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Б.б デートはいかが? - 07

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「せっかくの、ロマンチックとなる機会に、こぶ付きのデートですか?」

「ロマンチックって……」


 セシルを迎えに行く前に、あまりに白けた様子でクリストフが指摘して来た。


「昼間も、護衛というこぶ付きでしたが、夜もこぶ付きですか?」

「オスミンの約束の方が先だっただけだ……」


 別に、ギルバートは意図して、オスミン付きの――デートなど、考えたわけではない。


 ただ、丁度良い機会だから、セシルも一緒に誘ったのだ。


 だから、少しだけ、夜もセシルと一緒にいられることになったのだ。


「せっかく二人きりになるチャンスですのに」

「二人きりって……。護衛がついてくるのだから、二人きりにはならないだろう?」


「いえ、私は(やぶ)の中にでも身を隠し、気配を殺し、絶対に姿を出しません」

「そこまでしなくてもいい」


 そこまでの()()()()()()()状況じゃないのだ。

 大袈裟にし過ぎだ……。


「ですが、せっかくのデートですよ」

「デートって……」


 一緒に観光することはできたが、あれは、デートと言わないはずだ。


 セシルの“おもてなし計画”の一つで、多大な恩を受けて、その恩返しでもある。


「未婚の令嬢が未婚の男性と一緒に行動し、公共の場で落ち合い、公共の施設などを訪れ、一緒に食事をし、一緒の時間を満喫する。デート、以外にあるのですか?」


「……そういう、定義なのか?」

「そうです」


 クリストフは、一体、どこからそんな定義を身に着けて来たのか、あまりに怪しいものである。


「デート中に、手を繋ぐことはできませんでしたが、一緒の時間は過ごせたでありませんか」

「手を繋ぐって……、できるわけがないだろうが、そんなこと」

「えぇえ。まだまだ親密な関係ではございませんからね」


 まだ、夜会に招待したばかりではないか。

 誰が、親密な関係、になどなれるものか。


「ですから、今夜はチャンスです」

「無理だって」

「そうですね」


 その答えが分かっていながら、ギルバートをけしかけるなど、一体、どういう性格をしているのか。


「私は、ご令嬢と一緒にいられるのなら、今はそれでいいんだ」

「純愛、ですねえ」

「うるさいぞ」


 まだ、始まったばかりではないか。

 だから、今から二年の猶予なのだ。


 最初から、たくさんのことなど望めなくても、今は、まず、最初の一歩は踏み出せた。手に入れた。


「ですが、まあ、嫌がられずに、一緒に行動してくださっていますからね。今は、それで良しとしましょう」

「うるさいぞ」


「せっかくのデートなのですから、もう少しデートらしい格好に着替え、貴公子として出迎えに行くべきではないのですか?」

「クリストフ、お前は、今夜、私についてくるな」

「それは無理です」


 なにしろ、クリストフはギルバートの唯一の付き人で、腹心なのだ。

 ギルバートの護衛は、クリストフの責任と任務だ。


 はあぁ……と、ギルバートがうるさそうに溜息をこぼした。


「クリストフ、お前は私を応援しているのか? それとも、ただ単に、からかっているのか?」

「両方です」


 そして、そこら辺の秘密を全く隠そうとしないクリストフに、ギルバートも脱力している。


「もう、いい。それ以上、その話を持ち込むな」

「ご命令とあれば」

「命令だ」

「左様で」


 クリストフの相手をしていたら疲れるだけなので、ギルバートはクリストフを無視し、その夜、セシルを迎えに行っていた。


 オスミンも一緒に連れて。


 ガーデンに進むと、すでに、ガーデンパスの両端に、小さなロウソクが灯されていた。


 ユラユラと揺れる、儚い灯りが当たりを灯し、その光に反射して、大理石のタイルに埋められた色取り取りの宝石が、夜の暗闇にもキラキラと浮かび上がっていた。


 その光景を見たオスミンは大喜びで、駆け出していく。


 ゆっくりと隣を歩くセシルは、色取り取りの宝石の輝きが浮かぶその幻想的な空間で、素直に感動しているようだった。


 黒地の長いコートをまとい、薄暗がりの周囲に溶け込んでいってしまいそうな雰囲気の中、セシルの癖のない銀髪だけが、ロウソクの灯りに反射して輝いていた。


 空気が冷え込み、すっきりと浮かぶ月の灯りが優しく落ち、時たま、話の合間にギルバートを振り向くセシルの白い顔と、深い藍の瞳が神秘的で、たとえ二人きりではなくても、セシルといられるその静かな時が、ギルバートにとっては何にも代えがたい時間だった。



(やはり、ご令嬢には宵闇が似合う……)



 昼間のセシルだって美しくて、生き生きと活気があって、見ているだけで嬉しくなり、目が離せない。


 でも――


 暗がりが落ちる夜では、セシルの儚げな様相が強調され、闇に溶け込んでいってしまいそうなのに、それでも、その美しい存在感が際立ってしまうような、そして、決して触れてはいけないような、神秘的な雰囲気が、ギルバートの息を奪ってしまう。


 手を伸ばして触れてはいけないような、それでいて、伸ばさずにはいられないような、狂わしいほどの色香に魅せられてしまいそうだった。


 宝石の光の中に浮かぶ、唯一、その輝きを失わない宝玉。


 呼吸を奪われるほど、あまりに美しいものだった……。


「今日は、副団長様に、一日中、お付き合いしていただきまして、本当にありがとうございます」

「いいえ。――そのお礼は、私の言葉です……」


 こんなにも近く、愛おしいセシルの側にずっと一緒にいられたのだから――



読んでいただきありがとうございました。

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