Д.г 根性見せろよ - 05
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ノーウッド王国の王都を離れ――スラム街を離れ、馬車で六日間の旅が始まった。
生まれて初めて、子供達は汚れていないまともな洋服を着せてもらい、生まれて初めて、馬車に乗った。
ガタガタ、ゴトゴトと揺れて(なにしろ、道がないから)、あまり快適な乗り心地ではなかったのかもしれないが、それでも、生まれて初めて経験する馬車の旅だけに、馬車の中に乗っている五人の子供達は、実は、かなり浮かれて興奮していた。
あまりに変人である『セシル』 に拾われて、これから南の領地に移動するらしいが、貴族のオジョーサマなのに、『セシル』 は馬に騎乗し移動している。
だから、馬車の中には子供達だけだった。
数時間ごとの休憩時間があたり、その度に、お水とスナックもあたり、それから次の移動が始まる。
三食がきちんと出されて、一晩泊まる時は、宿屋で部屋をあてがわれた。
最初は、二人と三人に分けた部屋にしようかと、『セシル』 は提案したが、子供達は床で寝ようが、どこで寝ようが、離れ離れになるのは嫌だからと、五人全員が一緒の部屋にしてもらった。
二つあったベッドは、二人ずつ寝ることができて、一人だけは床で寝る羽目になったが、生まれて初めて、毛布もあり、ベッドもあり、まともな部屋で寝ることができただけに、文句もない。
交代・交代で、次の泊まる宿ではベッドを交換し、床で寝る役を回していた。
信じられないことだが――移動中、子供達は、生まれて初めて、普通に扱われていたのだ。
暴力も振られなかった。無理矢理、仕事を押し付けられもしなかった。無理強いもさせられなかった。
ただ、普通の移動をしただけだった。
あまりに信じられない状況だった。
だからと言って、子供達の警戒が薄まることはない。絶対に裏切られる、絶対に騙されている――その警戒心だけは、決して緩むことはなかったのだ。
長い旅を終えて、コトレア領という領地に到着すると、五人の子供達は、領地にある孤児院に預けられた。
院長先生という女性がやって来て、紹介が始まり、それから、孤児院の施設の説明も始まった。生活の規則や、毎日の課題なども話された。
『セシル』 が言った通り、他にも孤児はいた。結構な数だった。
その点だけは、『セシル』 は嘘を言っていなかったらしい。
他の孤児の子供達にも紹介された。でも、挨拶だけ済まし、後は、大抵、五人で固まって動いていることばかりだ。
でも、注意はされなかった。怒鳴り散らされなかった。
そうやって、なぜかは知らないが、一カ月が簡単に過ぎていったのだ。あまりに平穏無事に、過ぎていったのだ。
「よう」
孤児院のすぐ裏の林で、いつものように固まっていた五人の前で、リアーガが姿を出した。
「……なんですか?」
五人は、ただ、慎重な目つきを向けて、リアーガを見返す。
「ちょっと雑談しようぜ」
なんで、このリアーガと雑談なんかしなければならないのか、と言った表情が五人の顔にありありと出ていて、全く乗り気ではないのは確かだ。
だが、リアーガはその態度を無視して、
「こっちに来いよ」
さっさと一人だけ歩き出してしまう。
五人が顔を見合わせる。
どうするよ……無言でコミュニケーションが上がって来る。
問題を起こしたら、孤児院の院長先生から、罰則としてトイレ掃除をさせられる。交代・交代での掃除でならまだしも、わざわざ、好んでトイレ掃除などしたくはない。
それで、仕方なく、五人はリアーガの後をついていくようだった。
リアーガが歩いて行った先は、孤児院の裏にある、外で授業が受けられるベンチが置いてある場所だった。
ベンチと言っても、丸太を切って、それを地面の上に並べ、座れるような場所なだけなのだが。
「なんですか、話って」
子供達は適当な丸太に腰を下ろし、リアーガは一人で、ドカッと、子供達の丸太の前に腰を下ろす。
「ここの暮らしはどうよ」
「別に……」
「奴隷扱いされたのか?」
「いえ……」
「人身売買に売り飛ばされたのか?」
「いえ……」
「虐げられて、折檻され、嬲り殺されたのか?」
「まだ……死んで、ません……」
ふんっ、とリアーガが鼻で笑う。
「じゃあ、いつ殺されるんだよ」
その質問に、全員が黙り込む。答えたくないのか、答えがないのか、シーンと気まずい沈黙だけが降りていた。
「それで、冷静な状況判断はできたのか?」
「さあ」
それに答えたのは、やはり、フィロだった。
『セシル』 が言うのではないが、この五人の中で、大抵、問答する場合は、フィロが先頭となってやって来る。たぶん、五人の中で一番口が回り、頭の回転も早いのだろう。
『セシル』 が憶測した通りで、リアーガも笑ってしまう。
「お前ら、スラム街を抜け出した気分はどうよ」
「さあ」
「人間らしい暮らしをして、落ち着かないか?」
「そんなことないけど」
あまりに冷たい態度で、冷たい口調の返答だ。
リアーガの口端が上がって行き、
「生意気クソガキ共」
「生意気にしてないけど」
「孤児だろうと、親がいないことは問題じゃない、って知ってるか?」
「知るわけないでしょ」
「でも、それを証明した奴がいる」
フィロだけではなく、残りの四人もただ無言を貫いている。
「お前らが困惑している気持ちは、解からないでもないがな」
「あなたになんか、解かるわけないでしょ」
リアーガの口元が、更に薄っすらと上がって行く。
「解かるぜ。しいて言うなら、俺もスラム街出身の孤児だ」
「「え゛っ……!?」」
五人全員の声が揃っていた。
リアーガは、にぃっと、口を上げてみせ、
「それも、王都のスラム街最奥、掃き溜めのような場所で育ったクソガキだ。それが、今はこんな制服を着て、領地内の護衛役、だぜ」
それで、リアーガが自分の着ている制服を、ちょっと摘まんで見せるようにする。
「一体、誰が考えたよ? スラム街出身のクソガキが、偉そうに剣を下げて、おまけに、護衛役? 絶対にあり得ないだろ? スラム街の、あのゴミ溜めから抜け出せられるガキだっていない」
「じゃあ、どうやって抜け出したの?」
「盗みを働いて、店主から追いかけまわされている所を、お嬢に見つかって、掴まった。――って言っても、お嬢の護衛をしていた騎士達に掴まった。それで、足を掴まれた――と思ったら、別に罰せられるんでもない。殴りつけられるんでもない。汚いナリのガキを連れて宿に戻って、そこで飯を食わせて来た。それで、「人として生きていきたいのなら、どうする?」 って、挑戦的な目で聞いてきてな。きれいな服着た、どこぞのお嬢さんのお遊びで、付き合ってられるか――ってな。おまけに、俺より年下のガキが生意気に、って」
「リアーガさん――って、今いくつなの?」
「今は18だ。それで、お嬢に出会ったのは、俺が13の終わり――って言うか、14になるちょっと前で、お嬢が11になる前だ」
へえ、と五人が納得する。
今の自分達と、ほとんど変わらない年齢ではないか。
読んでいただきありがとうございました。
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