Д.в 手始めに - 09
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「なんでも……、実戦経験のある護衛を探しておられるとのこと、アーントソン辺境伯から、紹介を受けたようで……」
いえいえ。『セシル』 は辺境伯から紹介されて、この地にやって来たのではない。自ら選んでやって来たのだ。
だが、そんな情報は余計な情報なだけに、きっと、更に全員を困惑させてしまうことだろうから、『セシル』 は何も言わず、そこら辺を訂正しない。
「お時間を割いていただいて、ありがとうございます。お仕事の邪魔をしてしまいましたが、少しだけ、お話を聞かせていただけると嬉しいのですが?」
こんな小さな子供だろうと、貴族のご令嬢だ。貴族に逆らうことなど、許されていない。
全く返事がなく、ただ、ジーっと(心配げに) 『セシル』 を見ている兵士達を前に、『セシル』 も、団体の面接をすべきか、個人個人で面接をすべきか、考えてしまう。
本来なら、個人個人で面接をして、きちんと話を聞きたいし、相手がどう反応するのか、対応するのか、しっかり見極めておきたいものだ。
「このように来ていただいたのですが、お一人ずつお話を聞きたいので、その間、待っていただけますか? あまり時間は取らせませんので」
三人の視線が、無言で、ラソムの方に向けられる。その無意識の行動を見ても、どうやら、この三人の兵士はラソムの部下らしい。
「いえ……、問題は、ありません……」
三人の兵士ではなく、ラソムが返答をしてくれた。
『セシル』 が辺境伯と、息子のリソの方に向く。
「申し訳ありませんが、ここの部屋でなければ、小さな部屋など、お借りできませんか? 皆様がいる場で話し合いを進めても、偉い方が同席しているので、きっと、話すこともまかりならないと思うのです」
その状況は簡単に理解できるが、要は、辺境伯と息子のリソが邪魔だ、と婉曲に言われているようなセリフではないだろうか。
ただ、直接的に、『セシル』 は、
「出て行ってくださいね?」
と押しつけがましく、言いつけていないだけだ。
だが、その程度の婉曲な意味も理解できないような辺境伯ではない。
嫌そうに顔をしかめてみせ、ギロリ、とまだ小さな『セシル』 を睨め付ける。
にこにこ、と『セシル』 のお客様用スマイルは消えない。
嫌そうに溜息をこぼし、辺境伯が椅子から立ち上がっていた。
「いいだろう。この部屋を好きに使いなさい」
「ありがとうございます」
それからすぐに、一人ずつの面接が始まった。
居心地悪そうに、『セシル』 の向かいの席に座り、これから『セシル』 の質問(尋問攻め) が始まって行く。
「後で確認する時に忘れない為に、この会話の間、メモを取らせてくださいね? 私のことは気にせず、自分の思った通りのことを話してください。貴族だとか、そう言う身分や立場は気にせず、あなたの素のままの通りに、私はあなたのことを知りたいと思います」
「は、はあ……」
もしかしなくても、こう言った仕事の面接は初めてなのかもしれない。目の前にいる兵士の顔が最高潮に混乱を極めていて、落ち着きなく、その瞳が動いている。
まあま、そんなに警戒しなくてもいいのに。食ってかかるわけでもなし。
「まず、私はあなたのことを知りませんので、簡単な自己紹介をしてくれませんか?」
「移動は好きですか?」
「仕事は、どういったことをしていますか?」
「仕事の責任は、何ですか?」
「こういった状況が出てきた場合、どのように行動しますか?」
「他の兵士達へのコミュニケーションは、どのようにしていますか?」
「問題が起きた場合、どのように解決方法を見つけますか?」
やれやれやれ。これそれどれ。『セシル』 の質問(尋問攻め) は止まない。
『セシル』 の勢いに負かされて、兵士達は拒否権もなく、質問に答える羽目になっていた。
最後に三人が一緒の会話になり、
「もし、この場で、貴族に仕える護衛の仕事が提示された場合、皆さんは、興味がおありですか?」
「………………騎士、では、ありません、ので……」
「…………国軍の、仕事が、あります、ので……」
長い沈黙の後、(貴族の令嬢に逆らうこともできず) ポソポソと、その返答が返って来た。
「確かに、今の仕事を急に辞める、ということは難しいかもしれませんね。それに、新しい仕事に移ったからと言って、それが自分の望んでいる仕事だったかどうか、合っている仕事だったがどうか、現状では判断できかねないでしょうしね」
「は、はあ…………」
自分に合っている仕事ではなくても、この時代、食っていく為には仕事が必要なのだ。嫌な仕事だろうと、辞めることもできなければ、辞める方法もない。
「もし、次の仕事が上手くいかなかったら、などという心配も出て来るかもしれません。それなら、半年、または一年の仮契約で、護衛の仕事が合っているかどうか、その後も継続したいかどうか考えてみるのはどうですか?」
それで、自分達の選択にも時間の猶予が与えられ、自分で選択する機会も与えられるのだ。
今まで、そんな選択肢を出してきた人間がいなかったのか、兵士達が驚いた様子で『セシル』 を見返している。
「無理強いはしません。自分に無理なことをしても、長続きしませんからね。私には目的があります。その間、人の動きが頻繁で落ち着かなければ、私のなすべきことにも集中ができなくなってしまいますもの。ですから、この仕事を自分自身で望む人を探しています」
「…………仮契約、でも、無理があると、思います……」
「なぜですか?」
「軍を、離れることは、罰則になります」
「そうでしたか。では、皆さんの中隊長に確認を取ってみましょう」
「……えっ?!」
驚く間もなく、『セシル』 は、廊下で大人しく待っていてくれるラソムを部屋に招き入れた。
「中隊長。お聞きしたいことがあります。もし、一定期間、兵士が軍を離れることになりましたら、罰則がありますか?」
「え……? あの、それは……」
「私は、半年、または、一年の仮契約の仕事を考えています。それなら、お互いに知り合う機会もでき、護衛の仕事が合っているのか、望む仕事なのか判断できることでしょう。その間、国軍での所在は休職、ということになるのですが、そういったことは無理ですか?」
「事情や、理由にも、よると思います」
極たまに、自分の両親や身内などが病気になり、看病が必要となったりしたら、軍を離れ、故郷に戻る兵士もいる。その間は、休職、という立場になるが、いずれ除隊していく兵士もいる。
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