* В.г 再戦 *
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「皆さん、今日のゲリラ戦も天候に恵まれましたね」
この間のゲリラ戦で大敗を見せた王国騎士団は、普段の訓練以外に、セシルの領地で教えているという騎士訓練に励んでいた。
領地の騎士見習いである子供達は、朝・夕二回の第三騎士団の通常の訓練に混ざってしごかれている。
もう、毎日、ヘトヘトになるほど、(厳しく)しごかれている。
それで、日中、時間が空いている時に、セシルが、騎士見習いの五人と、時間の合った王国騎士団の騎士達を入れて、領地の騎士訓練講座を開いていた。
平面訓練では、近隣の農家から借りて来た四角い干し草の俵(Square Bales of Hay)をランダムに並べ、障害物を置いた状態で、両端からの旗取り合戦である。
冬にある、雪合戦大会に似たような戦い方だと考えれば良いだろう。
雪玉がないので、念の為にと、領地から持参して来た玉入れの玉を使用し、当たった場合、五秒の静止となるルールにした。
最終目的は旗取りでも、その間に、騎士達を打ち負かさなければならないので、騎士達には腰紐が与えられ、腰紐を抜き取られると、その場で退場となる。
木剣の使用も許されているから、接近戦になれば、木剣で攻撃し合うことも可能だった。
王国騎士団の騎士達は、全く見慣れない訓練方法を教えられ、強いられて、自分達は、一体、何の為に訓練をしているのだろうか……と、激しい疑問にぶつかっていたのは言うまでもない。
セシルの説明では、咄嗟の状況判断のスピードを上げる効果があり、少人数でいかに敵陣まで乗り込んでいけるかという巧みな戦術も必要となるらしい。
だが、ほぼ、全敗している騎士団の騎士達は、その効果をあまり見て取れないでいる。
次に、干し草の俵を並べ替え、地面から30㎝くらいのトンネルを作るような作業もあった。
その下をくぐり、前進していくというのである。
要は、お馴染みの匍匐前進だ!
地面にへばりついて前進しなければならない騎士達の制服は、泥で真っ黒である。
そして、またも、なぜ、こんな訓練をさせられなければならないのか……などと、騎士達からは、多少の不満や鬱憤も上がらないではない。
だが、文句を言いたくなってくる騎士達の前で、子供達はスイスイ、スイスイと、トンネルの下を這いずって行って、簡単にゴールしている。
ここずっと、領地の(あまりにヘンテコな)訓練で、惨敗を見せている騎士達だけに、子供達ができて自分達にできないのは恥だ、と鬱憤が上がっていても、今更、途中で訓練を止められないようだった。
まあ、変な理由でやる気に火がついたようだが、それも、やる気になる為の一つの理由にはなるだろう。
「今日のゲリラ戦は、旗取りではなく、紐取りの戦い方に変更します。この間、平面訓練でした時のように、腰に腰紐を結び、向き合った敵から腰紐を抜くとう戦い方になります」
ルールは、制限時間二時間。この間のように、ほぼ半日以上を山の中で隠れ潜むのではなく、短期間で敵を殲滅するゲリラ戦である。
ルールは、腰紐を取られた場合、その場で退場。要は、その場で制限時間が終わるまで、動かずに待機だ。
または、なんらかの理由で戦闘継続不可能になった場合、自ら腰紐を相手に渡すこと。
その他のルールでは、前回と似たようなもので、武器使用有り。木で作られた模擬刀の使用が許されている。
接戦になった場合でも、身体にダメージが残るような、または、死に至るような攻撃は禁止。
これは、顔への直接攻撃も含まれる。
「試合開始と終了の合図は、警笛を二度鳴らします。終了時の合図が鳴れば、全員、集合場所に戻って来てください」
腰紐は、たった一度だけで結びつけるだけだ。
上手く、相手の懐に入り込むことができれば、強く腰紐を引っ張るだけで、外れる可能性がかなり高くなってくる。
それだけに、接近戦がかなりでてくる戦闘でもある。
「ここまでで、質問はありませんか?」
ジャンがすぐに手を上げた。
「なんですか?」
「持参する持ち物に決まりはありますか?」
「武器として使用しないのであれば、それは個人次第です」
「攻撃をしないのであれば、それでいい、ということですか?」
「そうです」
この前の時よりは、ある程度、ルールが増え、その内容も明確になっているはずだ。
「他にはありませんか?」
フィロが手を上げる。
「どうぞ」
「自分のチーム以外は、全部、敵ですか?」
「そうです。このゲリラ戦では、領地の騎士、対、王国騎士団の戦いではありません。要は、最後まで生き残り合戦です」
そうなると、出くわした相手が同じ王国騎士団の騎士だとしても、敵とみなす。さっさと、敵チームを殲滅しないと、自分達のチームだって危ないことになる。
「他にはありませんか」
今回も、王国騎士団の騎士達からは質問が上がらなかった。
その様子を見ているギルバートも、騎士達は一応ルールを理解しているようだが、この間のようにルールの抜け穴や、意味の解釈違いなどという、残念な結果にならないだろうかと、少々、不安が残る。
「では、準備をしてください」
その合図で、子供達は自分達の荷物を置いてある場所に走っていった。
騎士団の騎士達は、剣を抜き取り、模擬刀を受け取っている。
子供達は、自分達で持って来た黒く大きなバックパックの中から、ゴソゴソと探り、簡単に自分達の準備を済ませて行く。
「今回は、大きなバッグではないのですね」
「そうですね。時間が限られていますし、短時間ですので、この間のように山や森の中に紛れ潜んでいては、時間がなくなってしまいますからね」
「そうなると――今回は、初めから前進、いえ、突進ですか?」
「たぶん、そうなると思います」
「そうですか」
そうなると、前回のように(あまりに悲惨な……)罠や仕掛けを作る暇はないのだろうか、なんて、ギルバートもちょっとだけホッとしてしまった。
ふふと、そのギルバートを横目で見やり、セシルが口元を上げる。
「罠や仕掛けなど、別に、時間をかけなくても、簡単に作れますのよ」
「えっ……?」
ゲロッ……と、吐き出しそうになったのは、言うまでもない。
あの子供達を、甘く見ていたようだ……(がっくり)。
それで、準備を終えた子供達は、全員がショルダーバッグを装備していただけだった。
「あの……ショルダーバッグの中には、一体、何が隠されているのか、確認してみたいですね……」
「では、後で聞いてみればよろしいのではないですか?」
「教えて、くれますか?」
「隠しているようなことではありませんわ。常日頃から持ち歩いているものですもの」
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