В.а 合同訓練 - 04
ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。
* * *
午後の暖かい日差しが窓から差し込み、その室内は、明るく照らされていた。
大きな執務室の、大きな机の前で、礼儀正しく立っている男性が、机に座っている現外務大臣、ヴォーグル侯爵のハラルドに向き合っていた。
「ガルブランソン侯爵の動きが、少々、うるさいようですが。かなりの力を入れて、調べ上げているようです」
まあ、その程度の動きは、ハラルドにも驚きではない。
あのガルブランソン侯爵は、自分の娘を第三王子殿下の妃候補として、ここ数年、うるさく王宮側に催促しているほどである。
婚約話、結婚話が全く思うように進まないまま、あの第三王子殿下には――誰も知らない他国の令嬢の恋人がいる、などというあまりに驚愕の事実が発覚して、見知りもしらない他国の令嬢に腹を立て、必死になって、裏を暴こうとしているのであろう。
自分の娘を差し置いて、他国の全く無縁の令嬢が、第三王子殿下を横取りした(セシルは全くそんなことをしていないのに……) との認識で、自分の邪魔となる令嬢を、裏で徹底的に調べ上げていたとしても、なんの不思議もない。
邪魔な存在が一体誰なのか、何の目的があるのか、あの侯爵なら、とことん調べ上げるだろう。
「まあ、表立ってのバカな行動はしないだろうが、しばらく目を光らせおくように」
「わかりました」
セシルの存在が邪魔であっても、表立って行動を起こすような愚鈍ではないだろう。
もし、セシルの身に何かあってしまっては、一番最初に疑われる可能性が大なのは――王宮で娘を売り出していた、ガルブランソン侯爵だからだ。
その程度の愚行さで、一族を取り潰すほど、馬鹿な男ではない。
権力に貪欲な男ではあるが、それは、大抵の貴族なら誰もが示す傾向や特徴で、目に余るような行動でもない。
特に、今は――この王宮に、またあの令嬢がやってきているという話を、ハラルドも耳にしている。
騎士団との合同訓練?
そんなバカげた理由で、令嬢を呼び寄せるギルバートもどうかしているが、事実、あの令嬢は、騎士団の方にだけ滞在しているらしい。
それだけに、ガルブランソン侯爵が、セシルの素性を明かそうと躍起になって、セシルの周囲を嗅ぎまわっていてもおかしくはない。
だが、王宮内では、ハラルドの耳にも、セシルの噂は、ほとんど上がってきていない(まだ)。
どうやら、ギルバートだけではなく、騎士団の方でも、緘口令に近い規制を敷いているのかもしれなかった。
新国王陛下の即位で、王国も、王都も、王宮も、どこでも浮き足立っている。政権入れ替わりになると、下で仕えている官吏達、家臣達も落ち着きをみせない。
かくいうハラルドも、今年からは、外務大臣に任命された。
アルデーラが国王陛下に即位したことで、正式に、弟のレイフが内務の宰相に任命されたからだ。
まあ、これは、ある程度、予想されていた役職替えでもあるし、特別、内務を離れ外務に移っても、ハラルドの仕事の量も変わらなければ、責任も立場も変わるものではない。
ヴォーグル侯爵家は、王国の侯爵筆頭だ。
だから、王国を支え、王家を支持していかなければならない。
内務の宰相時代からも、外国問題、外務問題などは、自然、扱わなければならない案件もある。それで、外務に全く通じていないわけではない。
だから、これからは、更に外務の業務が滞りなく進むように、知識も経験も磨き上げていくだけだ。
だが、王家を支持する侯爵家筆頭としては、王国内、または王宮内の――問題となり得る芽は、しっかりと摘んでおく必要がある。
しっかりと、把握しておく必要がある。
他国の見知りもしない伯爵令嬢だろうと、凶と出るか、吉と出るか、ハラルドは、自らの判断で見極める必要があるのだ。
今の所、王宮内に放っている“目”や“耳”の報告からでも、セシルの周囲には、常にギルバートが付き添っているという話が出ている。
そうでなければ、自国から連れて来た自分の護衛達が。
それなら、多少、あのガルブランソン侯爵が周囲でうるさく嗅ぎまわっても、それほど、セシルには影響がないだろう。
問題となる芽は、なにも他国の令嬢だけではない。
自国の内政だって、身内にだって、問題はあるものなのだ。
「ガルブランソン侯爵の動きがあれば、すぐに知らせるように」
「わかりました」
それで簡潔な報告を終えて、部下が立ち去った。
さて。
一息ついて、ハラルドが立ち上がって、自らも部屋を後にした。
ハラルドにはこの後――恒例の“報告会”が待ち受けているのだ。
「まったく、自分一人だけ独り占めして、ずるいではないか」
ハラルドは――現在内務の宰相となった、第二王子殿下の執務室に来ていた。
第二王子殿下のレイフとは、ハラルドが宰相を務めていた時代から、宰相の補佐役をしていたから、かなり長い付き合いでもある。
ハラルドは、今は、外務大臣に任命された。
だが、今までの癖で――ハラルドは、毎日、レイフに呼び出されて、その日の報告やら、興味深い話やらと、レイフの話し相手をさせられている。
これは昔からの恒例行事で、今となっては、もう、言い返す気も失せて、毎日、四時になると、ハラルドはレイフの執務室を訪れていた。
「アフタヌーンティーなら、3時だろう?」
仕事を終える前に、(さっさと) レイフの相手を済まそうと考えているハラルドに、文句を言ってきたレイフに対し、
「アフタヌーンティーなど取りませんので」
などと、スッパリとレイフを切り落とすハラルドだ。
それで、二人の“報告会”は、毎日、四時に始まる。
読んでいただきありがとうございました。
一番下に、『小説家になろう勝手にランキング』のランキングタグをいれてみました。クリックしていただけたら、嬉しいです。
Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)





