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Б.б デートはいかが? - 06

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* * *



「副団長様、今日は、王都へ観光に連れて行ってくださり、ありがとうございました」


 王宮の客室に戻って来たセシルは、今日一日満喫できた観光が嬉しくて、ギルバートに向かって真摯に頭を下げた。


「どうか、そのようことはなさらないでください。喜んでいただけたようで、私も安堵しております」

「ええ、とても満喫しました」


 観光の為にセシルをたくさん歩かせてしまったが、セシルは全く苦にしていないようで、ギルバートもホッとする。


 普段から、自分自身で、仕事回りで外に出る機会が多く、視察も毎回しているセシルだから、そこらの貴族の令嬢のように体力のないご令嬢だとは、ギルバートも思っていない。


 それでも、今日は、長い時間、かなりセシルを歩かせてしまった。


「お疲れではありませんか?」

「大丈夫です」


「それは良かったです」

「副団長様は、お疲れではありませんか?」

「いえ、私は大丈夫です」


 全然、疲労さえも感じていないギルバートだ。


 以前も、セシルと違い、そこら中を駆け回っても息切れせず、領地で訓練している時でさえも、爽やかなまま全く普段と様子が変わらないギルバートを、セシルも見て来た。


 かなり体力がある騎士サマだろうなあ、とはセシルも思ったことだが、今日、一日中王都を歩き回っても、ギルバートは疲労の“ひ”の字も見えないほど、一日中、その姿が変わらない殿方だった。


 普段から厳しい訓練をしているので、体力もかなりあるのは疑いようもない。


「今日は、ご令嬢をたくさん連れ回してしまったのですが……」

「そのようなことはありませんわ。とても満喫した一日になりましたもの」


「それは、良かったです。ただ――今夜、オスミンに、ガーデンへ連れて行く約束をしてしまったものですから……」

「ガーデン?」


 あっ――と、セシルもそこで思い出していた。


 夜になると、ロウソクが灯され、タイルにはめ込まれた宝石が光り輝いて、とても綺麗な光景が見られる、と。


「あのガーデンですの?」

「はい。陛下に許可をいただいたのなら、連れて行ってやると、約束したものでして……」


 オスミンは本気でその約束を取り付ける気だったらしい。


 夜だから外出も控えなさい、というような返答を予想していたギルバートに反し、国陛下であるアルデーラは、ギルバートが一緒なら良い、という許可を出してくれたそうなのだ。


「もしお疲れでなければ、ご令嬢も、ご一緒にいかがでしょうか……?」

「ご迷惑ではありません?」


「そのようなことはございません」

「もし……、よろしければ、是非、お願いいたします」


「では、少し遅くなりますが、九時頃に迎えに参りますが、よろしいですか?」

「はい、よろしくお願いいたします」


 王都の観光だけではなく、今夜は、もう一度、あの可愛らしいガーデンを見られるらしい。


 今日は、随分、楽しい一日になったものだ。


 それから、挨拶を済ませて客室を去ったギルバート達がいなくなり、セシルは王都で買ってきたお土産を披露していた。


 フィロには厚手のノートブック。

 オルガとアーシュリンには、小さな髪留めを。

 イシュトールとユーリカには、剣にぶら下げるタリスマン的な付け紐を。


 それぞれにお土産が当たり、全員が嬉しそうにお礼を言っていた。


「マイレディー、今夜はお出かけですか?」

「ええ、そうですね。昨日、連れて行っていただいたガーデンに、夜も連れて行ってもらうことになったのです」


 うふふふふふふふと、あまりに不気味な笑みを浮かべ、アーシュリンの頬が嬉しそうに盛り上がっている。


「どうしたのです、アーシュリン」

「いえ……。マイレディーは、ロマンチックな夜のデートに行かれるのだな、と思いまして」


 そして、乙女チックに、その光景を想像して、アーシュリンが顔を綻ばせている。


「夜のデート? それは、ないでしょう」

「こぶ付きのデートですか?」


 セシルが否定したとほぼ同時に、フィロの淡々とした付け足しだ。


「こぶ付きのデート……」


 そんな発想が、一体、どこから上がって来るのか。


「ええ? ロウソクに灯されて、キラキラと輝く宝石のガーデンパスを散歩し、夜の暗がりで、(うるわ)しの美しい貴公子の方と肩を並べて一緒に歩けるなんて、ロマンチックですわぁ……!」


 アーシュリンの激しい妄想の方がロマンチックですねえ……。


 セシルもフィロも、二人揃って、白けた眼差しを向けているが、アーシュリンは夢心地のまま、顔を綻ばせている。


「さすがに、王族の方と、それはないでしょう」

「そうかもしれませんが……。ああぁ……、でも、ロマンチックですぅ……!」


 アーシュリンは、まだまだ、乙女の夢が満開の若い少女だ。


 そんな夢(妄想)を期待して顔を綻ばせているなど、純粋でかわいいものだ。


 セシルなど、子供の時から子供ではなく、すでに、冷え切った大人だったものだから、そんな乙女チックな想像さえしたことがない。


 おまけに、この世界に生まれ変わってからと言うもの、乙女チックとは全く無縁で少女時代を過ごしてきた歴史もある。


 そんな、純粋なロマンスを期待できるアーシュリンも、かわいらしいものだ。


 だが、ここで一つだけ、セシルが知らない事実がある。


 ロマンチックなデート――ではないかもしれないが、それでも、そのシチュエーションに手助けした人物がいる。


 なにしろ、弟であるギルバートの恋愛は前途多難だけが見込まれて、その相手も最強とも言える強敵に近い。


 未婚の婦女子が未婚の男性と二人きりで、それも、暗い夜に会っている光景は、密会をしているだなどと、悪い噂や評判がすぐに上がってきてしまう。


 あのガーデンなら、尚更だろう。


 だが、子供でいるオスミンが混じった場合、それはそれで、王族の好待遇を受けているのだな、程度の結果で終わる可能性が高い。


 だから、(渋々に)仕方なく、国王陛下であるアルデーラも、息子のオスミンの外出を許したのだ。


 ギルバートがオスミンに約束したのは、偶然である。

 その偶然を聞いて、仕方なく、手を貸してやったのは、国王陛下であるアルデーラだ。


 こぶ付きのデートだろうが、ギルバートなら、せっかくセシルを連れ出すチャンスがあるのに、そのチャンスを見逃すはずはないだろうから。


 ここまでの後押しをされても、大した進展は望めそうにもないが、それでも、全くなにもないよりはマシか……と、アルデーラもギルバートの恋愛が発展するのかどうか、はっきり言って定かではない。


 そんな思惑も知らず、セシルは、今夜、()()()()()()()()に参加する。






読んでいただきありがとうございました。

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Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

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