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Б.г 王国騎士団 - 02

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「副団長様?」

「はい、なんでしょう」


「このように、私の為にお時間を取っていただきまして、ありがとうございます。お仕事の……お邪魔をしていないといいのですが……」


「そのようなことは、お気になさらないでください」


 にっこりと爽やかな笑みを投げるギルバートの態度は、ここ数日、全く変わりはしない。


 セシルに遠慮しているのか、本当に問題でないのか、セシルにも判断しかねている。


 でも、実は、セシルは騎士団の見学も、(こっそりと) 期待しているのだ。


 普段なら、王国騎士団などという正式な騎士団に関わる理由もなければ、そんな状況だってないだろう。


 だから、セシルの自領で騎士団を設立してみたが、それは、ノーウッド王国でもたぶんしているのではないか、というような仕事や責任を、ラソムと話し合って混ぜ合わせてみただけなのだ。


 一応、騎士らしく礼節は教えてはみているものの、それが正しい騎士の礼節なのかどうかも、セシルは知らない。


 ギルバートやクリストフを見ていると、騎士としての動作や仕草、行動が、なんだか無意識でも出ているような、そんな感じなのだ。


 考えもせずに、もう、騎士としての行動が体に身に染みついている、といったような。


 そんな正規の騎士団を見られる機会なんて、一生かかってもやって来ないだろう。


 通り過ぎ様に、吹き抜けの廊下の向こうの方から、賑わっているのか、騒がしい雰囲気がうかがえる。

 もしかして、騎士達の訓練所が近いのかもしれなかった。


「第一から第三までの騎士団とのことですが、それぞれの騎士団に所属している騎士達は、どのように見分けていらっしゃいますの?」


 やっぱり、顔で?

 それとも、制服の違いなど?


 でも、見る限り、通り過ぎて行く騎士達は、皆、全員同じ制服を着ているようだった。


 以前、セシルが(閉じ込められていた) 泊まらされた客室に迎えに来た騎士の制服を思い浮かべてみて、廊下側で待機している部下の騎士達との制服の違いは、なかったように思える。


「ある程度の顔は覚えていますが」


 やっぱり、顔だけ!?


 でも、ものすごい数だろうに、その全員の顔を覚えているのも至難の業では?


 そうなると、違う騎士団の騎士がどの騎士なのか、判らない可能性の方が高そうである。


 それって、緊急時などで、毎回、どこの所属なんだ? ――って、確かめないといけない状況なのかしらね。


 あまり信憑性がなくて、効率の悪い方法を取っているように思えてならないが、セシルなど赤の他人。他国で、隣国の令嬢なだけだ。


 一々、見知らぬ令嬢が騎士団の運営方針に口を挟むなど、以ての外だろう。


 吹き抜けの廊下から外れて、外に出て行くと、視界の向こうでたくさんの騎士達が、剣闘の訓練をしているようだった。


 掛け声が聞こえたり、剣がぶつかる音が飛び交い、真剣勝負に近い戦いが繰り広げられていた。


「ここは第三騎士団の訓練所になります」

「広い場所なんですのね」

「それほどでもないのですがね」


 セシルにしてみたら、辺り一面が平地の場所を訓練所だけに使用しているなんて、すごい広さだと思うのだが。


「それぞれの騎士団で、訓練所が違いますの?」


 こんなに広いのに、共有しないなんて。


「そうですね」


 さすが、大王国。


 騎士団一つでも、ものすごい広い敷地に訓練所が設置され、騎士団ごとにそんな広い敷地が与えられるなんて。


「クリストフ、自由剣闘は終わらせて、次の30分、基礎運動をさせろ」

「わかりました」


 スッと、クリストフだけが二人の元を離れ、騎士達が訓練している場所に近付いて行った。


「全員、集合っ」


 その掛け声一つで、全員の動きがピタリと止まっていた。

 一糸乱れぬとは、こういうことを言うのだろう。


 実は、その光景を見ているセシルにも、ものすごい壮観ですわぁ……と、素直に感心していたのだ。


「次の30分は、基礎運動に入れ」

「はいっ」


 順番に整列した騎士達は、ピシャリと背筋を伸ばして起立したまま、揃って礼儀正しい返事をする。


 セシルはクリストフの騎士団での立場を知らなかったが、やっぱり、予想していた通り、かなり上位の立場にいることは、今の光景で明らかになった。


 王子殿下の付き人で、常に護衛をしているクリストフは、ただの一介の騎士には到底見えない。


 いつも陰のようにギルバートに付き添い、その他の護衛達に指示を出していた場面を見ていたら、セシルだって、クリストフが上位の騎士なんだろうな、と憶測を立てていた。


 もしかして、さっきから通り過ぎ様に頭を下げて行った騎士達は、ギルバートが王子殿下だからだけではなく、副団長で、おまけに、上級士官かなにかのクリストフにも頭を下げていたのではないだろうか。


 クリストフは一人の騎士に何かの指示を出しているようで、それが終わると、また静かにギルバートの側に戻って来た。


 ズラリと整列していた騎士達は、あの一人の騎士から指示を出され、列を変え始めている。


「訓練というものは、普通、どのくらいするものなのでしょうか?」


「それは、その騎士団にもよると思いますが、うちの場合は、任務が入っていない時は、午前中に1~2時間、午後に1~2時間、といったところでしょうか」


「そうなのですか……」


 一日に二度ほどの剣技や剣闘の訓練らしい。


 セシルの場所では――うーん……、全く違う基準だ。


 なにしろ、コトレアでは剣技の訓練だけではなく、基礎体力運動もあれば、物資組み立て訓練もあり、非難訓練に、ゲリラ戦の練習に、戦術講義に、礼節授業、領地の観光案内役訓練、コミュニケーション講義、その他諸々含まれている。


 ほぼ、日本の学校のカリキュラムが組まれているような状態だ。



(あら? もしかして、たくさん授業を詰め過ぎてしまっているのかしら?)



 セシルが望む仕事の量も幅も多いだけに、その全部を教え込むのに、もしかして、セシル達は、かなりカリキュラムを増やし過ぎたのだろうか。


 そんな懸念が上がってきてしまう。


 コトレアに戻ったら、ちゃんとラソムに確認してみなくては。


「ご令嬢の領地では、どうですか?」

「えっと……、ええ、まあ、色々ありまして……」


 あり過ぎ――じゃないですよね……?


 モゴモゴと、言葉を濁しているセシルの態度には気付かず、ギルバートとクリストフも、あの子供達が漏らしていた会話を思い出していた。


 領地の騎士団の訓練は色々だ、と。


 セシルの領地で色々?


 あまりに何もかもが違い過ぎる基準だから、実は、ギルバート達だって、“色々”が想像もつかないのだ。


「時間があったのなら、もっと、教えていただきたかったですね」

「えっと……、それほど、大したものでもありませんのよ……」


 半分は適当、と言うか、ただ単に、セシルが必要だろうなと感じて要望した仕事ばかりが多い。


 正規の騎士団の騎士の仕事とは、たぶん、大いにかけ離れているかもしれなかった。


 でも、セシルの領地ではあまりに“普通”に当てはまるものが何一つなかっただけに、セシルの言葉を簡単に鵜呑(うの)みにできない二人だ。



読んでいただきありがとうございました。

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