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А.а 始まり - 05

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「宿場町の方には、よく、こうして食事に来られるのですか?」


「ええ、そうですね。季節ごとにメニューが変わったり、新しいメニューを開発した時など、お声がかかるものですから。味見役なんです」


「それは、楽しそうですね」

「ええ、そうですね」


 それにしても、領主であるセシルは準伯爵の位を授かっているが、元は伯爵令嬢でもある。


 貴族の令嬢なのに、こんな風に、平民が出入りする食事(どころ)に顔を出し、他の民と一緒に食事を取ることも全く問題がなくて、セシルの方も慣れている様子で、それが、ギルバートには不思議でならなかった。


 本当に、“()()()貴族のご令嬢”、なんていう肩書が当てはまらない女性だ。


「この領地では、“貴族席”というものはございませんの。特に、食堂や食事(どころ)、レストランといった場所では、支払いができるお客様なら、誰でも、自由にお店に入れますし、注文もできます」


「そうなんですね」


「“貴族席”などというものを(もう)けていては、食事の場所まで、気を遣わなければなりませんし、他のお客様だっているのに、貴族を最優先しなければなりませんもの。おいしいものも、おいしくなくなってしまいますわ」


「なるほど」


 あまりに耳慣れない発想である。


「商売繁盛の秘訣は、“お客様は神様です”の心得ですものね」

「――お客様は、神様――ですか?」


「ええ、そうです」

「その発想は――初めてです」


「商売繁盛の秘訣です」

「そうですか」


 そして、あまりに聞き慣れない発想である。


「あの――よろしかったら、おつぎしましょうか?」

「いえ……」


 だが、セシルが手を出すので、ギルバートは、ここでは皿を出すのだろうか? ――と、一応、皿を出してみた。


「全部の品でよろしいですか? なにか、お好きなものは?」

「いえ、全部でお願いします」


 それで、さっきのように手際よく、皿の上に、それぞれの料理が乗せられた。

 先程より、全部の料理の量が、少し多めになっていた。



――――随分、気の()くご令嬢なんだな。



などと新発見をして、ギルバートは(いた)く感心していた。


 それからしばらくして、全員が食事を満喫し終え、テーブル一杯に注文された料理は、すでに空になっている。


 その間も、セシルは料理の説明をしてくれたり、味の説明をしてくれたり、今回だって、予定に入っていなかったギルバート達の訪問なのに、ギルバートはセシルの隣で、(非常に) 楽しい時間を過ごすことができたのだった。


「皆様、足りませんでしたら、もう一皿くらい、注文しましょうか?」


 さすが、現役の騎士達である。


 少々、多めに頼んでみたつもりだったのに、大きな皿に盛りつけられた料理は、全部、平らげてしまったほどだ。


 食欲旺盛(おうせい)で、商売も繁盛である。


「いえ、私はもう十分です」


 ギルバートの視線が前に座っている部下に向けられるが、ふるふると、部下達の方も首を振った。


「それなら、デザートはどうです? お腹一杯ですか?」

「それは――」


 それで、また、ギルバートの視線が前の二人と、隣のクリストフに向けられる。


 三人共何も言わないが――いや、分かっている。デザート程度は、まだ入る余裕があるのだろう。


 騎士達は、出された料理はしっかり食べきるし、出された料理を残すことは(滅多に) ない。


 なにしろ、いつ何時、急な仕事で呼び出されるか分かったものではないから、ありつける食事の時は、その時間を最大限に活用するのだ。


 例え、それがデザートであろうと同じである。


 特に、デザートになると、甘い系統のものが出てくることが多い。騎士達だって、甘いものが好きな男は多いのだ。


「もし、ご迷惑でなければ――」


「ええ、迷惑ではありませんわ。皆様、どのくらいの甘さが好みでしょうかしら? チーズとか食べましたから、ちょっとしょっぱかったので、少し、甘い系統のデザートの方がよろしいかしら? すごーく甘いのもありましてよ」


「ご令嬢が勧められるのでしたら、何でも構いませんので」

「あら? ものすごーく甘いのでも?」


「たぶん――大丈夫でしょう」


 ギルバートはそこまでの甘党ではないが、クリストフなら――問題ないはずだ。


 ふふ、とセシルが笑んで、

「では、半分半分ということにしましょう。――すみませんが、近くの店員を掴まえてくれませんか?」

「はい、わかりました」


 クリストフが頼まれたようなので、サッと、室内を見渡してみる。


 パチリと、若い女性と目が合ったので、

「あの、すみません」

「はいっ」


 それで、すぐに、にこやかに目の合った女性が、テーブルの方に近寄って来た。


 なんだか、偶然にしては出来過ぎなほど簡単に、素早く、店員と目が合ったものだ。


「デザートを注文したいのだけれど?」

「はい、マスター。メニューをお持ちいたしますか?」


「それはいいわ。今夜のスペシャルなんて、ある?」

「はい、マスター。今夜は、(なし)のタルトがスペシャルです。今年は、(なし)の収穫がたくさんできましたから」


「ええ、そうね。(なし)のタルト、おいしそうねえ」

「みなさまでしたら、まだホールのまま残っていますよ」


「あら、そうなの? それなら、ホールタルトもらおうかしら」

「はい、かしこまりました」


「それから、アップルエンチラーダが一つ。アップルとシナモンのパウンドケーキなんて?」

「はい、まだ残っています。スライスですが」


「じゃあ、スライスを二つ。皆様には、ハニー入りのカモミールティーを。私は、カモミールとペパーミントのミックスハーブティーで。ハニーはいらないわ」


「かりこまりました。すぐにお持ちいたします」

「ありがとう」


 にこっと、笑みをみせた女性が、クリストフの前にある丸い筒の中に入っている紙に、何かを書き込んでいく。


「こちらの食器を、お下げしてもよろしいですか?」

「ええ、よろしく」


「かしこまりました」


 店員が手慣れた様子でテーブルの上の皿などを重ねていき、かなりの量なのに、両手に抱えて、テーブルを去っていく。


「皆様には、ハーブティーを注文してしまいましたが、他の飲み物の方が、よろしかったかしら?」

「いえ、お気になさらないでください」


 それでも、ギルバート達は、ハーブティーなど飲んだ経験もない。


「それほど、ひどいものではないんですのよ。カモミールは、よく、鎮静(ちんせい)効果があって、安眠に()くと言われていますけれど、消化促進にも役立ってくれますのよ」


「そうですか」


「今夜は、少し濃い目の料理を食べましたものね。デザートもヘビーですから、飲み物は、軽めのものを頼みましたの」

「そうですか。ありがとうございます」


 消化促進――たしかに、今夜は、チーズなどの多い食事をした。


 だが、鎮静(ちんせい)効果で安眠――は、明日、領地を()って、また王国に戻るギルバート達への――気遣いだろう。



――――本当に、気の利く女性なんだなあ……。



 そうやって、会話の延長上で、話の延長上で、なにげなく、全くわざとらしくなく、誰も気づかないうちに気遣いができて、それを見せびらかさなくて。


 また、セシルの好感度が、更に、グッと上がってしまう。



読んでいただきありがとうございました。

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Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

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