В.д 囮に? - 09
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「トムソーヤ? それは……、見張り役には、ならないんじゃ……」
「いいえ。トムソーヤが適任でしょう」
「――ですが、彼はまだ子供ではありませんか。そんな子供一人、部屋に隠れていたとしても、もし、万が一があった場合、ご令嬢とトムソーヤだけで、対処などできないでしょう」
「トムソーヤは、その役が適任ですわ」
「しかし……」
セシルの精鋭部隊の子供達だ。あの夜会の時だって、今回の訓練だって、子供達の尋常ならざる能力を目にしたのだ。
だから、この子供達は、ただの普通の子供ではない。
それでも、トムソーヤは、この中で、一番小さい子供だったのだ。
身代わりとなったセシルと一緒に、部屋でこっそり、一人で隠れていようと、トムソーヤの体格など、大の男に吹っ飛ばされたのなら、ひとたまりもないだろう。
「トムソーヤの役目は、見張り役です。この中なら、一番の適任です」
未だに渋っている様子のギルバートに、ジャンがそれを付け足した。
それで、ギルバートが、少しだけ、ジャンの方に視線を向ける。
「トムソーヤなら、絶対に気付かれることはないです。それに、マスターが危険な目に遭ったら、その場で、一撃で殺せばいい」
まだ子供なのに――あまりに淡々と、そんな恐ろしいことを口に出してきたジャンに、ギルバートも顔をしかめたまま、何も言わない。
「そこまでする必要はありませんよ。今回は、裏で手引きをしている大元を引きずり出すのが目的ですから。少女達をさらうのは、それを売り飛ばす算段が付いているからでしょう。売り物を傷物にしてしまっては、元も子もありませんからね」
「それは普通の少女の場合でしょう? マスターは違います。とてもじゃないが、その容姿を前にして、手を出さない男はいない。だから、トムソーヤ。手を抜くんじゃないよ」
フィロが、淡々と、表情も変えず言いつけていた。
トムソーヤも驚いた風もなく、
「わかってるよ」
それだけだ。
頼もしい――子供達だと言えれば、ギルバートもどんなに心穏やかなことか……。
「それは最悪の手段ですから、合図があるまでは、待機していてね」
「わかりました」
ケルトとハンスは、裏道に投げ捨てられていたような木箱を見つけて来たので、急遽、犯人の隠れ家の改装である。
寝室で、セシルと捕まった若い娘を置き去りにするには、助っ人が乗り込んでこなければならなくなった場合に、セシルが更に人質に取られてしまう可能性が出て来る。
それで、セシルと若い娘は、家の入口側にある部屋で待たせることにしたのだ。
可哀想なのだが、麻袋に詰め込まれた若い娘は、そのままの状態で残されている。
未だに気絶していることだけが、幸いだろうか……。
移動をするとなると、気絶している娘を公道で担ぎ上げることなどしないだろう。そうなると、また、娘を麻袋に詰め直す状況になりかねない。
それなら、気絶している間、そんな無駄はさせず、さっさと、あいつらのアジトに案内してもらった方が最善だ。
子供達は二手に分かれる。ジャンとフィロ、ケルトとハンスだ。
二手に分かれた子供達に、王国騎士団の騎士達も一緒に付き添っていく。
ギルバートとクリストフは、ジャンとフィロに混ざり、少人数で、セシル達を近くから追えるように、尾行することになった。
「絶対に、絶対に、どうか、無茶はなさらないでくださいね」
全ての準備が整った時、ものすごい心配げな色を濃く映したギルバートは、懇願する勢いで、セシルに言い聞かせていた。
「わかりました」
「約束してくださいますか?」
セシルはできない約束は、しない主義なのだ。
セシルの無言を見取り、ギルバートの眉間がきつく寄せられてしまった。
ここで言い合いをしている場合ではない。
「約束いたしますわ」
「絶対ですよ」
「もちろんです。私は約束を違えることはしません」
「わかり、ました……」
それでも、この場にセシルを残しておきたくない様相がありありとしていて、ギルバートは(無理矢理)自分の足をひきずるようにして、残りの皆と一緒に家の中を後にしていた。
閑散とした、狭い家の中には、セシルと麻袋の中で気絶している若い娘。
そして、気配もなく、息を殺し、部屋の片隅で隠れ潜んでいるトムソーヤだけ。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
ドンドンドンっ。
家のドアが乱暴に叩かれていた。
――来た。
返答がないので、またも、ドアが乱暴に叩かれる。
その態度から察するに、さらった娘を回収にやって来た“運び屋”は、自分達が見張れている、犯罪が暴露されているなど、露にも思っていないようだ。
通常なら、若い娘が一人いなくなり、その行方が知れなくなってしまったら、住んでいた場所で大騒ぎになっていることだろう。
それで、違う場所に移動しようが、毎回、毎回、同じ犯罪を犯すことなど難しくなってきてしまう。
それなのに、今まで犯罪を見咎められることもなく、捕縛され逮捕されることもなく、のうのうと生き延びて来た犯罪者がいる。
だから、高を括っているのだろう。自分達が捕まるはずもない、と。
(見ていなさい。これから、その奢っている鼻をへし折ってあげますから)
返事がなくて業を煮やしたのか、ドアが勝手に開き、部屋の中に男が一歩入って来た。
だが、部屋の中にいるセシルに目を留め、その足がピタリと止まる。
「ほうっ……」
すぐに、男の目が輝き出して、口元が嫌らしく上がって行く。
「なんだよ。今回は、随分、上玉じゃねーか」
「なんだって? ――なんだよ、別嬪じゃねーか」
入って来たのは、風体の悪そうな三人の男だった。
三人揃って、家の中にいるセシルを見て、下卑た笑みを口元に浮かべ、ジロジロとセシルを品定めしていた。
セシルは猿轡をかかされ、胸の前でグルグルにまかれたシーツで両腕を縛られている。それで、入って来た男達を慎重に見返している。
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