Б.в お茶会もこりごりです…… - 03
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「ヘルバート伯爵令嬢のあなたには、前回のことで――とても迷惑をかけてしまいましたわ。それで、王国にいらしている間、わたくしも、あなたに謝罪とお礼を述べたかったものですから」
「王妃陛下に、そのようなご好意を賜りまして、私もとても嬉しく思います。ですが、どうか、そのように、お気になさらないでくださいませ」
セシルの態度は穏やかで、落ち着いている。そして、その態度を反映するかのように、穏やかで静かな声色。
うるさ過ぎもなく、高過ぎもなく、ただ、穏やかな声色が耳に届く、柔らかな音だった。
こうやって、二人ともただの社交辞令を続けて、おほほほほほ、の時間を過ごしても良かったのだが、セシルはただの令嬢ではない。
そこらの貴族の令嬢などとは比べ物にならないほどの――器だからなのか、その器量さだからなのか、あのギルバートが本気になった令嬢だ。
もし、ギルバートが自身の我儘を本当に突き通せるのなら――いずれ、セシルだって、この王宮に関わって来る令嬢になるのだ。
自国では、きっと、貴族の令嬢としての教育は受けていても、王妃教育、または王族の妃の教育など、受けてきたことはないはずだ。
「今日は、人払いをしてありますのよ。このお茶会も、堅苦しいものではありませんの。ですから、気兼ねなくお話してくださいね」
「そのようにお気遣いくださりまして、ありがとうございます」
だが、セシルから何かを話しかけてくることがないのは、明瞭だった。
「ブレッカでの戦では――本当に、王国側が多大な迷惑をかけてしまいました……。貴族のご令嬢でありながら、あのような危険な場所で、怖い思いをなさったことでしょう。そのあなたを……更に危険な目に遭わせるなど……恥ずべきことですわ……」
「もう、無事に終わりましたので」
「そう、ですわね……。ですが――お怪我などされませんでしたの……?」
社交辞令の会話でも――それでも、王妃の心配そうな気配は伝わって来た。
真摯に、ブレッカの戦場にいたセシルを心配してくれているだろう――その優しい気配がセシルにも伝わって来た。
威厳があり、厳格そうな国王陛下であるアルデーラとは全く違い、王妃が醸し出す雰囲気は、柔らかな、そして、嫋やかな、高位貴族の貴婦人のようなものだ。
厳しさや、威圧感を丸出しでもなく、その立場や地位で威嚇してくるような――感じが全く見受けられなかった。
ほんの数度、関りになっただけだが、アルデーラは――ある意味、やり手の王子だった。
自ら戦に乗り込んできて、騎士団を従え、自分の立場もはっきりと理解していて、命令する時さえも決して迷いもせず、状況次第でかなり――冷酷になれるような印象を受けたものだ。
あのアルデーラの妃となるアデラは――威厳があり、厳格な感じのするアルデーラの相手となり、重荷ではないのだろうか?
そんなことが、セシルの頭にも浮かんでいた。
「いいえ。幸運なことに、そのような場はありませんでした」
「そうですか……。それを聞いて、なによりですわ」
セシルがアルデーラを庇って受けた怪我のことは、説明されていないらしい。
それは、きっと――アルデーラが命を狙われてしまったという事実で、下手に、王妃を心配させない為なのだろう。
どうやら、あの国王陛下であるアルデーラは、王妃であるアデラを、きちんと大切にしているらしい。
「お礼を兼ねて夜会へとお呼びした場でも――ご令嬢には、またも、迷惑をかけてしまいましたわね……」
「無事に解決したようで、なによりでございます」
「ええ、そうですわね……」
そして、ほんの微かにだけ、アデラの顔に憂い顔が浮かんでいた。
「なにか――ご心配ごとでも?」
「いいえ、なんでもありませんのよ……。ただ――ブレッカのことと言い、夜会のことと言い、物騒な国だと思われていらっしゃるかもしれませんわね……」
その自嘲気味な小さな笑みが、全てを物語っていた。
セシルは、ただ静かにその先を促すようにした。
「アトレシア大王国は、その治世も統治も穏やかだと言われておりますわ。ですから――ご令嬢には、問題や迷惑ばかりに巻き込んでしまいましたけれども――この王国とて、悪い国ではございませんの……」
「そのような意見を持ってはおりませんので。どこの国でも、平和であろうと、多少の問題は――あるものではございませんでしょうか?」
「ええ……、確かにそうですわね。陛下が、新国王陛下として即位なされ、これから王宮の体制も、王国の体制も色々と――変わっていくものでしょう。まだ、王宮内も、落ち着きを取り戻しておりませんものね。色々、うるさかったのではありませんか?」
「いいえ、そのようなことはございません。皆様には、大変よくしていただいております」
「そうですか。それを聞いて安心しました」
「この国に、悪い印象を持ってはおりません」
ズバリと、その一言を持ち出されて、微かに驚いたアデラが、数度、瞬いていた。
そして、うつむき加減で何かを考えていたのか、顔を上げて、セシルを、もう一度、見直す。
「ヘルバート伯爵令嬢」
「はい」
「このように、王国に来ていただいたのに、あなたに怖い思いをさせるつもりはありませんの。それでも、あなたには、何度も、王国のことで迷惑をかけてしまいましたわ……。きっと――詳しい事情を、誰一人、説明した者はいないかもしれないと思いますけれど、やはり――あなたに秘密にしておくことは、もっと、危険を呼んでしまうことではないかと、思いますの……」
「それは何でしょう?」
「どうか……、身の回りで、警戒を怠らないでくださいね……。どんな時でも、どんな場でも――」
「身内に敵がいるからですか?」
あまりにあっさりと、はっきりと、ズバリと言い当てられて、アデラが息を呑んでいた。
「王妃陛下も、そのような環境や状況では、気の休まる時もないのではございませんか?」
「わたくしは……わたくしは、大丈夫ですわ……。わたくしには、いつも護衛がついておりますもの。今日も――人払いをさせておりますが……、お恥ずかしいことながら、わたくしの護衛が控えておりますしね……」
「それは、王妃陛下のお立場であれば当然のことですので、どうか、お気になさらないでくださいませ」
「――平和――そうに見えて、問題ばかりが上がってくる国だと、思われないでくださいね……。王宮――や、そういった力の集まる場所では、珍しいことでは、ないと思いますの……。貴族としても」
「ええ、そうですね。王妃陛下は、日々、どのように対処なされていらっしゃるのですか? ――出過ぎた質問でしたら、謝罪致します」
「いいえ、そのようには思っておりませんわ。わたくしは――王妃としての務めを果たすだけですわ。問題――が起きてしまった場合でも、その一つ一つを解決し、王妃としての立場を、責任を果たすだけですもの」
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