Д.а 回顧 - 04
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あれから数日が経った。
一晩寝ても、やはり、状況は変わらなかった。視界に入る光景は、変わらなかった。
鏡の前に移る自分の姿も、変わらなかった。
鏡で自分の姿を確認する度に、ビヨーンと、強くほっぺたを引っ張ってみて、その皮がはがれないか試してみた。
昔にあった映画の“フェイス・オフ”ではないが、顔の皮をはがしたら、別の顔が現れる――なんて……。
その衝動が上がって来て、止まらなくて、ここ数日、毎日、鏡の前で自分の顔を引っ張ってみてしまう自分自身がいる。
強く引っ張った分だけ、ヒリヒリと、ほっぺたが痛かっただけだった。
考えないようにしても、自分は、もう……元にいた世界に、場所に戻れないのではないだろうかと、その考えだけが消せなくて、訳の分からない世界にいる自分自身の存在も、状況も納得がいかなくて、その自問自答を繰り返して、更に気が狂いそうだった。
こんな状態が続いて、精神を病まない人間なんていないだろう。
異世界……なんていう表現になるのだろうが、そんな場所に、いきなり放り込まれて、それで、多少の落ち込みから勝手に回復して、お気楽に異世界を満喫するなんて――そんな話は、絶対に有り得ない。
そんなのは、小説や漫画の世界の話だけだ。
ここ数日、この世界で過ごして判ったことは、この世界には、魔法も魔術も存在しない。この世界で生きている人間は、自分の元いた世界と全く同じだったのだ。
ただ、文明が遅れているのか、そう言った昔の時代だったようなだけだ。
だから、異世界で無双、なんてことにはならない。
魔術を使って世界を救ったり、違う人種と交えて冒険や旅行もない。ハーレムやら、逆ハーレムで好き放題、だってない。
生きて行くのにお金が必要で、食べ物だって、魔法で簡単に出て来ることはない。食糧難もあれば、飢饉もある。餓死することだって、珍しいことではない。
それだけは、ここ数日でも、すぐに学んだことだった。
あまりに違う世界や場所に放り込まれ、身内はいない。友人だっていない。知り合いもいない。
そんな場所で、状況で、異世界で頑張って生きて行こう! ――なんて、普通は、簡単に、自分の意気ごみを奮い立たせることなんて、できやしないだろう。
今まで慣れ親しんだ電化製品もなければ、あまりに便利になりすぎた世界で使用していたものが、何一つ、手に入らない。
食事が違う。
はっきり言って、食事を済ませても、味気なく、満足感が足りなく、物寂しさが抜けないのは、『セシル』に更なるストレスを与えていた。
食が悪かったり、崩れてしまうと、精神的にも、心理的にもストレス過多だ。やはり、食事はおいしいものを食べたいではないか。
コンビニでも立ち寄って、簡単にスナックも買えなくなってしまった。
できないことばかりが目の当たりになってしまい、思考もネガティブに落ち込みがちだ。
浮上するのだって、元にいた世界に帰れる見込みもなければ、帰る方法も分からないのであれば、ネガティブに落ち込んでしまう理由も頷けるものだろう。
あまりに現実離れし過ぎていて、夢から覚めない悪夢のまま日常が過ぎて行き、自分の容姿が全く違っていて、それが変わることがなくて、一体、元の自分はどうなってしまったのかさえも、判らないままだ。知らないままだ。
一人きりになる夜がやって来ると、あまりに静かで、誰にも邪魔をされず、更に考える時間ができてしまって、余計な雑念でわずらわされてしまう。
説明のつかない理解不能な状況。
説明がつかなくても、生きていることには変わらない現状。
説明できない不可解な現象で、すでに魂が誰かの体に入ったのか、記憶だけが呼び起こされたのか、大人で、十歳の子供の体を持つ現実。
現代? 現世? 前世?
自分の元いた世界が、一体、どの世界なのかも分からない。
だが、今は現代人ということにしておこう……。
現代人の自分が、どこか知らない世界に放り込まれて、貴族の令嬢になっている。
セシル・ヘルバート。
ヘルバート伯爵家の長女、十歳の少女だ。
国は、ノーウッド王国。どんな国かは知らないが、この屋敷内の運営を見るに、典型的な貴族制度、貴族社会のど真ん中に放り込まれたらしい。
父、ヘルバート伯爵家当主、リチャードソン・ヘルバート。まだ、二十代最後のはず。
弟、ヘルバート伯爵家嫡男、シリル・ヘルバート。現在、五歳。
現在いる場所は、ヘルバート伯爵領にある、伯爵家の屋敷だ。これから、地図でも照らし合わせ、地理を学ばなければ、一体、自分がどこにいるのか正確に把握できない。
なぜ、突然、現代人の記憶を思い出したのだろうか?
異世界転移? ――でも、ワープした記憶は、全くない。どこかの穴に落ちて、異世界に入り込んだのでもない。
“不思議の国のアリス”でもあるまいに。
異世界転生? ――一体、いつ、どこで、自分自身が亡くなったのか、全く記憶にない。
交通事故でもない。お風呂場で溺死でもない。雷が当たって焼死・感電死でもない。
自殺――なんて、とんでもない! そんなことなど、絶対にしない。していない。
この未知の世界で、現代人だった自分自身の体や容姿を保っていないのだから、結論から行くと、たぶん、「異世界転生者」 という状況が当てはまるのだろう。
その結論に辿り着いて、更に、ドッと疲労すると共に、一気に、激しい落胆が肩に落ちて来た気分だ……。
読んでいただきありがとうございました。
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