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Д.а 回顧 - 07

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 ただ、小説の一節で――



「――婚約破棄されて、その違約金が――」



 望外な額で支払い不可能となり、ある貴族の一家が、それから没落の結末を辿(たど)ってしまった……なんていう、数百ページある内容の中で出て来た、たった一小節だ。



――なんで、婚約の誓約書に反して勝手に婚約破棄を押し付けられたのに、違約金まで請求されて、その結果、家が没落するのよ。



 バカバカしい、と鼻で笑い飛ばした自分だ。

 ふざけ過ぎてるんじゃない、とも憤慨して。


 それで、あまりに無駄なお金を使ってしまって、タイムセールで買い込んだ小説に、ガッカリと落胆したのだ。

 タイムセールは当てにならないな、と。


 あの時の小説だったなんて……!!


 なんて、最悪……。

 なんて、悲惨……。

 なんて、絶望的……。


 確か……、小説の内容は、悪役令嬢でもなんでもない。異世界転生でもなければ、異世界転移でもない。

 ただの純愛ロマンスで、どこぞの身分の低い令嬢が、王子と恋仲になって、それで周囲に反対されても幸せに結ばれる、なんて簡単なストーリーだったはず。


 周囲の反対――だって、ものすごい悪意のある邪魔が入ったのでもなし。イジメがひどかったのでもなし。

 ただ、ちょっと、王妃とか、その手の女性陣から文句を言われただけで、大した盛り上がりもない。ドラマチックでもない。


 王子は王子で、活躍する場面もほとんどない。

 ただ、二人は一目惚れで、惹かれ合い、それで、勝手に、めでたし、めでたし、で終わってしまった。


 サイドキャラも薄く、ストーリーもなく、ただただお金の無駄。


 だから、あの小説を読み終えて、更なる落胆を隠せず、読み終わってすぐに、リサイクルに出してしまったほどだ。


 それを思い出して、がっくり……だ。


「信じられないぃ……。あの小説の中なの……!?」


 なんでっ?!


 その一言に尽きるだろう。


 そうなると、たった一小節程度にしか話に出てこない“一家”が、ヘルバート伯爵家の可能性が高く、あのクソガキに婚約破棄されるらしい。


 それはそれで、『セシル』 にとっても好都合だが、あのクソガキのせいで没落の運命を辿(たど)るのは、許せない。


 それに、『セシル』 も『ヘルバート伯爵家』 も、メインキャラではない。モブでもない。名も出されないほどの、ただの通りすがりのエキストラ並みに近い記述だ。


 だったら、小説内でも重要ではないのに、なぜ、現代人の自分が、異世界転生などさせられたのだろうか。


 人類を救うような場面でもない。世界でもない。


 最大の疑問だろう。


 だが、小説の中だろうと、どんなに馬鹿げた状況だろうと、今の所、『セシル』 は生きている。この体は、生身の人間だ。

 血が出てきて、それを証明したではないか。


 お腹が空くし、眠くなるし、疲れも出るし、「人間」 としての機能は、完全に同じものだ。


 となると、この世界で――万が一、『セシル』 が命を落したら、もう、それは、笑えもしない最悪の結末になる。



(こんな――あまりに悲惨な世界で、死んでなどやるものか!)



 なんで、こんな()()()状況に放り込まれて、無残に死ななくてはならないのか。


 もう、こうなったら、絶対に、何が何でも、生き延びてやる。

 絶対に、最後まで、生き抜いてやる!


「それなら、まず初めに、()()()()()は、あのクソガキを、完膚なきまでに叩き潰してやることね。ああ、憎たらしい、クソガキ。覚えてなさい」


 子供の体に、大人の思考力。

 そして、何よりも、この世界では、きっと、絶対に存在していないであろう現代世界の経験値。知識と技術。


 その全部を生かして、思う存分に、あのクソガキの(はな)(つら)を叩き折ってやろうじゃないか。


 そして、元の世界には――きっと、二度と戻れないのならば、『セシル・ヘルバート』 として、自分自身は、この世界で生を全うしなければならない。


 だから、『セシル・ヘルバート』 として、ある程度、住みやすい生活環境を整えなければ、ストレス過多で、それこそストレス死、なんてあり得ることだ。


「うじうじと嘆いてなんていられないわね」


 『セシル』には、当座の目的と、遂行しなければならない課題が出てきたのだ。

 時間も、限られているだろう。


 確か、小説の内容では、婚約破棄は、学園行事の後のはず。

 この世界の()()、っていうものだってどんなものなのか、きちんと把握しなければならない。


「まずは、土台造りと、味方集め、ね」


 小さな体だろうと、もう、子供ではない。

 やることはたくさんある。


 やってやろうじゃないの。

 この生を懸けて。



読んでいただきありがとうございました。

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