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А.а 始まり - 03

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 セシルは、なにも、ギルバートやギルバートの部下達が頼りないから護衛をつける、と言っているのではない。


 むしろ、ノーウッド王国で、王宮に知らせもせずに、セシルにだけ連絡を付けているギルバート達が、この国で事故や問題にでも逢ったのなら、さすがに大事になってしまうかもしれない可能性を懸念して、ギルバート達の護衛を買って出てくれたことは、ギルバートも理解していた。


「帰りは――馬の足を速めますので、まあ、追ってくるのなら、さすがに全力疾走、という形になってしまうでしょう。そのような場で、攻撃をしかけるのは、難しいかと」


「そうでしたの。余計なことを申しましたわ」

「いいえ、そのようなことはございません。ご令嬢のお気遣いに、感謝しております」


 普通の貴族の令嬢なら、ギルバート達の護衛など考えもしないだろうに。その考えさえも、浮かんでこないだろうに。


 セシルだからこそ、アトレシア大王国の差し迫る大事で、起こりうる状況変化を、真っ先に理解できていたのだ。


 ギルバートが説明などしなくても。


 そんなことを考えて、ギルバートもつい口元が緩んでいた。


「あの……、なにか?」

「いえ、なんでもないのですが、さすがだな、と感心しておりまして」


「感心? ――ですか?」

「ええ。普通の貴族のご令嬢は、我々、騎士の安全など、お考えにはならないでしょうから。我々が、お護りする立場ですので」


「まあ、そうですわね。ですが、私は、到底、普通の貴族の令嬢、などと言う部類に入らないものですから」

「それは、とてもすごいことだと、私は思っております」


「いえいえ。じゃじゃ馬だと思われているのは、承知しておりますわ」

「私は、そのようなことを、考えたこともありませんが」


「ないのですか?」


 これには、セシルも、少々、驚いているようだった。


 あれだけ他国で暴れまくったセシルを、“じゃじゃ馬”とも思っていなかったなんて、ギルバートはそこまで寛大なのだろうか。


「ありません。――ああ、でも、あなたが剣を使ったりすることを、おっしゃっているのですか?」

「その他にも、色々ありますでしょう?」


「さすがに、初めてお会いした時は驚きましたが、それだけです」

「それだけなんですか?」


「ええ、そうです」

「えっ……?! どうして、何も思われなかったのですか?」


 ギルバートの反応があまりに珍しくて、セシルは、つい、聞き返していた。


 その質問に、ギルバートもパチクリとする。


「何を、でしょう?」

「普通なら、なんて奇天烈で、ハチャメチャな女なんだ、と思われるでしょう?」


「いえ、普段からきちんと護衛などの訓練をし、剣を使い慣れている者なら、あの場での行動は、不思議ではありません。むしろ、とても冷静な判断で出されたものだと、考えますね。そして、俊敏で無駄がありませんでした。ご令嬢のおかげで、陰でせせら笑っているような裏切り者を、捕縛することができました。改めて、お礼を申し上げます」


「いえ……、そのようなお礼は、必要ありませんのよ……」


 なんだか、ギルバートの反応が普通の貴族男子とは全く違うもので、セシルも、少々、感心してしまう。


 騎士団の副団長を務めるだけあって、ああ言った場で、貴族の令嬢が剣を振り回して暴れまわっても、驚くより、ただ冷静な状況判断ができてしまうなんて。


「ですが、ご令嬢の使われていた剣は、レイピアでしたね」

「ええ、そうですの。私は力技では、到底、勝てませんので、ただの時間稼ぎ用なのです」


 時間稼ぎ用のレイピアは納得がいけるものだが――確か、太腿(ふともも)には、隠し武器となるナイフを忍ばせていたのを、ギルバートも思い出していた。


 レイピアだけでなく、他の武器まで忍ばせているなど――完全武装だったのではないか、とギルバートも疑いたくなってしまう。


「一つ、お聞きしたいのですが――あの場では、他の武器など、所有なされていらっしゃいませんでしたよね?」

「あれだけですわ。ご覧になったでしょう?」


 そうだが、なぜ、その言葉を鵜呑(うの)みにしてはいけないような、そんな気分になってしまうのだろうか。


 いや、あの事件は、もうすでに終わった出来事で、今更、わざわざ掘り返すような問題でもない――のだが、ついつい、気になってしまうのは、ギルバートだけではないはずだ。


 その様子を見ているセシルの口元が、ほんの微かにだけ上がっている。


「残りの方は、外でお待ちなのですよね?」

「はい、そうです」


「でしたら、外で待機しているには、寒くなってきた季節ですから、大変ですわね」


 それで、セシルがテーブルの上の呼び鈴を鳴らした。


 静かに扉が開き、執事が丁寧にお辞儀をする。


「お客様のお部屋を用意して。外で待機している方達も、寒いことでしょうから、中に入ってもらってください」

「かしこまりました」


「夕食は――」


 それを口にして、セシルがギルバートの方を振り返る。


「私は、今夜は、宿場町の方に顔を出すことになっておりますの。秋の収穫を終えて、冬にかけ、カボチャの料理が出されるものですから。寒くなった季節には、温かいカボチャの料理を食べると、体が温まりますものね」


「カボチャ――は、食べたことがございません」

「土に埋まっているからでしょうか?」


「いえ、出されたことがなかったもので」


 上流貴族、まして、王族付きのシェフともなれば、根菜類を、特別、避けるシェフもよくいる話だ。

 要は、土に埋まっているような下賤なものを料理には出せない、という仕来りなのか、思い込みなのか(注:カボチャは果物(果菜類)です)。


 だが、この世界では、そう言った風潮があるのは、セシルも知っていることだった。


「甘くておいしいですのよ。栄養価が高く、カボチャの種も食べれるのですよ。特に、カボチャの種は、運動後に摂取すると、疲労回復にも手助けとなって、とても貴重なものですわ」

「なるほど」


「それに、血圧安定、消化促進剤、血糖値のコントロール、免疫力のアップの手助けもしてくれる、一つで、本当に色々な役立つ栄養素がたくさん入っていますの」

「なるほど」


 そして、なんだか医学的、栄養学的な話になっても、ギルバートは真剣に話を聞いている。


「もしよろしければ、皆様も、ご一緒にいかがですか?」

「よろしいのですか?」


「ええ、もちろんですわ。初めてカボチャを食べられる方でも、甘いので、あまり問題なく、召し上がれると思いますわ」

「では、ご迷惑でなければ、よろしくお願いします」


「わかりましたわ。――では、“ほっこり亭”に、追加の四人分の予約をお願いしますね」

「かしこまりました」


「ええ、よろしく」


 執事はまた丁寧に一礼して、客室を後にした。




読んでいただきありがとうございました。

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