В.б ゲリラ戦 - 06
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「痛いところを突かれたな」
ギルバートが、第三騎士団の団長であるヘインズの元にやって来たのを見て、ヘインズがまずそれを口にしていた。
「あのお方は、手を抜くこともない。妥協もしない。自分にどこまでも厳しく、自分の言葉に正直であると同時に、決して、その指針や信念を曲げないお方です。その指針を元に、領土全土で、領民が一丸となって、ご令嬢を支えていっているのですから、その「覚悟」 とて、簡単に覆されるようなものではないでしょう」
「なるほど」
「あの子供達は、全員、スラム街出身の子供です」
パっと、ヘインズの目が大きく見開いていた。
「全員、読み書きができます。初歩の計算も問題ありません。剣の腕が浅くても、それは剣技を習い始めたのが、つい最近だったというだけの話で、これから剣の腕も経験も、もっと伸びていくでしょう」
「――――すごいな……」
「ええ、そうですね」
口調や言動はさておいても、礼儀作法だってきちんと叩き込まれていて、剣の経験が浅くても、基本の動きは全て身に着けていた。
その上、ゲリラ戦で特化した技術や能力を発揮し、あんな子供なのに、王国騎士団の騎士をものともしないほどなのだ。
それが、スラム街出身の――薄汚い子供だったなど、あまりの変貌に、目を疑ってしまう。
「ご令嬢が教育した、と?」
「もちろんです。スラム街出身の孤児たちは、なにも、彼らだけではありません」
「まだいるのか?」
「もちろんです」
あっさりとギルバートが断言してきて、ヘインズが半ば口を開けたまま、呆然とした表情をみせる。
「ですから、私は、かのご令嬢には、頭が上がらないのです。親がいないことは、絶対に、子供達の責任ではない。そんなくだらない理由だけで、忌み嫌うのは間違っている。親がいないそういった状況、環境に問題があったとしても、むしろ、子供の世話もできないような無責任な親と大人に問題があるのだ――と、それを証明する為に、領地には、たくさんの孤児達が生活しています」
「孤児が?!」
「ええ、そうです。孤児というだけで、差別をされることも、そう少なくはないでしょう。悪いレッテルを張られることもあるでしょう。それなのに、はっきり言って、ここの王都よりも、あの領地の方が、遥に生活水準が高く、犯罪率も少ない。領土の広さや人口の違いがあったとしても、自分の信念を曲げず、それを証明してみせた、そして、それができた人間など、かのご令嬢を除いて、私は見たことがありません」
なにかを言いかけたヘインズの口が開いて、また閉じていった。
「――――すごいな……」
「そうですね」
「――――私も、応援しろと?」
「その必要はありません」
その返答は不服だったらしく、ヘインズの眉間が寄せられる。
「なぜ?」
「その必要がないからです。私は、いちいち、誰かの賛同や許可を得る為に、私の我儘を通しているのではありませんから」
「私は上官だが」
「ええ、ですから、かのご令嬢の護衛があるので通常任務はできない、と許可を取ったでしょう?」
そんなの屁理屈だ。
「別に、品定めを頼んだ覚えはありません。そんな必要など、全くありませんから」
「したつもりはない」
「そうですか」
「ただの――興味だ」
「左様で」
憮然として言い返すヘインズに、ギルバートの全く気にかけてもいない様子が、少々、頭にくるものだ。
だが、なぜかは知らないが、はあぁ……と、疲れ切ったような溜息をつくのだ。
「アトレシア大王国の王子二人までも魅了するとは……。通常なら、こんな異常事態、王子達を誘惑し、政を乱しかねない“悪女”、とされるであろうに――」
「前言撤回してください」
ヒュー――と、後ろで冷気が飛ばされたほど、その場で、一気に温度が下がっていた。
おまけに、苛立っているその殺気を隠そうともせず、自分の上官であるヘインズを、今にも斬り落としてしまいそうなほどの勢いだ。
「おい――」
「前言撤回を。随分な侮辱だ」
「侮辱ではない。ただ、昔からの例えを引用しただけだ」
「ほう?」
その返答も気に食わなかったらしく、ゾワッ――と、身の毛もよだつほどの殺気が上がる。
「おいっ――」
「大層な侮辱だ」
「だから、違うと言っているだろうがっ」
「ほう?」
いや、ギルバートの目がマジである。
「侮辱じゃない。今のは、例えだ。そして、その例え方も悪かった。侮辱する気は、一切ない。私が悪かった」
さすがに、本気の殺気を飛ばしてくギルバートなど、相手にはしていられない。
ギルバートは、「王族だから依怙贔屓されて――」 という妬み嫉み、嫌み、諸々を一掃させる為、早くから、自分の実力を見せつけてきたような男だ。
ヘインズだって、騎士としての経験も長かったが、第三騎士団で、実力なら1~2を争うような男と、正面切っての殺し合いなど、命がいくつあっても足りないではないか!
「私が悪かった」
「ええ、そうですね」
そこまできっぱりと断言するギルバートに、ヘインズの眉間が寄せられたままだ。
「侮辱ではない。言葉の綾だ。私が悪かった」
「二度はありません」
上官を脅してどうする気なのだ――
まったく、あの冷静沈着で、まったく物事に動じないとまで異名を取るギルバートの変貌にも、ヘインズは頭痛がしてきそうである。
「二人の王子?」
「知らないわけじゃないだろう?」
「国王陛下は、ただ単に、ものすごいショックを受けられたので、どう対応してよいのか分からず、それで、余計に意地になっているだけです。かのご令嬢は、調べても、調べても、更に謎の令嬢のままですから。それはご自分の性格上、自分で対応できない、または、対処できない問題が目の前にぶら下げられたままなのは、気に障る――というか、癪に障るのでしょう。恋愛ごとではありません」
そんな淡々と、冷静に、自分の兄を分析しなくとも良いものを……。
「国王陛下の結婚は、王族結婚にしては、幸せな結婚ですしね」
「それは分かっている……」
夫婦円満なのは、周知の事実だ。
「ですから、私が、このように、かのご令嬢と少し親しくなりましたし、今までの疑問が少しずつ解消し出しているので、これからは、以前ほどの執着は、お見せにならないでしょう」
だから、いちいち、家臣が心配することでもない、と暗黙に示唆している。
「“氷の王子”まで、手玉に取るとは――」
ハッとして、ヘインズが大慌てで口を閉じていた。
ヘインズの言葉で、ギロッと、ギルバートが睨みつけてきた瞬間、ヘインズは自分の間違いにすぐに気づいてしまった。
無言で、スーッと、ギルバートの剣が抜かれていく。
「やめろっ」
「二度はありません――」
それを吐き出すや否や、ギルバートの――本気の殺気が振り落とされていた。
この日、口が滑って、余計な一言を漏らしてしまった第三騎士団の団長は、上官であるというのに、部下のギルバートから、ものすごい厳しいしごきを受けて、その日一日は、地獄と化していたそうな。
そして、そんな事実があったなど、全くセシルの知らない話である。
読んでいただきありがとうございました。
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