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В.г 再戦 - 03

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 それで、全員の視線が、ジャンに集まる。


 毎回、毎回……、必ずと言っていいほど、五人のまとめ役は、ジャンの役割だ。


 質問の答え程度、ジャンがしなくたって、残りのメンバーだってできるはずなのに(プンプン)。


「現状把握は、戦いにおいて、定石(じょうせき)でしょう?」

「確かに。では、どのように、地理や地形を把握するんだい?」

「それは企業秘密、です」

「企業、秘密? それは?」


「戦法を教えたら、負けをくれてやってると同じでしょう?」

「なるほど。だが、確か、今回は、合同訓練で、我々、王国騎士団が、ゲリラ戦の知識と経験を学ぶこととなっていたはずだが」


 正論を持ちかけられて、ジャン達もちょっと嫌そうな顔をする。

 そういう目的で、王国に呼ばれたのは知っている。


 それで、仕方なさそうに、はあ……と、ジャンが溜息をこぼした。


「私達は、普段から野戦に慣れています。森の中を駆け回って、ゲリラ戦を繰り返していますから。ですから、場所が変われど、森程度なら、大した問題もなく、地理を読めます」


「そうか――。それはすごいな」


 そして、目の前の子供が、ちゃんと騎士の態度に変わったことに、すぐに気が付いたナンセンだ。


 ナンセンは、去年、セシルに会っている。

 あの――衝撃的な出会いを遂げ、王宮を去っていったご令嬢のことは、しっかりと覚えている。


 今年、ギルバートが、また、あのご令嬢を、王国に、王宮に連れて来るとは予想もしていなかったが、子供達を連れて、合同訓練だ。


 ナンセンは小隊長をまとめる一人で、元は貴族の出身でも、ナンセンは上司であるギルバートに憧れて、騎士団に入団してきた騎士だった。


 正確には、ナンセンの直属の上司は、ギルバートの付き人であるクリストフだ。クリストフは――実は、第三騎士団の中隊長の一人なのである。


 だが、大抵いつも、第三王子殿下のギルバートの付き添いとして、護衛役として、騎士団とは別に、ギルバートと一緒にいることが多いから、騎士団の中隊長としての仕事を免除されていることが多い。


 それでも、クリストフの実家は、王国でも五本の指に入ると有名な、ノード伯爵家だ。いつも、優秀な騎士を輩出することで有名な家系だ。


 だから、幼い時から、徹底的に“騎士道”を教え込まれたクリストフは――実は、ここだけの話だが、ギルバートに続く実力者である。


 腕だって、ギルバートの次に並ぶと言っても、過言ではないのだ。


 だから、中隊長の仕事が免除されていようと、訓練に参加する時の――クリストフは、手を抜かない。

 それで、部下達からは、ギルバート同様に、尊敬されている。


 その二人が揃って、「為になるから」 と、連れて来た子供達が、ただの子供であるはずもない。


 他の騎士達は、まだ、納得していないようでもあるし、ゲリラ戦など――最初に完敗した無様な結果でも、あんな――卑怯な手で勝つなんて、と多少の反感を持っている騎士がいないのではない。


 だが、ナンセンは、そんな軟弱な文句を言う為に、騎士になったのではない。

 実家からは反対されたのに、それでも、強行して、騎士団に入団してきたのだ。


 今は、小隊長を任されるほどにもなった。


 合同訓練が必要なら、それはそれでいい。ゲリラ戦が知らないのなら、それもそれでいい。


 まずは、ギルバートが学ぶべきだと主張しているのだから、ナンセンは個人的な感情など捨て置いて、子供だろうと、学べることは学ばなければと、(随分) 前向きな態度だった。


 子供だろうと、相手が「騎士」 として対応するのなら、ナンセンだって文句はない。


「そう言えば、騎士団にやって来た時は、ノーウッド王国からの騎士達だ、という紹介しかなかったが、名前を知ることは許されていないのかな?」


「いえ」

「では?」


 五人が顔を見合わせる。


 別に、セシルからは素性を隠せ、とは指示を受けていない。


 セシルのことだって、ノーウッド王国の伯爵令嬢だと知られている。そして、子供達は、その領地にいる騎士見習いだとも。


「ジャン・フォルテ。15歳」

「ケルト・フォルテ。15歳」

「フィロ・フォルテ。14歳」

「ハンス・フォルテ。14歳」

「トムソーヤ・フォルテ。13歳」


 全員が全員、兄弟だったなど、ナンセンも予想していなかった。


 顔つきが似ていない――ことは、そこまで問題にすることもでないのだろうが、驚きである。


 おまけに、最年少が13歳だったなんて――そんな小さな子供が、騎士見習いだったなんて、本当に驚きだ……!


「――――改めて、よろしく」

「よろしくお願いします」


 遠巻きに、ナンセンが子供達に近づいていくのを視界に入れていたギルバートが、会話が落ち着いた様子を見計らって、近づいてきた。


「ナンセン」

「ギルバート様」


「なにか問題が?」

「いえ。ただ――ここの騎士達に、どのように地理を読んでいるのか、聞いていただけですので」


 ちゃんとした質問をしていたと分かって、ギルバートも、少々、驚いていた。


 合同訓練と言っても、騎士達の大半が、未だに、まだ子供である騎士見習いをバカにしている風情があるのは、ギルバートも気づいていた。


 表立って、そういった態度を示し、訓練を(おろそ)かにしているのではないから、ギルバートも、まだ、そういった騎士達を叱ってはいない。


 だが、ナンセンは違っていたことに、少しだけ驚いていたのだ。


「彼らは、野戦に慣れているとのことです。ですから、このように、他国にやって来ているのに、問題なく地理を読める、と」

「なるほど」


「それで少し思ったのですが――このままでは、我々は、ゲリラ戦を学ぶことは難しいのでは、と」

「なぜ?」


「彼らはゲリラ戦に慣れています。そう言った訓練が日常ですので、一から順に教わる必要もないのでしょう。ですが、我々は違います。私とて――実戦で、ゲリラ戦に彼らと対戦しても、また同じ結果が出てしまうのではないでしょうか……。力不足で、申し訳ございません」


「いや。ゲリラ戦は、我々にとっても、初めて見る戦法だ。慣れていないだけに、突然、襲い掛かられたら、対応が遅れるのは自然なことだ」


「それで――このままでは、あまり、学べることがないのではないかと……」

「なるほど。それなら、ちょっと待ってくれ」


 それで、ギルバートは、すぐ後ろで待っているセシルの方に、走って戻って行ってしまった。


 セシルに、今ナンセンが説明した懸念を話しているようで、それで、ギルバートが、今度は、セシルを伴ってやって来た。



読んでいただきありがとうございました。

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Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

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