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* Б.г 王国騎士団 *

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「よろしければ、王国騎士団の見学など、いかがでしょう?」



 そう誘われたのは、王妃とのお茶会を無事に終えた、次の日だった。


「他国の者が出入りしても、よろしいのですか?」

「ええ、構いません」


 なんて、思ってもみない好意なのだろうか。


 セシルは、もちろんのこと、是非お願いします、とすぐにその誘いを受けていた。


 ギルバートとしては、騎士団の見学などは退屈になってしまわないだろうか……と、最初は懸念していた。


 セシルを王国に招待することに際し、クリストフと(たくさん、しっかりと)練った“セシルのおもてなし計画”の一つに、一応、“騎士団の見学”は入れてはおいたものの……。



「ええ? かのご令嬢なら、大喜びしそうですよねえ。なにしろ、自領でも、騎士団の訓練が気になって、見学にいらしたではないですか」



 そうなのだ。


 普通の貴族の令嬢を基本として考えたのなら、ギルバートに媚び(へつら)ってくる以外の理由で、騎士団に近寄ってくる令嬢はいないだろう。


 でも、セシルは、(しん)に、王国騎士団の訓練に興味があったようなのだ。


 たぶん、そうやって自分の知らないことを学ぶ()()が嬉しくて、興味深くて、セシルは自分の趣味だろうとなかろうと、きっと、学べる機会を無駄にしない女性なのだ、ということはギルバートもよーく理解した。


 それで、()()()()()計画通り、一応、騎士団の見学を誘ってみたら、セシルは嫌な顔せず、喜んで誘いを受けてくれた。


 これで、ギルバートも、ほっと一安心である。


 さすがに――昨日は、思ってもみない場所から横槍(よこやり)が入ってきてしまい、王妃に逆らうこともできず、セシルは、(絶対に望んでもいなかった) 王妃と()()()()のお茶会に参加する羽目になってしまったから……。


 王族に構われ過ぎて、



「あぁ、今すぐに帰りたい……」



などと思われてしまったら、ほんの一時しか一緒にいられないギルバートの計画が、滅茶滅茶になってしまう。


 やっと――やーっと、去年の豊穣祭以来、ずっと会いたかった、ずっと恋焦(こいこ)がれていたセシルに会えたのだ。


 期限付きとは言え、こんなに長く一緒にいられる機会が訪れたのに、嫌な気持ちだけで王宮を離れられたら――ギルバートはセシルのご機嫌取りだってできやしない。


 もう二度と会いたくない――なんて、そんな悲惨なことを思われたら……絶対に、ギルバートだって、立ち直れないこと間違いなしだった。


 セシルはこの王宮にいる間、王国ではあまり見慣れないドレスを着ていた。


 派手でもなく、華美でもなく、王国でもよく見かけるフワッと盛り上がったドレスのスカートでもなく、レースやフリルがたくさんついているのでもない。


 むしろ、生地の柔らかさや形などを、そのまま自然に見せる感じのドレスが、多いように見えた。


 だから、セシルが歩く度に、動く度に、ふわり、ゆらりと、緩やかに流れるようなドレスの線がきれいで、しとやかで、サラサラと癖のない真っ直ぐな銀髪と共に揺れる様が、しっとりとした美しさを映し出しているかのようだった。


 それで、そのセシルを(こっそり) 見つめているギルバートは、ここずっと、



「あぁ……、きれいだな……」



とセシルに見惚(みと)れてばかりいる。


 セシルの容姿は、もう、王国内でも1・2を争うほどの完璧な容姿だ。


 それは判っている。


 だが、着ているドレスが流れるように美しくて、穏やかな様相も、表情も、ゆっくりと瞬きする仕草も、それなのに、真っ直ぐに強く見返してくる深い藍の瞳が印象深くて、その全部が揃い、



「美しいな……」



贔屓目(ひいきめ)無しに、無意識に、ギルバートの頭に浮かんでくるのだから、ギルバートがただ惚気(のろけ)ているだけではないはずだ。


 ノーウッド王国は隣国でも、「異国のドレスなんだな」 と思えば、全然、違和感はなく(元々、セシルによく似合い過ぎているので全く違和感なのないが)、ここ数日のセシルの着ているドレスを、簡単に受け入れているギルバートだった。


 明るい日差しの下では、セシルの銀髪がキラキラと輝いている。


 あの髪に触れられたのなら……。


 何度、衝動的に、自分の手がセシルに伸びかかり、咄嗟に、その自分を止めていたギルバートだっただろうか。


 いつかは――ギルバートだって、気兼ねなく、セシルの髪に触れることができるのだろうか……?


 今は――まだまだ、遠い、手の届かない恋心を持て余しているギルバートだった。


「副団長様の隊は、第三騎士団とのお話ですが?」

「ええ、そうです」


「第一から第三騎士団なのですか?」

「ええ、そうですね。今では、それぞれの騎士団にも、かなりの騎士が揃いました」


「大国ですもの。騎士の数とて、たくさんいらっしゃるのでしょうね」

「今は、そうですね」


 それまでは――騎士の選別だって慎重に、念入りに、“長老派”の息のかかった貴族かどうか、身元や身辺調査も厳しく、そういった手順があって、騎士の入団だって、容易いものではなかった。


 平民からの騎士を投入するようになってからも、“貴族主義(選民(せんみん)主義)”を貫く貴族出身の騎士との差別があったり、確執があったりと、問題は色々あった。


 今は、どうにかやっと、騎士団としての機能もまとまってきた状態だ。


「あの――皆様は、制服が三着ほどおありなのですか?」

「三着? いえ、正礼装用と、普段の勤務用だけですが」


「あぁ、いえ、そういう意味ではありませんでしたの。正礼装用の制服は、副団長様は白地で、他の方は薄紫だったように拝見しましたので」


「ああ、そのことでしたか。そうですね。白地の正礼装は、団長と副団長用のみです。残りの騎士達は階級に問わず、薄紫の正礼装用の制服があります」


「そうだったんですか。やはり、国ごとに色々とあるのですのね」


 ふふと、セシルも可笑しそうに笑っている。


「おや? ノーウッド王国では、どうなのでしょう?」

「ノーウッド王国――では、あまり私も見かけたことがありませんが、(確か……) 上下とも、濃紺のような制服を着ていたのではないかと思いますわ」


 それも、卒業式に参列していた騎士達の話だが。


 あの時以来、ノーウッド王国の王宮とも、騎士団とも、全く関わり合いを持っていない。会ってもいない。


 それなのに、今は――全く関係もない隣国の王宮にやって来ているのだから、皮肉な話なのか、不思議な話なのか、どうちらでしょうねえ。


 長い、長い、廊下をゆっくりと進んで行き、通り過ぎる貴族や騎士達がギルバートの前で足を止め、頭を下げて行く。


 騎士の仕事をしていても、ギルバートはれっきとした第三王子殿下だ。


 セシルだって、本来なら、ずっと頭を下げたまま、勝手に口だって開かず、平伏(ひれふ)しているのが普通なのだ。


 それなのに、多大な恩を感じて、ものすごい親切からセシルの面倒をみてくれている、みさせてしまっている第三王子殿下に、今だって道案内をさせてしまっている。


 恐れ多いものだ……。



読んでいただきありがとうございました。

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