В.б ゲリラ戦 - 04
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領地の騎士見習いはこの方法に慣れているので、いつも、たくさんの意見が上がって来る。
今日は、子供達は王国騎士団の騎士達がどう反応するのか、まずは、見守ってみることにしたようだった。
シーンと、王国騎士団の騎士達からは、何の反応も上がって来ない。
ギルバートが微苦笑を浮かべ、
「さすがに、うちの騎士達は全滅でしたからね……」
残念なことなのか、恥ずべきことなのか、ギルバートにも判らない。
「ゲリラ戦なら、うちの子達に匹敵する者など、早々、いるものではありません」
ふふふと、セシルが満足そうに口元を微かに上げた。
「ありがとうございます」
五人が嬉しそうに顔を綻ばせて、一礼する。
今回は初日とあり、反省会の前に、少し、話をしておくべきなのかもしれない。
「皆さん、不慣れなゲリラ戦に参加して、どう思われましたか? あんなのは、正しい戦法じゃない? 卑怯な戦い方だ? 現実には有り得ない? 馬鹿げている?」
一つ一つ羅列していくセシルの言葉に、騎士達からの返答はなかったが、それが、正に、今の騎士達の心情を物語っていたのは言うまでもない。
「自分達の方が勝っているのに? 強いのに?」
それにも、シーンと、全く返答がない。
「力が強い方が勝る。――確かに、それは常套ではあるかもしれませんね。ですが、“力”とはなんなのですか? 剣技? 己の力技? それとも、身体能力? 力任せの力技、という概念は、うちでは、そうですねえ――時代錯誤? と、考えてしまうほうでして」
そして、サラリと、あまりに際どい皮肉を飛ばしておきながら、セシルは全く態度が変わらず、慎ましやかに微笑んでいるままだ。
その沈黙の場で、慎ましやかな令嬢からのあまりに辛辣な言葉を聞いて、騎士達が絶句しかかっている。
「確かに、騎士のお仕事や、護衛のお仕事など、命懸けの仕事になることもあるでしょう。他人の命を守る? それは、簡単なことではありませんし、それだけに、その立場も、責任も、仕事も、重きをなしてくるのです。その「重さ」 を受け止めるだけの、「強さ」 を身に着ける「覚悟」 と「決意」 なのです」
人一人を護る時、最も重要なことは、まず、自分自身が最後まで生き抜くこと、生き延びることだろう。
命を落としていては、「護る」 という目的も果たせなくなってしまう。
「それは、本末転倒ですものね。ですから、私は、私を護ると誓った者たちに、「命を懸けろ」 とは言いますが、「命を投げ捨てろ」 とは、絶対に言いません。どんな時でも、まず生き延びることが最優先ですので」
豊穣祭で語ったセシルの絶対に折れない指針。
それを聞いた時でも、なにか――ズシンと、心に響く、そして残る言葉だと、ギルバートだって思ったことだ。
セシルの言葉は、いつも、ただの言葉だけじゃない。本気で、その言葉を現実に変えていく信念なのだ。
行動して、守り通していく意志なのだ。
だから、「生き抜いて、生き延びましょう」 というセシルの指針は、どんな時でも、どんな場でも、そして、どんな状況でも適応されるものだったのだ。
その指針を貫き通す為には、妥協もしない。
揺らがない。
迷わない。
それだけだって、ものすごい「覚悟」 だろうに、セシルは――なぜか、力だけで押し付けるのではなく、スルリと流れ込むように、そんな風に貫き通していける。
それを決めている、稀な一人だった。
「今回のゲリラ戦では、まず初めに、今まで慣れ親しんだ戦法や戦術が全く利かなかった、という点が挙げられるかもしれません。ですが、それは結果論であり、知らなかったことは、それは仕方がないとして、敏速に対処できる方法を考えるより、他はありませんね。今回の勝敗を決めた最大の点――そうですわね、きっと、最大の問題点は、この戦いの意味と目的を、理解なさっていなかった、という点でしょうかしら?」
「意味と目的、ですか?」
セシルが、少しだけギルバートの方に向き、
「ええ、そうです。今回の戦いの目的は、一番初めに、きちんと説明されました。覚えていらっしゃいますか?」
「参加するチーム毎に分けられた旗を、相手チームから取るか、または、相手チームの騎士達が、全員、戦闘継続不可能と判断された場合、それが勝者となるルールだと思いましたが? 時間制限は、朝の9時から夕方4時の間まで」
「ええ、そうですわね。それ以外で質問があるか聞きました時、王国騎士団からは、質問が上がってきませんでした」
「確かに。それが問題ですか?」
「いいえ。質問がないのでしたら、それに越したことはありませんが、このような、あまりに曖昧なルールの元の模擬戦ですから、もっと質問があるかと考えておりましたの。子供達からは、何点か質問が上がりましたでしょう?」
「ええ、そうですね」
戦闘方法や、攻撃方法、移動範囲許可内など、何個かの質問が出ていた。
「それが、勝敗の決め手なんです」
「それが?」
「ええ、そうです。この模擬戦の目的は旗取り、または、相手チームの戦闘不能さえできれば、その場で勝敗が決まります。別に、剣を使い、力任せで打ち負かせ、などとは言っておりません。子供達も質問していたでしょう? 攻撃するなら何でもして良いのか、と?」
「ええ、そうですね」
「それで、その答え次第によって、ある程度、自分達に許された攻撃範囲が、すでに、その場で確定しているのです。剣を使え、というルールはありません。落とし穴だろとなんだろうと、戦闘不能にするのであれば、ルール違反でもありません。正攻法で戦えとも、言っていません」
「あなたのおっしゃる意味が、判りました」
もう、一番最初のルール説明のあの時点から、王国騎士団は、子供達に勝敗を決められていた事実を、ギルバートもそこで理解した。
王国騎士団の騎士達は、普段、慣れ親しんだ戦い方から、敵に遭遇すれば剣で戦い、それから陣地を広め、敵地まで進んで行く方法を、もう勝手に、頭の中で決めてしまっていたのである。
それに対し、セシルの領地からやって来た子供達は、どれだけの制限がかかり、どこまでがルールなのか、確かめただけだった。
ほぼルールなど存在しないも同然の状況で、子供達は、あの場で、自分達ができる限りの攻撃方法を、何種類も考えていたに違いない。
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