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А.а 始まり - 02

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「えっ……? あの……、そうですわね。ですが……、わたくし達は、まだそのような関係ではなく……」

「なにを言う?この間だって――熱い夜を過ごしたじゃないか」


 その状況を思い出しているのか、ジョーランの顔がにやけついていく。


「いえ……、あのジョーランさま? わたくし達は、とても仲の良い友人関係でございまして、ジョーランさまは、わたくしが――こちらのセシルさまにいじめられて悩んでいたところを、助けていただいたのです……。もう、あまりにひどいいじめで…、学園にも来たくなくなるほどの、いじめで……」


 そこで、男爵家令嬢のリナエが、ジョーランの腕にすがりつくように、微かに泣き出してしまった。


「みろっ、セシルっ! お前の犯した罪のせいで、リナエがこれほどまで苦しんでいるんだ。一体、どうやって償うつもりだっ!」

「その件は、今は置いておくことにしまして――さて、婚約破棄、及び、婚約解消ですが」


 セシルは大騒ぎしているジョーランの非難もなんのそので、全く態度が変わらず、落ち着いたまま、すぐ後ろに控えている自分の付き人をしている少年を振り返った。


「フィロ」

「はい、マスター。承知しております」


 礼儀正しく一礼をした、まだ幼さが残る年若の少年は――なぜかは知らないが、一緒に運んできていたような台車のようなものを、ゴロゴロと前に押し出してきた。

 その中には、なんだか――山のような書類が積み重ね上げられていた。


「マスター、まずこちらを」


 しっかりとした皮の台帳を少年が手渡した。

 それを手に、セシルは静々と国王陛下が座っている壇上に進んで行く。そこで頭を深く下げ、最高級のお辞儀をしてみせる。


 顔を上げないセシルを見やり、国王陛下が口を開いた。


「顔を上げよ」


 それで、セシルは姿勢を正しその場に控える――が、少し俯き加減のセシルの前髪が長く、顔を隠し、そのセシルの顔を見ることはできない。


「それで?」


「まず、晴れやかなる卒業パーティーという式典にて、このような問題が上がってしまいましたことを、国王陛下初め、来賓の皆様に、心からお詫び申し上げます」


 まずは、社交辞令でも、丁重な謝罪の言葉を。


「本来であれば、二家の当事者で解決すべき事柄でございまして、後に正式に国王陛下のお許しを請うのが定石でございますが、これ以上の醜聞(スキャンダル)は、誉ある式典を汚してしまうことになってしまう恐れがございます」


 そして、すでにこの場の状態は、卒業式どころではなくなっていまっている。


「ホルメン侯爵家ジョーラン様の熱いお心は、私も大変よく理解いたしました。私達貴族はそれぞれに課された責任がございます故、心のまま自由に動くことは許されていないこともございます。ですが、それを理解していても、心が言うことがきかないこともございますでしょう。私には婚約破棄には異論はございませんので、せめて、ホルメン侯爵家ジョーラン様の心の進む道を陰ながら応援したいと思います」


 だが、セシルの謙虚な様子も言動も――要は、貴族に課せられた義務も忘れ、身勝手な行動をするジョーランを、暗黙に侮辱する言葉だ。

 「心」のまま、(頭も使わない考えなしの馬鹿など) 勝手にやってくれ、と言い捨ててるも同じだ。


「こちらに、婚約誓約書及び、婚約解消証明書を用意いたしました。国王陛下には、どうか、このような身勝手なお願いではございますが、寛大なご厚情を賜りたくございます。婚約の破棄の許可を頂きましたのなら、皆様に多大なご迷惑をおかけしましたことですので、私達はこの場を辞し致します」


 そして、暗に含まれた皮肉はやまない。はっきり言って、傍迷惑行為も、()()()迷惑をかけたのは、全部、ホルメン侯爵家のジョーランだけだ。


 セシルではない。


 スッと、セシルが手に持っている台帳を差し出した。


 国王陛下はまだ威厳を崩さず、難しい顔をしたまま何も言わない。

 国王陛下のすぐ隣で控えていた騎士が壇上から下りて来た。セシルの手にある台帳を受け取り、国王陛下に手渡していく。


 国王陛下が台帳を開くと、中には婚約解消証明書が一番上に乗っていた。

 それをめくってみると、セシルの話した通り、婚約証明書も一緒にはさまれていた。ホルメン侯爵家とヘルバート伯爵家、両家のサインが入ったものだ。


「では、こちらを」


 羽ペンを手渡され――あまりに用意周到な様子に、国王陛下も眉間を寄せてしまっている。

 国王陛下のすぐ隣に戻った騎士も、微かに顔を引きつらせている。


「ヘルバート伯爵家からは、婚約解消に際し、全くの異論はございません。ホルメン侯爵の承認は必要ないとのことですので、どうか、国王陛下には、婚約解消の承認をしていただきたくございます」

「う――うむ……」


 なんだか、丸め込まれたような感じにも思えないではなかったが、仕方なく、国王陛下が婚約解消の書類にサインを済ます。


 それを受け取ったセシルは、そっと書類を折りたたみ、後ろの付き人の少年に手渡した。


「ありがとうございます、国王陛下。では、婚約解消の件が片付きましたので、今から、残りの問題を片づけていくことにしましょう。先程から、証拠もない冤罪(えんざい)を一方的に押し付けられてしまいまして、伯爵家としても、その名に懸けて、身の潔白を証明しなければならないと思っております。どうか、その為のお時間を賜りたく存じます」


「―――許す」

「ありがとうございます」


 それで、深々とセシルが国王陛下に向かってお辞儀をした。



* * *



 ゆっくりと体を起こしていくセシルが、スッと、半分だけ向きを変えるようにして、後ろにいるジョーランを見返していく。


「では、先程の続きをどうぞ。随分と、証拠なきまま、他家を侮辱・愚弄なさっておいででしたが?」

「証拠がないだと? ふんっ。ふざけるなよ。証拠ならたくさん挙がってるんだ」


「まあ、そうなのですか? では、どうぞ、その全ての証拠をお見せくださいませ」

「なにっ? ふざけるなよっ」


「では、証拠はないのですか?」

「あるにきまってるだろーがっ! ふんっ、証拠だって? ああ、いくらでも、見せてやる」


 大威張りで宣言したはいいが、ジョーランには証拠を差し出せられるような準備などしていない。


 それで、あまりに無知丸出しの顔をすぐ隣の少女に向ける。

 その視線を受け取った少女は意気込んでみせ、


「もちろん証拠はありますわっ。わたくしがその一番の証拠です!わたくしなど……、そちらの伯爵令嬢に……ひどい仕打ちを受け……。何度、泣かされたか、わかったものではありませんわ……。とてもひどい……」


「そうですか。では、その()()()()()()仕打ちを説明していただけませんか?」

「えっ……? ここで、とぼける気ですのっ! なんて、ひどい――」


 長い前髪の下で隠れて見えないセシルの顔は、呆れてものが言えない、とあまりの侮蔑を見せている。

 幸い、長い前髪のおかげで、そんなセシルの冷たい侮辱も見られることはない。



読んでいただきありがとうございました。

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