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В.д 囮に? - 06

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 ドアをノックすると同時に、スッと、セシルが数歩後ろに下がっていた。


 ドアを開けた隙間からは、まだほんの少し、セシルの体型が視界に入る場所で、それでも、中にいる人間が腕を伸ばし、無理矢理、セシルを引っ張り込めないような距離を保つ。


 反応はなかったが、ドアの向こうで人の動く気配がする。


 ギィっと、きしんだ音をさせながら、ほんの微かにだけドアが開いていた。

 予想通り、ドアの向こうの男の目と顔半部だけしか見えない。


「なんだよ」

「少し確認したいことがありまして」

「確認?」


 不信げに聞き返した男の前で、セシルは一歩だけ、右側にずれてやった。

 それで、ドアの隙間から覗いているような形の男の視界に、セシルの全身が入って来ることだろう。


 ジロっと、一見(いっけん)の後、銀髪の若い女が立っていて、それも極上の女が立っていて、男の態度がすぐに改まっていた。


 二度見は、その視線をあからさまに薄汚く動かし、セシルの全身をチェックしていく。

 すぐに、疑いもせずにドアが大きく開き、男が姿を現した。


「なんだよ。こんな別嬪が、俺に何の用――」


 嫌らしくにやついた顔を見せ、男の太い腕がセシルの方に伸びて来た瞬間――セシルの方が先に動いていた。


 男の真ん前に入り込み、呆気に取られた男の胸倉をシャツごと引っ掴んでいた。


「なっ……!」


 そのまま、手加減なく、思いっきり、セシルが男を外に引っ張り出して、その勢いのまま、地面に投げつけた。


「うわっ……!」


 すぐに、場を空ける為に、セシルが後ろに飛び去っていた。

 その隙を見て、ギルバートがドアの奥に飛び込んで行く。


「おいっ。なにやって――」


 その言葉が最後まで出されることはなかった。


 一気に家の中に飛び込んだギルバートは、その一瞬で、部屋の状況判断を済まし、たった一人だけいた男に向かい、鞘をつけたままの剣で、男を気絶させていたのだ。


 ギルバートのすぐ後ろを護るように、次に飛び込んで来たクリストフは、部屋の中を確認するのに、瞬時にその視線を向ける。


 ギルバートが男を相手にしたその場で、クリストフは、一つだけあるドアを蹴破った。

 だが、ドアの向こうに飛び込んではいかない。


 人の気配は感じなかったが、伏兵が潜んでいないとは言い切れない。

 ドアの入り口で、サッと中を確認しても、動きがない。


 慎重に、クリストフが中に足を一歩踏み入れた。警戒し、緊張はしていても、抜いている鞘付きの剣は、いつでも動かせることができる。


 狭い部屋は寝室だったようで、一人用のベッドが一台あって、小汚いテーブルと椅子だけが置いてあるだけだった。


「クリストフ」

「誰もいません」

「そうか」


 ギルバートが部屋の中に入って来た。――だが、後ろから気配を感じて、パっと、ギルバートが咄嗟に後ろを振り返っていた。


 その姿を認めて、諦めたように、また溜息がこぼれてしまった。


「ご令嬢……。まだ、危険ですので、外で待機していただきたいのですが」

「外の方も、簡単に片付いています。こちらの方も終わったようでしたので」


 それで、さっさと(勝手に、呼ばれもしないのに)、家の中に入って来たらしい。

 困った令嬢だ……。


 一つだけある寝室のような部屋の隅には、大きな麻袋が立てかけてある。

 すぐに(いぶか)しみ、セシルがスタスタと麻袋の前までやって来た。


 つんと、袋を押してみると、やはり弾力がある。人が入っているのは間違いなかった。


「まだ、この中にいるようですわ」


 ギルバート達も駆け寄って来て、セシルが袋を縛っている縄を外すのを手伝い出す。


 袋を開けてみると、中から――本当に、若い女性がでてきた。

 若い女性、と言っても、まだ少女に近い、成人したばかりの年齢ではないだろうか。


 セシル達がこんなに袋などを動かしているのに、若い娘は一向に目を覚ます気配がない。

 首元で脈拍を確認してみると、一応、ちゃんとした脈動があった。


 ほっ……と、セシルも安堵をみせる。


「息はありますわ。ですが、気絶させられただけにしては、こんなに長く意識がないものなのでしょうか?」


 それとも、頭でも強く殴りつけられたのだろうか?


「眠らされている可能性も考えられますね」

「眠らされている、って……」


 睡眠薬のような薬は、一応、この世界でも、この土地でも使用されている。

 だが、そう言った薬の(たぐい)は、簡単に入手できるものではない。


 裏取引や、お金を積めば、ある程度の、そう言った薬品にも手をつけられるだろうが、一般市民の平民が、気軽に手に入れられる品物ではないのだ。


 それで、三人の頭の中にも、「金持ち (イコール) 悪徳商会、または悪徳貴族」の案が、すぐに浮かんでしまっていた。


 その可能性を考えて、三人共、無言である。


 悪徳商会も、よくある話だ。珍しい話ではない。

 悪徳貴族――は、なんだか、あまりに耳に親しい単語だ。


 特に、この国では。


 前回も、余計な事件に巻き込まれた経験があるせいか、その場では、セシルはその件を深く追求しなかった(面倒だから、したくなかった)。


 急遽、護衛として付き添ってきている騎士達に捕縛用の縄を買いに行かせ、外で倒した男も家の中に運んできた。


 ただ、その間、誘拐された若い娘をベッドに寝かせようとしたギルバート達の前で、その行動だけはセシルが止めていたのだ。


 不思議そうに、理由を聞きたがっているような気配は伺えたが、セシルはその理由を話さなかった。

 まずは、男達の尋問が先なのだ。


 一体、どんな薬を使用し女性を気絶させたのか。何をしたのか。何が目的なのか。


 それをはっきりさせなければ、意識のない女性を無闇に起こすのは、少々、危険なのだ。


 だが、その説明をしても、きっと、この世界の者には、現代医学の知識も経験もないだけに、説明自体が不可解で、意味を為さないものになってしまっていたことだろう。


 それで、まずは、尋問を優先させなければならなかったのだ。




読んでいただきありがとうございました。

Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)


Bu romanı okuduğunuz için teşekkür ederiz

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