В.б ゲリラ戦 - 05
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「人の話を聞く、説明を聞く、というのは、ただ、耳に言葉を入れているだけの行為ではありません」
特に、戦場ともなれば、出される指示の目的と意味をきちんと理解しなければ、ただの時間の無駄、戦士・戦力の無駄となってしまう可能性が大だ。
「今回の模擬戦では、ほぼルール無し、制限なしの、云わば、自由スタイルの戦闘訓練です。どのような方法や手段を使用しようが、全くルールに違反していませんのよ」
セシルの話を聞いている騎士団の騎士達は無言だ。
その騎士達を見やりながら、セシルが続ける。
「屁理屈だと思われますか? 別にそう思われても、問題ではありませんよ。それは個々の意見や感想ですから、お互いに、それを話し合っていくことが大事です。ただ、皆さんは戦うことに慣れていらっしゃるかもしれませんが、どの戦いにおいても、その意味と目的を、はき違えてはいけません。どんな戦いにおいても、必ず、目的と言うものはあるものなのです」
例えば――
戦に勝て、という指示が出された場合、どのように勝つのか?
勝敗を決める定義は、何か?
何を重きにおけば戦の勝利で、何をすれば、戦の敗北となるのか?
セシルがその質問を問いかける。
「ただ、「勝ちに行け」 などと、そのような、あまりに曖昧で不明瞭な指示では、戦に勝つことなどできません。敵を殲滅するのか、それとも、時間をかけず叩き潰すのか、巻き込まれた民を救ってそれで終わらせるのか、色々です。その目的次第で、戦法も変わってくるのです」
どんな状況でも、予想していた戦法など、すぐに使えなくなってしまうことなど常だ。
ただ、剣を散らし、斬り合いだけの戦いなど、終わりが見えないだけだ。
「たとえ、上官から命令されたとしても、「なぜ」 を理解していなければ、いつまで戦を続けなければならないのかも分らず、ただ、味方の戦力を無駄にするだけです。戦力は無駄にはできません。ですから、私達の領地では、それを徹底的に教え込んでいるのですよ」
そこで、セシルは話を締めくくっていた。
「騎士でもない女がなにを偉そうに、と思われているかもしれませんから、ここは一つ、今日の訓練を終わらせた者に、なにか感想があるか、聞いてみるべきでしょうね」
セシルの視線が、五人に向けられた。
それで、全員の視線が、自然に、ジャンに向いてく。
これは、いつものことだ。なんだかんだ言って、まとめ役のジャンが、いつも最後を締めくくる役目をやらされる。
ジャンは一歩前に出て、反対側に整列している王国騎士団の騎士達に向く。
「あんた達は、王国の騎士で、偉い立場なんだろ?」
ジャンの問いに、並んでいる騎士達は、ただ静かにジャンを見返しているだけだ。
「誰でもなれないから騎士なんだろうし、強くなきゃ意味がない。でも、あんた達は、俺達ガキ共に負けた。ゲリラ戦なんて、したことないんだろ? だったら、何だって言うんだ。負けは、負けだ。負けた時点で、あんた達の主は死んでることになる」
こんな子供に事実を叩きつけられて、騎士達はきつい眼差しを向けたまま無言だ。
「だから、俺達は、絶対に、「負け」 の意味を間違えない。俺達は主を護る、と決めた。誰かに押し付けられたんじゃない。俺達が自分たちで決めたことだ。だから、決めた以上、俺達は何でもする。まだ子供で、体格が小さくて、力がなくて、そんなこと関係ない。1対1の力技で勝てないなら、数を増やせばいい。やれることは何でもする。やれる方法を何でも探す。絶対に生き延びて、主を護る。それが、俺達の「覚悟」 と「決意」 だ」
貧民街、スラム街出身のクソガキ共を拾って、「世界を見に行きなさい。そして、人として、「選ぶ」ことができる人生を手に入れてみない?」――そんな夢物語のような戯言に、耳を貸す気だってなかった。
でも、領地に行った。
そこで、たくさんのことを学んだ。知った。道が拓けた。
そして、「選ぶ」 チャンスを与えられた。
それが、人として生きる――ということだと思うから、とセシルは言った。
貧民街の、それも、スラムで育った、クソガキ共なのに。そんなガキ共、大人だって相手にもしないし、そこらの子供だって相手にしない。
生き延びることに必死で、盗みだってした。殺し――殺される前に――だってした。
犯罪人なら、捨て置かれるか、重罰で、今頃、処刑されていた。
「将来」――そんな胸糞悪い概念なんて、存在しない世界だった。
でも、今は三食の食事を取れる。スナックも食べれる。住む家もある。友達もいる。
普通の人間――のように給金も貰える。そして、誰かを――助けることができる、守ることができる「力」 をもらった。
「できないことがあるなら、何だって学んでやる。それでもできないなら、埋め合わせする方法を考える。俺達は、護衛としての立場にしがみついてるんじゃない。俺達の目的が主を護ることだから、護衛役になっただけだ」
領地では、その役割が騎士だっただけだ。
初めから、騎士になりたくて、騎士を目指したんじゃない。
「別に、立場なんかなくたって、絶対に主を護る。そう決めた。だから、邪魔する奴は、誰であろうと絶対に許さない。歯向かう奴も、向かってくる奴も、絶対、返り討ちにする。俺達がガキだからって、なめんなよ。殺すことだって、覚悟の上だ」
まだ子供なのに、騎士達の前にいる五人は、大人顔負けの壮絶な覚悟を見せつけ、その強い眼差しを見せつけていた。
それだけの「覚悟」 をもって、きっと、その「力」 を得る為に、今まで、死に物狂いで、何もかも必要なことを学んできたのだろう。
スッと、セシルが動き、ゆっくりと腕を上げていった動きが、ジャンの頭の上で止まる。
よしよし、とも見てとれそうな動きで、セシルがジャンの頭を撫でているのだ。
「私は、あなた達がいてくれて、本当に幸せものね」
ふふと、嬉しそうに瞳を細めて五人を見守るセシルに、ジャンが少しだけ嫌そうに顔をしかめてみせる。
「……子供、扱いしないでください」
ふふと、セシルは笑っている。
「他の皆も、撫でてあげましょうか?」
「「「結構です」」」
「遠慮しなくてもいいのに」
「遠慮じゃありません」
確かにまだ子供ではあるが、頭をなでなでされるような、そこまでの子供でもないのだ。
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