表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
309/551

Д.г 根性見せろよ - 04

ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。

「話ってなに?」


 先程の少年は口をモゴモゴさせながらでも、『セシル』から決して目を離さない。


「生きることに必死であるのなら、生きて行くことにしがみついていくのなら、私の領地に招待しましょう。そして、知識を身に着け、経験を積み、「人」として生きて行きなさい」

「そんなの信用できるわけないでしょ」


「では、一体、どこの誰が、スラム街の孤児達に向かって、狂った所業とも思えることを、大真面目に話して聞かせるのですか? わざわざ食事まで与えて」


「いい顔して騙すのなんて、お手の物でしょ。貴族のオジョーサマなんだから」

「騙した分の見返りは?」


「売り飛ばすわけ? 孤児なら、勝手に売り飛ばそうが、誰も文句は言わないからね」

「売り飛ばすだけの価値があるのですか?」


 きっと、憎悪を露わに、少年が『セシル』 を睨め付ける。


「いい顔をして、美味い言葉で騙されて、人身売買で売り飛ばされるのか。奴隷にさせられるのか。そうでないのか。いつでも冷静に状況が判断できるよう、そういった能力を身に着けなさい。ただ、この中で、あなたは、子供でありながら、それができている一人ではあるようですが」


 こうやって、全く見知らぬ人間に、それも、嫌っている貴族に連れ去られたような形なのに、移動中、この少年達は一度も抵抗をみせなかった。


 でも、無言で合図を送り、コミュニケーションをしていたのは、『セシル』 も簡単に気が付いている。警戒が強く、慎重で、ただ感情的になって馬鹿をする子供ではなかったのだ。


 どうやら、そうやって、あまりに冷静な指示を出し、グループをまとめているのか、指揮しているのか、その参謀がいたようなのだ。


 それも、この目の前にいる少年が。


 だから、『セシル』 も、益々、この少年には興味が沸いて来ていた。


「逃げ出したいのなら、逃げ出す機会を待ち、その隙を一瞬でも見逃さず、逃げ出す準備をしておきなさい。ただ、策もなく逃げ出すだけでは、なにも変わりはしませんよ。また、違う場所で盗みを働き、生きて行かなければならないでしょうから」


 だが、そんな盗みだって、いつまでも長く続くことはないだろう。今は、グループで行動していて、統率が取れているようだったが、それでも、子供だ。


 もし、大人達が本気で盗人(ぬすっと)の捕縛を命じたのなら、子供達には逃げ道はなくなってきてしまう。街の、領地の治安を乱す悪者として、必ず、厳しい処罰を受けてしまうだろうから。


「私は、あなた達が「人」 として生き抜いて行く覚悟をみせるのなら、その機会を与えましょう。そして、「人」 として、最低限、生きていける環境を作ると約束しましょう。それを信じるか、信じないかは、あなた達次第ですよ」


「――そんなの無理だね」

「どうしてです? 私の領地には、かなりの数の孤児達がいますよ。無理ではなかったようですね」

「うそだ」


「わざわざ嘘を吐いて、自分をよく見せる為に塗り上げる必要なんてないでしょう? なぜ、私が、あなた達にそんなことをしなければならないと言うのです?」


 この少年が憶測しているように、『セシル』 は貴族の令嬢だ。わざわざ、いい格好を見せて、孤児の少年達に威張り散らす理由など全くないのだ。


「今は、信用しなくても、大博打(だいばくち)に賭けて、自分の生き様を懸けてみるのはどうですか? もしかしなくても、一生に一度の大博打(だいばくち)になるかもしれませんね」


 『セシル』 の言葉は端から信用していないのに、それでも、四人は無言で互いに顔を見合っている。


 きっと、どの動きが利益になるのか、不利になるのか、危険になるのか、色々な考えを巡らせているのだろう。


 年齢にそぐわないその行動そのものが、慎重で思慮深い行動だと、本人達は気付いているのだろうか?


