性があって、本当に賑やかだ。
「では、そういうことで話を進めていくわね。詳細は、もう少しした後で、話し合いましょう?」
「わかりました」
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