В.в つかの間の休日 - 09
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今日の休暇は、全員が満喫して、大満足だった。
そして、ホクホク顔で、王宮で借りている宿舎の方に戻って来た。
オルガとアーシュリン達は、王都で売っている可愛らしい小物店を見つけ、この日の為に貯めて来た貯金で、少し贅沢な買い物を満喫したらしい。
子供達は、もちろんのこと、初めから目的だった面白そうな武器を見つけたらしく、こちらも、ホクホク顔。
今日のところは、セシルは、子供達の買い物がどんな武器だったのかは知らない。
帰ったら見せてあげますよ、と言われたので、コトレアに戻ったらお披露目してくれるのだろう。
セシルも、お針子達から頼まれた、お土産用のいい布地を見つけることができた。
おまけに、ギルバートのおかげで、帰る日まで待たずに買い物しても、今日、そのまま王宮騎士団の方に運んでくれることになって、荷物を運ぶ必要がなくなったセシルには大助かり。
本当なら、あのまま王都に残って、夕食でも済ませて良かったのだが、さすがに、ギルバートや、ギルバートの部下の騎士達が護衛についてくれているので、半日以上も、賑わった街中をうろつかせるのも可哀そうである。
それで、待ち合わせの時間で全員が集合したら、その足で、王宮の騎士団の宿舎の方に戻って来ていた。
今日は、半日以上も休暇に付き合ってくれたギルバートに、全員から感謝のお礼が言われ、礼儀正しい騎士サマは、
「楽しまれようで良かったです」
そんな爽やかな笑顔を残し、セシル達の場所を後にした。
「随分、親しくなられましたね」
休暇、兼、護衛の仕事を終えたギルバートは、仕方なく、残りの仕事を片す為に、自分の執務室に戻ってきている。
夕方からは、今日の報告会もあるから、まだ仕事は終わっていない。
「そうか?」
「そのように見えましたが」
それで、少し考えてみたギルバートも、素直に頷く。
「確かにそうだ」
「それは、ようございました」
セシルが滞在中は、四六時中一緒にいられるので、話す機会も以前に比べて、断然、増えたものだ。
今日だって、お付きの者もいて、部下もいて――だったが、一応、少しは、セシルと二人きりで街を回れる時間があった。
社交辞令――ではなく、普通のお喋りもした。
「常々、思っていたんだが、私の個人的な私情を抜かしても、あの方と一緒にいると、変に気張らなくていいから、話しやすい」
通常の貴族の令嬢達を相手にするとは違い、セシルとの会話は楽しいし、気楽でもあった。
セシルは基本的にあっさりとしているので、余計な気を遣うことを要求されなくて、ギルバートも気楽に接することができるのだ。
おまけに、王族とはこれ以上関わり合いたくないわぁ……という態度が明らかなので、ギルバートの地位目当てで、おべっかや当てこすりを使ってくることもない。
嘘をついて近づいてくるのでもないだけに、余計に、セシルとの時間は、貴重なものだった。
「あれだけ、王族にも権力にも興味がないご令嬢は、なかなかいませんからねえ」
「そうなんだ」
「良かったじゃないですか? 王族の名や、殿下の立場で媚へつらってくる令嬢と、それと一緒にごそっと連なってくる貴族、その一族全員を相手にする必要もありませんから」
「確かに」
見れば見るほど、セシルの立場も地位も、今のギルバートにとっては、好条件なのではないか。
「あの方を手に入れたいと思っているのは私の我儘だが、それでも、政治的な思惑を考慮しても、随分、私は幸運なんじゃないだろうか」
「ええ、私もそう思いますよ」
全く異論もみせず、反論もみせないクリストフに、ギルバートは隣の部下に顔を向けた。
「お前も、最初から反対していないし」
「反対する理由がありません。あるのですか?」
「いや、私はないと思うぞ」
「ええ、ええ。私も全くございませんよ。認めるのはかなり癪なのですが、今の所、完全完敗、ですので」
「そうか。それは良かった」
素直に喜ばれて、クリストフが口端を曲げみせる。
「レイフ殿下は、どうなのです?」
「晩餐会をしろと、毎回、(しつこく)せがまれている」
「ドレスを持ってきていないと、おっしゃっていたじゃないですか」
「そう説明したが、それなら、私が買えばいいだろう、と言い返されてしまった」
「ご令嬢が、何の理由もなしに、ギルバート様がお買いになったドレスなど、着るとは思えませんが」
「ないな、絶対に」
それで落ち込むことではないが、あのセシルが、理由もなく、王子殿下であるギルバートからの贈り物を、受け取るとは思えない。
夜会の時は、以前にとてもお世話になったからと、その理由で贈ったネックレスは、(やっと)受け取ってもらえた。
突き返すのも失礼で、断れる状況ではなかったからだろうが、それでも、ギルバートの贈り物は、受け取ってもらえたのだ。
だが、今回は合同訓練という目的で王国にやって来て、初めから、王宮ではなく王都で住める場所でも探します、などと絶対に王宮には来たくないぞ、という意向がありありだった。
さすがにそれもできなくて、騎士団の宿舎の一部を、セシル達に貸し出すことで話はついたのだ。
王宮から呼ばれても着るドレスがない、と初めから用意万端で、いつでも断れる準備をしてきたセシルだ。
そんなセシルに、ギルバートがドレスを贈っても、きっと、丁寧に謝罪されて、なにかの理由をつけて、ドレスは返されるのが目に見えている。
「あれだけ王族を避けているご令嬢など、本当にいませんよねえ」
「そうなんだ」
「王妃よりも、お茶会を誘われているのでしょう?」
「それも、ドレスがないと断った」
「それで、納得していただけたのですか?」
「一応は」
アデラは残念そうな顔をしていたが、貴婦人の嗜みとして、王妃の立場として、それ以上、無理は言いつけてこなかったのだ。
ドレスもないセシルをお茶会に誘い、恥をかかせるわけにもいかない。
そして、セシルは騎士団の訓練中も、宿舎にいる時も、常にズボン姿である。
第三騎士団の騎士隊は、そのセシルの格好に慣れたので、最初の頃のような驚きは、もう、薄れた感じである。
今回はどんな理由をつけられようとも、セシルは最初から準備万端で、どんな貴族の――いやいや、王族の誘いだろうと、断る気満々なのである。
そう言った態度をあからさまに出していなくとも、セシルの周りには、四六時中、護衛がついているか、あの子供達が一緒にいるかで、誰かが近寄っていく隙もない。
隙も作らない。
前回の事件を警戒して、セシルの周りでもしっかりと護衛しているのかもしれなかったが、その理由だけでも――セシルは、王宮には、絶対に、近寄ってこない態度が明らかだった。
そこまで王族を避ける貴族の令嬢など、セシル以外、絶対にいないだろう。
本当に、セシルはあまりにも珍しい令嬢である。
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