 そうやって、今まで、スラム街でも生き抜いてきたのだろう。慎重に、隙を見せず、それでも、諦めず。


 ああ、益々、興味深い子供達だ。


「どうします? 私は、何度も繰り返しませんよ」

「――チャンスを取ったら、どうなるわけ?」


「私の領地に移動してもらいます」

「それは、どこ?」


 最小限の質問でも、(まと)を得ている質問ばかりだ。


 ふふと、『セシル』 の微笑がもれ、

「コトレア領と言って、王都から南下して行った場所にあります。馬車では、5~6日かかるでしょうか」


「そこで何するの?」

「まずは、領民の一人として生活を始め、知識を学び、身に着けていくことが最優先でしょうね。そして、群れの中で生きて行く経験を着け、その時が来たら、世界を見に行きなさい。自分達の力で」


「そんなの無理だよ」

「まあ、それは、その時になってみなければ、誰にも判らないでしょうから」


 目の前の少年が黙り込む。そして、残りの少年達が、きっと、彼の答えを待って、じっと動かない。


「――行けないよ」

「そうですか」


 (かたく)なに拒否し続けるのなら、それは、彼らの選択であり、『セシル』 がそれ以上口を挟む問題でもない。


「では、食事を終えたら、街まで送りましょう」

「――まだ……仲間がいる」


 パチパチと、『セシル』 も少々驚いて、瞬きをする。


「まだ仲間がいたのですか? それは気が付きませんでしたわ。随分、上手く隠れていること。では、その仲間を迎えに行きましょう。何人ですか?」

「――一人だよ……」


「そうですか。では、あなた達も、居場所を知らせるだけでは心配になってくるでしょうから、誰か案内役を。そうですね……、二人ほど。それなら、もし、逃げ出したくなった場合でも、なんとか力を合わせられるでしょう?」


 そして、残りの二人は、『セシル』 と居残りである。


 残った二人の子供は居残り組みだが、今の子供達なら、人質にされたと考えていても不思議はない。


 なんだか、驚きもせず、動揺も見せず、スラム街のクソガキ共を前にしても態度が変わらず、おまけに、何を質問しても答えが返って来て、スラスラ、あっさりと、次の行動が決まっているような感じだ。


 その感情が出ていたのか、目の前の少年が嫌そうに顔をしかめている。


「ああ、私が変わっているとは、よく言われることなんですよね」

「自慢、してるの、それ……」

「違いますよ。ただの事実です」


 自慢しているようにしか聞こえないが、少年は、それ以上、もう口を出さなかった。


 リアーガとユーリカは二人の子供を連れ、また、王都の街中に戻って行く。今回は、仕方なく、セシルとイシュトールのマントを貸しているので、ズルズルと引きずっているが、それをしっかりと子供達に被せて。


 歩く速度よりも荷馬車の方が、ある程度のスピードがあるので、イシュトールが荷馬車を引いていった。


「五人だったとは、気付きませんでしたわ。驚きですね」


 そして、その口調も、態度も、全く驚いているようには見えない。聞こえない。


「――貴族のオジョーサマなんでしょ」

「そうですね。セシル・ヘルバートと言います。ヘルバート伯爵家の長女です」


「伯爵家……。貴族の変人なんか、いっぱいいるんでしょ」

「私は、自分のことを変人だと思っていないのですけれどね」


 ただ、少々(いや、かなり)変わっている、といつも言われているだけだ。


 それに、他の貴族が変人なのかどうか、『セシル』 もあまりよくは知らない。なにしろ、今の所、領地の統治が多忙で、ノーウッド王国の貴族なんか、ほとんど避けている状態だったから。


「警戒を緩めないことは、いいことです。慎重なことも、そうです。隙を見せずなら、それはとても重要なことですから」


「説教しないでよ」

「ただの教訓ですよ」


 つらっと、そんなことを返す『セシル』 に、少年も冷たい顔だ。


「あなたの名前は?」

「――――――フィロ」


 かなり長い間があってから、ボソッと、一言だけを呟いた少年だった。


「では、フィロ。これからしばらく顔を合わせて行くことになりますから、よろしくね?」


 だが、無言だけが返って来た。


 『セシル』はそんな偉そうな態度にも全く気にした様子はなく、おかしそうに笑んでいるだけだった。


「絶対に、変人だ」

「そんなことありませんよ」




読んでいただきありがとうございました。

一番下に、『小説家になろう勝手にランキング』のランキングタグをいれてみました。クリックしていただけたら、嬉しいです。


Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Funtoki-ATOps-Title-Illustration
ランキングタグ、クリックしていただけたら嬉しいです (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
小説家になろう 勝手にランキング

その他にも、まだまだ楽しめる小説もりだくさん。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