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А.в 慰労会と称して - 02

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「あの――これは……?」

「コトレアの領地で滞在している間、ご令嬢には、大変お世話になりました。そのお礼と言えるものではございませんが、どうか受け取ってはいただけないでしょうか?」


 また、この状況も、困った状況である……。


 本人は、真摯(しんし)に感謝の気持ちで贈り物を用意したのかもしれなかったが、それでも、今の状況は――どう見てもマズイ状況なのである。


 薄い箱の大きさから見ても、きっと中身は――宝石かアクセサリーの類に違いない。

 そうなると、親切や感謝で贈られるような、もらえるような度合いの贈り物ではないだろう。


 一般的に言っても、見知らぬ赤の他人に、宝石など贈りはしないものだ。見知った知り合いにも、贈らないだろう。


 宝石など、この時代では、高価の部類に入るのだ。デパートやお店に行って、気軽に買えるような代物なのではない。


 だから、せめて、ある程度、親しい相手に対して贈られるものである。


 でも、セシルは、そこまで親しい関係の人間ではない。


 男性が女性に宝石を送るなど――どう見ても、誤解される光景ではないか。


 おまけに、その相手が第三王子殿下ともなれば――その誤解が、更に、嫌な方向にまっしぐらに向かってしまうのは、目に見えている。


 どうしようか……と、迷っていても、淑女の(たしな)みとして、好意から贈られたものを無下に押し返すこともできない。

 その相手が王子ともなれば、なおさらだ。


 だが、気軽に受け取ることも(はばか)れて、どうしようか……、本当に困った状況である。


「お礼なら――訓練もしていただきましたし……」

「訓練など、常日頃からの日課同様で、とてもではありませんが、お礼に値するものではないでしょう」


「そのようなことはございませんが……」


「ご令嬢には、私達の都合で、何度もご迷惑をおかけしてしまいましたし、その上、領地では、そんな我々を快く歓迎してくださりました。この程度では、とてもお礼を返せれるものではございませんが」


「――――私のような者が、そのような贈り物を、本当に、いただいてもよろしいのでしょうか……」

「受け取っていただけたら、私もとても嬉しく思います」


 ああ……、もう逃げ道がない。


 王子殿下にここまでの好意をみせられたら、送り返すことは、本当に失礼になってしまう。


 仕方なく、セシルはギルバートの手から小箱を受け取った。


「ありがとうございます……。開けてみても……、構いませんでしょうか?」

「ええ、構いません」


 そっと、箱の蓋をあけていくと、光沢のある滑らかな赤い布が出てきた。それも、そっと外してみて、

「――まあっ……、なんて美しい……」


 箱の中には、銀でできたネックレスが入っていた。


 首元の部分が薄い三日月の型になり、銀のパネルではなく、三日月の中は流れるように繊細な花模様が描かれていたのだ。


 繊細な銀の上には、オールドヨーロピアンカットの小さなダイアモンドが、所狭しと埋め込まれ、その中央にはめられた藍の宝石。


 親指の爪ほどは軽く超えているであろう大きさのブルーサファイアが、静かに中央にはめこまれている。


 光を吸い込んでしまうほどの深い藍色。でも、ほんのりと淡く、温かな反射をみせて。

 精巧で、繊細なデザインのネックレスだった。


 もう、そのネックレスは、一級品の特注で、王国を代表するほどの宝石彫刻師が手掛けた作品、と言っても過言ではないほどの、超逸品だった。


 それが分かってしまって、セシルの方だって眩暈(めまい)がしそうである……。


「……ありがとうございます。このような美しい贈り物を頂いて、恐縮でございます……」

「お気に召されたようで、安心致しました」


 ああ……、もう逃げ道はないのに、この場で粗相をするわけにもいかない……。


 本当に困った状態である……。


 セシルは少しだけ後ろを向き、

「これをつけてくれないかしら?」


 パっと顔を上げた二人の侍女は、セシルの手の上に乗っている箱に視線を向ける。


「……か、かしこまりました――」

「アーシュリン、あなたは、マイレディーの髪を押さえていてくれませんか?」


「はいっ、かしこまりました……!」


 自分が生きてきた中で、こんな高価で、美しくて、繊細な宝石など見たことがないだけに、アーシュリンは、完全に恐縮してしまっている。


 そんな緊張した状態で、この高価なネックレスを落としてしまったら、傷つけてしまったら――顔面蒼白ものである。


 「失礼いたします……」 と、声が震えているアーシュリンが、セシルの長い髪の毛をそっと束ねていく。


 首元が空き、すっきりとしたその場に、オルガも丁寧に、静々と、一寸のミスもないように、箱の中から取り上げたネックレスを、セシルの首にかけていく。


 慎重に、留め金も止め終わり、ホッと、一安心しそうだった。


 髪の毛が下ろされ、乱れがないように整えてもらったのを待ち、セシルの視線がギルバートに向けられる。


 ギルバートはセシルの首元をじっと見つめていて、それで、その視線が、ゆっくりとセシルの顔に戻ってくる。


「とてもよくお似合いですね」


 嬉しそうに、それ以上に、感嘆したように、ギルバートの瞳が細められていた。


「ありがとう、ございます……」


 ズシリと、首元が一気に重く感じられるのは、気のせいではないだろう……。


「では」


 スッと腕を出され、セシルもその腕に手をかける。


 持っていた箱をオルガに手渡し、

「それでは、行ってくるわ」

「「いってらっしゃいませ、マイレディー」」


 全員が丁寧にお辞儀して、セシルを見送った。


 部屋を進み開けられた扉の向こうで、クリストフと二人の騎士が控えていた。


 ギルバートとセシルを見るなり、スッと、三人が一礼する。


 さあ、晩餐会へと、いざ出陣(?)――ものすごく気乗りはしないが……。





 扉が閉まり、廊下での気配がずーっと向こうに消えていった頃、アーシュリンがいきなり、バッと、両手で口を押え込んだのだ。


「きゃ、きゃあああああぁぁぁぁぁぁっ……!!」


 突然、口の中で、もごもごさせて悲鳴を上げるアーシュリンに、全員がどビックリ。


「一体、何やってんの?」


 フィロとアーシュリンは同い年である。


 アーシュリンの方が、ずっと以前より領地にやって来ていたので、その点では、先輩かもしれないが、同年代の孤児である。


 全部のその長い悲鳴を上げ終えたのか、手を外したアーシュリンが、うふふふふふふ、と笑い出す。


「気持ち悪い。何やってんの」

「だってねえ? そうでしょう?」


「なにが?」

「だって、私なんか、あんな高価なアクセサリーなんて、見たことないのよっ! もう、見た瞬間に、失神しそうになったんだからっ」


「ええ? 何で?」

「なんで、じゃあないわよっ!」


 疑わしそうなフィロに向かって、アーシュリンが叫んでいた。



読んでいただきありがとうございました。

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