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* Е.г 豊穣祭を終えて *

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 忙しい豊穣祭を終えた次の日の朝、ヘルバート伯爵領の邸では、恒例の後祭(あとまつ)りが開かれていた。


 後祭り――と言っても、豊穣祭でだされた食事やら、祝典でのごっそりと出された夕食の残りやらと、昨日、警備に回されていた騎士達や、騎士見習い達が邸に呼ばれて、昨日のご馳走を、朝食としていただく朝食会の習慣なのだが。


 その為、邸の庭に設けられたテーブルの上には、昨日の残りであるご馳走が、いまだにごっそり残っていて、それが隙間なく、テーブルの上に並んでいたのだった。


 ギルバートと残りの騎士達も朝食を一緒にどうかと、セシルに誘われていたので、少し遅めの朝食の時間に、庭に案内されていた。


 テーブルには、ヘルバート伯爵夫妻、その隣にシリルが。

 向かい側には、セシル。


 そして、ゲストとして迎えられているギルバートはセシルの隣で、クリストフがギルバートの隣だ。

 残り二人の騎士達は、シリルとクリストフの隣で分かれている。


「今朝は、昨夜の後夜祭で残った食事もありますけれど、さすがに、それでは失礼かと思いまして、一応、他の朝食も用意させました」

「わざわざ、そのようなお気遣いをありがとうございます」


 別に、ギルバート自身は、昨日の残り物を頂いても文句はないのだ。


 貴族なら、「残り物なんか食べれるか!」 などと、威張り散らしたり、当たり散らしたりするのだろうが、なにしろ、ギルバートは、セシルから思ってもみない好意を授かり、領地に滞在させてもらった。


 その多大な恩を感じているだけに、出された食事に文句を言う、などという考えも浮かびはしなかったのだ。


「皆様は、朝食後、お発ちになられるのですか?」

「はい。今回は、このように、ご令嬢のご厚意を授かり、心よりお礼申し上げます」


「あら、よろしいのですのよ。私達も、他国のゲストを迎えられて、とても嬉しく思っていますわ」


 突然、押しかけて来たギルバート達なのに、セシルは、ずっとこんな風に、寛大な言葉をくれる。


「それから、シリル殿も。昨日は、案内役をありがとうございました」

「いえ、こちらこそ、不肖ではありますが、お付き合いいただきまして、ありがとうございます」


 シリルも、やはり、貴族の子息だけあって、挨拶がとても丁寧だ。


「それにしても、昨日は、大盛況でしたわね、セシルさん」


 セシルの母親は、その話をしながら、うふふと、とても嬉しそうだ。


「ええ、そうですね。かなりの数の観光客も、記録しているようですし」

「まあっ、そうですの? 午前中に、露店周りをしましたけれど、それでも、たくさんの人がいましたものね」


 今年の豊穣祭は、領地にとっても、領民にとっても、大繁盛だったのだ。


 豊穣祭前では、大抵、いつも、多額の資金が動く。

 準備も忙しく、食材の確保やら、資材の確保やら、それから、他にも種々多様な出費が出てくるものだ。


 その予算を組んで、年始には資金を貯めているが、今回の大盛況のおかげで、今年の豊穣祭では、出費を遥に(しの)いだ儲けが出ている。


 まだ、正確な数値は出ていないが、簡単な見積り額を知らされて、セシルも、昨日は、ホクホク顔だった。


 やっーと、領地でも、歳入では、余剰分が少し出てくるようになったのだ。

 これで、新たな領地開発の資金繰りも楽になるし、調整も可能になってくる。


「観光客も増え、豊穣祭が(にぎ)わいを見せ、私も安堵しております。私も、正式な「領主」 として任命されましたので、これからも、もっとしっかり働かなければ、と肝に銘じています」


 そして、母親の笑顔が崩れないままだ(張り付いたままだ)。


「――あら、セシルさんったら? セシルさんは、今でも、()()()、領主の仕事をこなしていらっしゃいますわ。ですから、それ以上、張り切りすぎなくても、よろしいのですよ」


