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В.д 囮に? - 02

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「なに、()けるの?」

「いや、そこまではしない。ただ、移動する先に、あいつらがいるだけ」


 まあ、ドリンクも飲み終えたし、立ち食いも終えたから、次に移動する分には、なんの問題もない。


 ジャンがゆっくりと、数歩ずつ動き出すような感じなので、残りも、一歩一歩を動かすような、そんなのろまな動きで歩き出した。


 全員の視界の前で、男達が急に動き出した。

 随分な早足で、ズンズン、ズンズンと、人込みをかき分けて行く。


 それで、誰か――若い女性らしき人を二人が挟み込んでいたのだ。


 片方の男が馴れ馴れしく女性の肩に手を置き、もう一人が、さっさと、女性の腕を組んで歩き出す。


 それで、そのまま早足で、スイっと――三人が横道に消えてしまった。


「あれ――逢引(あいびき)には見えないぜ」

「見えないよ、そんなの」


 そうそう、と全員が納得していない顔をして、つい、足を早めてしまった。


 男達が()れた横道に向かうわけではない(言い訳、言い訳……)。


 ただ、次に向かう方向が一緒なだけだ。


「あれ……?」

「もう、出て来た」


 五人が進んで行く先で、先程の男達が、もう用件を済ませたのか、横道から出てきたのだ。


 さっきの女性はいない。


 代わりに、妙に大きな麻袋(あさぶくろ)を、一人の男が(かつ)ぎ上げていた。


 それで、足並みも変えず、スピードも変えず、スタスタ、スタスタと、男達が通りを歩き去っていた。


「あの中に女の人がいる」

「なんだってっ?!」


 目を()らしているフィロが、その目つきを厳しくして、それを呟いていた。


 妙に大きな麻袋。(かつ)ぎ上げている形が変で、どう見ても、袋の外側の曲線は人間の体の線だ。


 おまけに、沈み込んでいる重さを見ても、ただの食糧が入っている重さには、絶対に見えなかった。


「ケルト、来いよ」

「おうよ」


 ジャンとケルトがあまり大騒ぎせず、それでも、駆け出していた。男達が、一度、()れた横道に飛び込んでみる。


 暗がりで、家と家との隙間が横道になっているような場所だった。


 だが、目の前には、散らかったゴミが残っていて、真っ直ぐ先は、家の長さの分だけの長さの隙間があるだけだった。


 あの女性はいない。


「おい、人攫(ひとさら)いかよ」

「マジっ?! こんな昼間っからか?」


 こんな明るい真昼間(まっぴるま)から人攫(ひとさら)い?!


 普通、こんなに人込みも多く、明るい場所でなんて、あまりに危険過ぎて、そんな犯罪なんかできないものだ。


 (すさ)んだスラム街でもあるまいし。スラム街なら、ひったくりも、人攫(ひとさら)いも、結構、日常茶飯事だった。


 だから、強面(こわもて)の男達や、目つきの怪しい奴らが近づいてきたら、すぐに、警戒予報が鳴って、五人はすぐに散って、身を隠す癖がついていた。


 人身売買や奴隷商に捕まったら、もう、最悪どころではない。あの場で人生尽きていたことだろうから。


「ケルト、トムソーヤ、あいつらを()けろ。絶対に、気取(けど)られるなよ。フィロも一緒に行け」


 早口でその指示を飛ばしたジャンに、三人が頷いた。

 すぐに、距離を取られないように、三人があの男達を追い始める。


「ハンス、来いっ。マスターに、まず報告を済ます」

「わかった」


 ジャンとハンスも、今まで通って来た道を大急ぎで戻るように駆け出した。


 セシル達は、ジャン達と別れてから、反対の方角に進んで行ったのは、別れた時、少しだけ振り返って確認していたジャンが見ている。


 その方角に戻って来て、小物店などのお店がある場所を探してみた。


「店の中に入ってたら、見つかりにくいんじゃないのか?」

「確かにな。――仕方ない」


 アトレシア大王国にいる間は、あまり大きく騒ぎ立てたくはなかったのだが、人込みで混雑している通りや、お店の中を、一々、探し当てるのは至難の業。


 それで、ジャンのショルダーバッグから、手の中に納まるような折り畳み式のナイフを取り出していた。


 お店などの壁側に寄って行き、ハンスがジャンを隠している間、ジャンは目印の為に、ほんの微かにだけ印をつける。


 これは、ずっと昔、セシルに教わった、緊急信号のメッセージを残す方法だ。


 壁を傷つけないように、それでも、緊急信号を知っている者の目にはつくように、ジャンは通り過ぎて行くお店の壁側で、ピッタリとくっついて歩いていた。


 少々、時間がかかり、時間を取ってしまった。だが、仕方がない。


 それで、長い通りに並んでいるお店には印をつけ終わり、次は、どの横道をずれるか、ハンスと地図を見比べる。


「こっちの通りは、結構、貴族街に近いんだよな」


 トムソーヤが王都内の地理を作成している時でも、やはり、貴族街に近付くと、平民の出入りは、貴族達の方からジロジロと嫌な目つきで凝視される傾向が多い。


 だから、トムソーヤは荷の配達業者を(よそお)って、ある程度の区域は把握していたが、他の通りと違って、詳細にはお店の場所が記載されていない。


「マスターはあの副団長と一緒だから、貴族街に入った可能性の方が高くないか?」

「たぶんな」


 なにしろ、ギルバートは王国騎士団の副団長サマで、第三王子殿下でもある。貴族の中だって、ものすごい偉い立場の男性だ。


 ギルバートがセシルを案内するのなら、平民が出入りするようなお店ではなく、きっと、貴族街の貴族が出入りするようなお店に連れて行くのではないだろうか。


「印は残せないから、貴族街近辺では、仕方がないが、道を確認するだけだな」

「だなぁ。仕方がないけどよ」


 貴族街に向かう通りに入って来ると、舗装(ほそう)されている道も違う。建ち並んでいる店も趣が違う。外装が違う。


 高級そうな馬車が行き交って、馬車から降りてくる人間も、貴婦人や紳士が多くなってきている。


 貴族の前では、頭を下げているか、道端に寄って道を開けなければならない。


 ジャンとハンスも、道端に寄って、ゆっくりと通りを進むだけだ。下手に貴族の前に出たら、どんな文句を吹っ掛けられるか分かったものではない。


 お店の中を覗こうにも、ドアの向こうは見えない。ガラスの窓があったとしても、中を覗いていたら、ジロっと、速攻で、警備隊でも呼ばれそうだ。


「面倒だな」

「全くだ」



読んでいただきありがとうございました。

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