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Б.б デートはいかが? - 05

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 向こうの方から、先程の騎士がすぐに戻って来たようで、大きなパンを抱えて、それをギルバートに手渡していた。


 大きなパンは半分に切られ口が開いていて、その上には――たくさんの、串刺しのお肉が乗っている。


 これは……この時代、この世界でよく見かける、パン式の皿ではないだろうか。


 この時代、この世界、屋台での食事は皿などを出さない場所が多い。皿を出したとしても、すぐにその場で食べて、返却できなければならないからだ。


 安価な紙で包むこともない。まだまだ、紙は高価な代物に分別されているから。


 そうなると、前世(なのか現世) の大昔、中世でも、皿の代わりに、硬い、硬い、パンが出てきたことは有名だ。

 パンが皿代わりになり、その上にお肉などが乗せられているのだ。


 ギルバートの手の中にある串刺しのお肉の皿が、きっと、硬い、硬い、パンなのだろう……。


「こんなものですが、どうぞ」

「では、いただきます」


 串を一つ取り上げて、一口噛んでみる。


 お腹が空いて来た頃だったので、塩味のあるお肉はおいしいものだった。


 ギルバートはパンを自分の膝の上に置き、ギルバート自身も串を一つ取り上げた。


 モグ、とは一切れ口には入れたようだが、すぐに、残念そうに顔がしかめられ、それで、無言で、モグモグと、ギルバートはお肉を食べている。


「……あの、副団長様には、味が合いませんでしたの……?」

「いえ、そんなことはありません……」


 つい、白けた表情が顔に出てしまっていたようだった。


「いえ……、そうではないのですが……。ただ、ご令嬢の領地で食べたお肉は、とても美味(おい)しかったです。豊穣祭で食べた串刺しのお肉も、とても美味(おい)しかったです」

「まあっ……」


 まさか、ギルバートが今食べたお肉と、領地で食べたお肉を比べていたなど、セシルも思いもよらなかった。


「炭火で焼かれていて、お肉が美味(おい)しかったです。クリストフと一緒に、あのような味付けがあったお肉は初めて食べました……」


 それで、もうあのお肉を食べられない事実に、しょんぼりと残念がっているのだ。

 まるで、お預けをくらった子犬が、しょんぼりと落ち込んでいるかの様相だ。


 くすくすと、つい、セシルの口元から笑いが漏れてしまった。


「炭火で焼くから、おいしくなっているのです」

「そうなのですか?」

「ええ、そうです。炭火効果で、外はカリッと、中はふわっと焼き上がるのです」


 遠赤外線と近赤外線の効果だ。

 だから、外は水分を含まずカリカリと焼き上がる。中は、ふわっとジューシーに。


 ああ、日本の焼き鳥が思い出されてしまう……!


「炭火で焼いている間、お肉の油が垂れ、炭の上に落ちてしまいます。それが、煙となり、お肉を燻煙(くんえん)する形になり、更に味が深まるのですよ」

「そのような技術が……。あのような美味しいお肉は、初めて食べました……」


 そして、更に残念そうに落ち込んで行くギルバートだ。


「もっと食べられないのが、非常に、残念です……」


 ()()()、とまで強調してくれるなんて、セシルの領地での食事も、ギルバートは大層気に入ってくれたようである。


「味付けがしてあって……」

「お肉に味が染み込んでいて、ジューシーでおいしいものでしょう?」

「はい」


 そして、あまりに素直に、大真面目に返事をするギルバートだ。


「あれは、マリネードと言う方法で、ソースや、果実の汁、またはハーブなどにお肉を付け込んでおく方法なのです。そのソースの種類などによっても、硬いお肉を分解する効果がありまして、数時間程漬けておきますと、舌がとろけるほどに柔らかくなることもあるのですよ」


「なるほど」


「それに、数時間も漬けておきますと、ソースなどがお肉に染み込み、焼き上がったお肉にも味が染み込んでいて、とてもおいしいものです」


 それで、領地では“串刺しのお肉”という感じで紹介されているが、実は、焼き鳥にかなり近い食事を提供している。


 セシルの領地ではお醤油はないから、ハーブやら、塩・こしょう、または、果実の汁を混ぜたトマトソースなど、少々、西洋っぽい焼き鳥にはなってしまっているが。


 確かに、今もらったランチの串刺しお肉は、焚火(たきび)で直に焼いたものだろう。だから、外側が少しドライになっている。


 中身が焼けるまで焼き過ぎて、中側も水分が抜けている感じだった。


 それでも、セシルはお腹が空きだしていたので、少し乾いたお肉を食べていると思えば、問題はない。


薪木(まきぎ)などの直火でお肉を焼く場合、やはり、中まで火が通るように、少し時間をかけてしまうと思うのです。その間に、外側はかなりドライになってしまうのかもしれませんわ」

「そう、かもしれませんね……」


 そして、はあぁ……と、かなりやるせなさそうに、ギルバートが長い溜息(ためいき)をこぼす。


「残念です……。あのお肉は、とても美味しかったですから……」

「そのような好評を聞けて、私も嬉しく思います」


「ご令嬢の領地の食事は、どれもこれも、全て美味しいものでした。ご令嬢の手が加わっているからだと、お聞きしましたが、だからこそ、食べたことのない料理でも、とても美味しかったです」


「私の趣味です。おいしいものを食べられることは、とても幸せなことですもの」

「本当に、ご令嬢がおっしゃる通りです……」


 まさか、このギルバートが、料理一つのことで、ここまで恋しくなってしまうなど、誰が想像できようか。


 生まれた時から王子で、食事など、最高級のものばかりが出されて育って来た。

 最高級の材料で、最高級の料理人が料理して、最高級の料理が出されてきたはずだ。


 それなのに、セシルの領地で食べた、珍しい料理ばかりが思い出されて、あの味が恋しいなぁ……と、お腹が空いてしまうと、つい、考えてしまうことになるとは。


「あぁ……、せめて、あの中の一品だけでも、誰かが作ってくれたのなら……」

「そのようにおっしゃっていただいて、私も嬉しく思います。ですが、今日のランチ、私はおいしくいただいております」

「そうですか?」


 それで、あからさまな猜疑の眼差しだ。

 そこまで疑わしく考えなくてもいいのに。


「はい。お腹が空いてきましたし、塩味がきいていて、おいしいものです」

「そうですか? ご令嬢の領地とは比べ物にならないと思いますが」


「ご飯は勝ち負けではありませんもの。お腹が空いた時に食べられるものは、なんでもおいしいものですし、それに、こういう味付けも嫌いではありません」


 お世辞で言ってくれたのかもしれないが、セシルは屋台で買って来たただの串刺しのお肉でも文句は言わず、そして、嬉しそうに食べてくれている。


 ほっこりと、ギルバートも嬉しくなって、ランチを終わらせていた。




読んでいただきありがとうございました。

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Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

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