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* Б.а 気晴らしに *

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「お疲れではございませんか?」

「いえ、私は大丈夫です」


「では、少し散歩などいかかでしょうか? オスミンも、少し動き回るには、丁度いいでしょうしね」

「ギルバートおじうえ、さんぽを、ごいっしょしてもいいですか?」


「ああ、もちろんだ」

「やったーっ」


 つい嬉しさが勝って、オスミンの子供らしい反応が飛んでいた。


「ヘル、ヘルバル――」

「ヘルバート伯爵令嬢、だ」


「ヘル、ヘルバー……」

「セシル、とお呼びください」


「セシル?」

「はい」


 呼びづらい名前から、簡単に呼べる名前がでてきて、オスミンがホッとした顔をみせる。


「セシル」

「はい」


「セシル嬢、と呼ぶべきだよ、オスミン」

「セシルじょう?」


「そうだ」

「わかりました」


 いやいや、別に、セシルは、王子殿下に名前を呼び捨てにされようが、全く気にしない。


 そこまで格式張っているのも苦手だし、王族で礼節は大切なのは承知しているが、セシルはただの伯爵令嬢である。


 そこまで、呼び方にこだわっていないのだ。


「セシルじょう」

「はい」


「あなたは、どこのくにのひとですか? ははうえは、たこくのごれいじょうなのですよ、といっていました」


「ノーウッド王国です」

「ノーウッドおうこく?」


「このアトレシア大王国の隣に位置する国です」

「となり? どのくらい、とおいのですか?」


「馬車に乗って、五日から六日ほどかかります」


 わぁ……と、自分ではまだそんな遠出をしたことがないオスミンは、五日という遠出は、一体、どんなものなのだろうと、心弾ませる。


「ギルバートおじうえは、いったことが、ありますか?」

「ああ、そうだな。私はヘルバート伯爵家の領地に、何度か、使者として赴いていったんだよ」


「とおで、ですか?」

「はは、そうだな」


 オスミンはまだポニーに乗り始めて、乗馬の練習を始めたばかりなので、馬の騎乗はできない。


 幼い王子だから、()()もしたことはないし、王宮から出たこともない。

 小さな王子の世界は、全て、王宮内だけで始まって、終わっていた。


「こちらへ、どうぞ」


 ガゼボが建っていたガーデンから少し離れて、広大な敷地を歩いていたセシルの前で、ゲートのついた入り口があった。


 暦では立春を過ぎていても、まだ微かな冬の寒さが残る季節なのに、目の前にあるゲートを飾るようにローズアーチがあって、これから咲き誇るであろう小さな蕾が実っていた。


 ゲートの側には騎士が二人立っている。

 ギルバートと小さなオスミンが近寄っていくと、二人の騎士が、一糸乱れず、深い一礼をした。


 ギルバートはアイロンゲートの片方を開けて、セシルに半分向きなおった。


「どうぞ」

「よろしいのでしょうか?」


「ええ、もちろんです」


 手を差し出されているので、セシルもギルバートの手を取ってみた。


 ゆっくりとエスコートされて、セシルはローズアーチをくぐり、ゲートを通り過ぎて行く。


「うわぁ! おじうえ、もようがありますっ!」


 三人でゲートを潜り抜けると、丁寧に手入れされた芝生が両脇にならび、通り道を飾るように小さな花が植えられている。


 そして、三人が歩いている場所は、外なのに大理石の舗道ができていて、そのタイルの上には花の模様が描かれていたのだ。


 その模様が連なって、すぐ先に見えて来る小さな噴水まで大理石が伸びている。


 小さな花々に囲まれ、花が描かれた大理石の上を歩くなんて、花畑を歩いている妖精の気分になってきそうな、とても可愛らしい場所だった。


「おや?オスミンは、この場所が初めてだったのか?」

「はいっ、はじめてです」


「あそこに見える噴水まで、このフラワーパス(Flower path)は続いているんだよ。今は昼間で見えないかもしれないが、真ん中のタイルには、花の中に小さな宝石が埋められている。夜には、両サイドにロウソクの灯りが灯り、小さな宝石が光りに反射して噴水までの道をほのかに照らしてくれる」


 うわぁ……! と、ギルバートの話を真剣に聞いているオスミンの瞳が、その光景を想像してキラキラと輝いている。


「ぼくも、よるにみてみたいです」

「そうだね。昼間とは違った雰囲気があって、とてもきれいだよ」


 セシルが歩いて行く大理石を少しだけ見下ろしてみると、それぞれに違う花模様の花の中心に、確かに、ギルバートの話したように小さな宝石が埋め込まれている。



(うわぁ……! こんなに可愛い場所を歩けるなんて、生まれて初めてですわ……)



 もしかしなくても、この場所は――王族専用のガーデンの中で、今、セシルはそのガーデンの中を歩いているのだ!


 大理石だって、この時代ではものすごい高価な品物だ。


 その大理石で作られた道が続き、そのタイルの一つずつに花模様が施されていて、おまけに、宝石が埋め込まれているなど、さすがに、セシルだって生まれて初めて見た光景だ。


 前世(なのか現世)でも。

 そして、今のこの世界でも。


「すごく……可愛らしいんですのね……! とても高価な場所を歩いていますのに、このような色取り取りの花に囲まれ、小さな宝石が日差しを反射してキラキラと……。素敵な花畑を歩いている気分になりますわ」


 チラッと、ギルバートがエスコートしているセシルの横顔を盗み見する。


 セシルは瞳を細めて、大理石のタイルを見下ろしながら、その表情がとても嬉しそうだった。


 ギルバートの選択は間違っていなかったようで、ギルバートも嬉しくなってしまう。


「噴水の向こう側には、手入れされたガーデンが続いていますが、この場所は、3~4代前の王妃殿下が造られた場所なんです。入り口があまりに殺風景で、残りのガーデンとの協調性がない、とのことで」


「まあ、そうでしたの」


 やはり、この場所の出入りは、王家の一員のみ許されるプライベートの場所だったのだ。


 セシルなど、他国の伯爵令嬢なだけで、きっと、この場所に入ることさえ許さるような立場ではない。


 今日は、ギルバートがセシルを一緒に連れて来てくれたから、このような一生に一度あるかないかの貴重な経験をさせてもらえたのだ。


 さすがに、あまりに好待遇を受けてしまったセシルでも、一生に一度あるかないのかの機会を無駄にするなど、あまりに勿体なさ過ぎる。


 小さな噴水までの道はあまり長くなかったが、それでも、大理石のタイルの上を一歩、一歩、歩いて行くだけで、可愛らしい花々に囲まれ、そっと足を置いた先で、小さな宝石がキラキラと輝いていて、本当に、お伽話に出てくるような可愛らしい場所だった。


「このような素敵な場所に連れて来てくださって、ありがとうございます、副団長様」

「お気に召されたようで、私も嬉しく思います」



読んでいただきありがとうございました。

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