В.а 合同訓練 - 02
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そこまで、セシルに気遣って、セシルの我儘を聞き入れてくれようとするギルバートの好意には、セシルも感謝してしまう。
王宮内、と言っても、あの広大な敷地の片隅にある騎士団の宿舎なら、セシル達の行動範囲は騎士団内だけ、ということになる。
もしかして、宿舎に滞在している騎士達を追い出したかもしれない状況を想像して、ここは、セシルもギルバートの親切に乗ることにしたのだ。
大感謝して。
一応、今も、本人が目の前にいないが、ありがとうございます、とお礼を口にして、新しい便箋を取り上げていた。
アトレシア大王国に到着した時にも、しっかりと、ギルバートの好意にお礼を言おう。
今回は、かなりセシル達の我儘が入ってしまったから。
隣国であるアトレシア大王国とは、もう、これ以上関わり合いになりたくはなかったが、それでも、迫る合同訓練には、セシルも密かに期待している。
他国で、外国で、正規の騎士団に混ざって訓練をさせてもらえるなんて、これこそ一生に一度あるかないかの好機。
普通なら、絶対に有り得ない状況のはずだ。
一月、一体、どんな訓練になることだろうか。
ギルバートや、付き人のクリストフはセシル達との合同訓練に意欲を見せているが、正規の騎士となった騎士達が同意見とは限らない。
むしろ、他国の、それも田舎の小さな領地の騎士達など、全く相手にしないかもしれない。
田舎者が、なんて。
それでも、セシルはそんな状況になったとしても、あまり問題にはしていない。心配も、していない。
ギルバートは、今まで会って話した場面を振り返っても、王子殿下であるのに、かなりフェアな男性だとセシルも考えている。
王子殿下である立場を優先せず、騎士団の副団長としての立場と役割だけに集中して、礼儀正しくて、威張り散らしたりする場面だって見たことがない。
それは、セシル達の前だけ、そうやって礼儀正しくしているのかもしれないが、一緒に付き添ってきているギルバートの護衛の騎士達だって、ギルバートへの信頼があきらかに見て取れるほどだ。
コトレアの領地にいる時だって、ギルバートは残りの護衛の二人を気遣って、ちゃんと休暇を出してあげたほどである。
だから、ギルバートは、きっと、部下達からも信頼され、その人柄だって認められているはずなのだ。
そんなギルバートが指揮をする騎士団の部下達が、セシル達を相手にしなくても、ギルバートは、きっと、訓練の手を緩めることはないだろう。
それなら、あの子供達も、しっかりと、王国騎士団の訓練を受けさせてもらえるはずだ。
なんだか、その時が待ち遠しくなってきてしまう。
ふふと、つい、セシルの口元も嬉しさで緩んでしまっていた。
* * *
「今回は、皆様にお世話になります。これから一月、よろしくお願いいたしますね?」
待ちに待った合同訓練の五月。
もう、アトレシア大王国も春を終え、天候的にはそろそろ初夏を迎え始める暖かな日々。
晴天も続き、騎士団の訓練所だって、土が乾き、訓練中ではそろそろ簡単に土埃が上がり始める頃でもある。
王宮の端から王都寄りに設置されている、王都門(裏門) 側で待ち合わせの約束をしていたので、その場に現れたセシル達一行は、迎えに来たギルバートとクリストフと共に、王宮騎士団に案内されていた。
ギルバートは本気で騎士団の宿舎の一画をセシル達に譲ってくれたようで、宿舎や敷地内の案内をしてくれている時に、大きな宿舎が並ぶ建物の前で、説明をしてくれた。
三階建てにもなる建物で、さすが、大国。騎士団の宿舎も、しっかりとした頑丈なレンガ造りで、建物の外観だって趣がある。
その大きく長い宿舎は、何か所かに分けて入り口が分かれているそうなのだが、セシル達には端っこの一画を譲ってくれたらしい。
それで、階段側から12部屋が並んでいるらしいので、セシル達の人数には丁度いいだろう、と説明してくれた。
今回、合同訓練の為にアトレシア大王国にやって来たのは、セシルを入れて五人の騎士見習いの子供達。セシル付きの護衛の二人。
そして、侍女であるオルガとアーシュリンの二人で、計、十人だ。
当初は、侍女であるオルガとアーシュリンを連れて来る予定はなかったのだ。今回は、訓練がメインであるから、セシルもただ寝泊まりするだけで十分だろうと考えていたのだ。
それで、護衛の二人と子供達だけで、アトレシア大王国に向かおうと予定していた。
だが、オルガから、一体、誰がセシルの身の回りの世話をするのですか?! ――などと、ものすごい勢いで、形相で問い詰められてしまって、
「マスターがご自身で洗濯をするなど、絶対にいけませんっ! 絶対に許しません!」
と叱られてしまったセシルだ。
合同訓練であろうと、れっきとしたセシルは貴族の令嬢だ。準伯爵なのだ。
それが、平民と一緒に混ざることはいいとしても、貴族の令嬢であるセシルが洗濯やら、身の回りの世話を自分自身だけでするなど、オルガとしても許せないものがあるのだ。
そこまで困窮した身分の低い貴族でもあるまいに!
オルガは、コトレアの邸で侍女長になったから、今は邸の侍女達や使用人達を統括している。
だから、侍女見習いや使用人達がしている雑用などに取り掛かることは、もう、ほとんどなくなっている。
今回、セシルと一緒にアトレシア大王国にやってきた場合、ほとんどが、セシルの身の回りの世話だけで終わってしまい、たぶん、雑用係として仕事をする羽目になるだろう。
それを説明してみたセシルだが、オルガは一歩も譲らず、
「私の若い時は、そのような雑用の仕事から始めました。なにも、今更、それが初めてする仕事ではございません」
セシルとしては、オルガはもう侍女長となったから、わざわざ雑用に関わる必要はなくなっているので、そんな仕事をしなくてもいいのではないかと思ったのだ。
オルガ本人はそのことは全く気にしていなくて、むしろ、セシルが雑用する――なんて悲惨な状況に青ざめて、今回はセシルと一緒に同行してきたのだ。
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