「まだ体力が続く若いうちに、一応、乗り切っておかなければ、と思っています」


 うふふと、母親の綺麗な笑顔は崩れない。


「あらあら、セシルさんったら? セシルさんなど、()()()()お若いのですから、そのような、年寄り臭いことをおっしゃってはいけませんわよ。若いうちにできることなど、限られておりますもの。ですから、休暇などを取って、余暇を満喫することも、よろしいんではなくて?」


「そうですね。豊穣祭も無事に終えましたし、年末調整が終えましたら、少し、空き時間を作ってみてもいいかもしれません」


 だが、新年を迎えて、種植えの時期は多忙になると、セシルは説明していなかっただろうか?


 セシルの父親も、シリルも、女性の会話には、一切、参加してこない。

 ただ、静かに二人の会話を聞いているだけで、邪魔をしないのだ。


 ギルバートも――女性の会話には、下手に、参加しない主義だ。


 この会話は、きっと、セシルが働き過ぎる傾向にある為、それを心配している母親の説教(苦情) なのかもしれない。


 それを理解しているだけに、ギルバート達は食事に専念したまま、会話を耳から素通りさせている。


「久しぶりですから、伯爵領に戻られたら、どうですか? 屋敷の者達も、セシルさんに会いたがっておりますのよ」

「確かに、ずっと、会っていませんでしたから」


 幼い時から、セシルはコトレアの領地にほぼ居座ったままの状態で、「領主名代」 などという責任と立場があって、セシルなど、ヘルバート伯爵領に帰って来たことなどない。


 それからだって、王立学園に通い、王都のタウンハウスでは生活していても、空き時間は、必ず、セシルはコトレアに戻ってしまう。


 もう、この八年ほど、セシルは、ヘルバート伯爵領に、足を踏み入れたことさえないほどに、多忙だったのだ。


「皆、変わりありませんか?」

「ええ、変わりありませんわ。セシルさんのお話をしたら、皆、セシルさんに会いたがっておりましたわよ」


「そうですか。なんだか、随分、懐かしいですものね――」


「時間が空きましたら、一度、ヘルバート伯爵領に戻っていらしてくださいね、セシルさん? 今まで、ずっと多忙でしたもの。領地で、ゆっくりできますわよ」


「ありがとうございます、お母様。空き時間がありましたら、考えてみます」


 その返事は、毎回のことで、時間が空くと――必ず、次の領地開発やら、新政策やらと、次から次に、仕事に手を出してしまうセシルの傾向は、全員が知っている。


 今日もまた、その返答が同じで、大した期待できそうもないセシルの態度に、ガックリ……である。


「今日は、お父様達も、お発ちになられるのですか?」

「ああ、そうだね」


「もう少し、ゆっくりなさっていけばよろしいのに」

「そうだね。帰るのは、明日でも構わないのだが、領地に戻る前に、一度、王都に立ち寄って行こうと考えているんだ」


「そうだったんですか」


 セシルの父親であるリチャードソンが、その視線をギルバートの方に向けた。


「我々も、今日は、コトレアを発つ予定なのです。短い間でしたが、皆様にお会いできて、光栄でした」

「こちらこそ、お会いできて光栄でした」


 セシルの両親もシリルも、ギルバートが隣国の第三王子殿下である事実は承知している。


 ただ、セシルの領地にいる間は、隣国の王子殿下として扱わないようにと、セシルに念を押されているので、王子殿下の前でも、伯爵であるリチャードソンは、挨拶の見送りに出たり、出迎えたりと、そういった行動をしていない。


 リチャードソンを含め、ヘルバート伯爵家の全員は、ギルバート達をセシルのゲストとして扱っている。


 それだけだ(下手な騒ぎにならない為に)。


 だから、この朝食会が終われば、ギルバート達は隣国に戻って行くだろうし、セシルの家族は自領に戻って行く。


 別れる前の挨拶は、一応、済ませておいたリチャードソンである。



読んでいただきありがとうございました。

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