А.в ヘルバート伯爵領コトレア - 07
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「セシル、気を付けて行っておいで」
「はい、お父様。後のことはよろしくお願いしますね?」
「ああ、もちろんだよ。心配しなくていいさ」
ぎゅぅっと、セシルが大好きな父親に抱きついていき、父のリチャードソンも、可愛い娘とのお別れに、しっかりとセシルを抱きしめた。
「セシルさん、気を付けて行ってっらっしゃいませ。また、豊穣祭で会いましょうね?」
「はい、お母様」
そして、次に、母親のレイナにも、セシルはハグをする。
「姉上、お気をつけて」
「ありがとう、シリル。いつでも遊びにきてね」
「はい、考えておきます」
最後に、可愛い弟にもしっかりとハグをする。
次に会う時は、きっと、シリルの身長がまた伸びて――今度こそ、セシルの身長を追い抜かしてしまうかもしれない。
「それでは」
セシルは身軽に馬の背に騎乗し、その場の騎士達に合図をすると、馬が快調に駆け出した。
使用人の全員が、丁寧に頭を下げている。
護衛の騎士達の他、王都から持ち帰る荷物を積んだ荷馬車が動きだし、見る見る間に、伯爵家の屋敷を去っていった。
ここだけの話だが、セシル付きの侍女であるオルガは、昔は馬車に揺られて移動をしていた。
だが、セシルは時間が押していると、護衛の騎士達を数人だけ連れて、さっさと領地に戻ってしまうことが毎回になってしまって、セシルからは、
「ゆっくり戻って来てくれればいいわ?」
などと、信じられないほどの優しい主サマからの言葉を受け取って、感動しているオルガだった。
だが、オルガだって侍女としての矜持はあるのだ。
「私は、お嬢様付きの侍女でございます。その侍女が、お嬢様のお世話もできずに馬車に揺られているなど、言語道断の行いでございます!」
それから、オルガも必死に乗馬を習い、今では――侍女の矜持とプライドにかけ、セシルが移動する時は、絶対においてけぼりになんてならないぞ! ――との意気込みすごく、一緒に騎馬で移動することができるようになったんです。
セシルは、本当に愛されていますねえ。
* * *
時を遡ること少し前――――
ノーウッド王国南方には、小さな農村が続く領地がたくさんある。南方は王都側に比べて、発展途上と言える土地が多く、領地の発展もほとんどされていない、所謂、田舎が多いのだ。
町とも呼べないほどの大きさの領地が揃い、ほぼ農村だけで成り立っているような場所ばかりだ。
その中で、南方でも少し西よりに位置する場所に、ヘルバート伯爵領コトレアという土地がある。
それぞれの領地はかなり離れた場所にあって、行き来することも簡単な距離ではないが、地理的で言えば、近隣の領地から――あまりに突出している、一領地だった。
近年では、商業や商隊などの交易路として、コトレアの領地を利用・活用する人達がかなり増えだしていた。
そして、コトレアを訪れる人達の間から決まって上がる決まり台詞、
「あの町って変わってるよなあ」
「そうそう。でも、面白いよなあ」
などなど。
そういった噂がチラホラと上がりだし、面白半分、確認半分など、領地にやって来る外部の人間の数が、かなり増えだしていた。
人口と言えば、千人ほどの“小さな町”と呼べるような大きさだ。
領地に暮らしている領民達も、日々、つつがなく暮らしている。
その領地には、昔は領城と呼ばれていた領主が住んでいる邸がある。小高い丘を利用し、その上に聳え立つ邸。
周囲の小さな家屋や建物とは違い、貴族が居住する邸としての風格を備えていた――が、華美でもなく、絢爛豪華でもない。
貴族の邸には見えても、ただ、それだけの建物だった。
そんな平和な領地で、今日のこの日、領内では、どこに行っても、領民達の気もそぞろだった。
ソワソワと落ち着きなく、日課の仕事中でも、誰もいない後ろをチラチラと確認してみたり、お昼を食べながらも、つい――その思いが、全く違う場所に馳せていた。
コトレア領の領主の館である邸内でも――そこで働いている使用人の行動が落ち着きない。
ここにも一人。
きちんとした燕尾服に身を包み、背筋正しく、テーブルの上にフォークやナイフ、スプーンなどを並べ、その一本一本を手に取り、丁寧に拭いている。
これは毎日の日課で、全くいつもと変わらない仕事の一つだ。
燕尾服を着た紳士は、邸の管理を一手に任されている執事のオスマンドである。
元は、王都にあるヘルバート伯爵家のタウンハウスである屋敷を任されていたが、セシルの父親であるリチャードソンから直々に頼まれて、コトレア領の邸を管理する為に、コトレアに移って来た一人だった。
お貴族サマに仕える執事と言うものは、大抵、何においても冷静で、卒がなく、屋敷の管理も、屋敷で働いている使用人の管理も、そして、当主様の身の回りから仕事の世話まで、完璧にこなすことができる有能な人物が多い。
なにしろ、貴族と言えば――まあ、ピンからキリまであるのだが――大抵、自分の領地で何が起きているのかも知らなければ、把握していない貴族などたくさんいる。
そんな(役立たずの) 貴族サマが、なぜ、生き延びていけるかって?
それは、陰ながらお貴族サマを支えている有能な執事と、働き者の使用人達によることが多い。
陰の功労者とも呼べよう執事の有能さで、お家一つ潰れるか、盛り上がるか、そこまで大袈裟に、その一家の左右を簡単に決めてしまう重要な役職だ。
ノーウッド王国や近隣諸国の王国もそうだが、一応、執事学校という執事を育成する専門の機関がある。執事見習いで貴族の屋敷などに泊まり込みの若い執事達が、貴族の推薦を受ければ通える、要は専門学校である。
その成績次第では、高位貴族の専属執事として、永久就職が決まることもある。
読んでいただきありがとうございました。
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