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Е. б 初めてのお買いもの - 03

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 でも、兄の方は、嬉しそうに、袋からドーナツを1個取り出して、弟の手に乗せてあげるようにする。


「ほらっ、たべよ、リロっ」

「うんっ」


 それで、二人が、あむっ、と勢い良く、小さな丸いドーナツを口に放り投げた。


 シナモンをかけた、丸い小さな砂糖ドーナツである。近年、領地でもはやりだしたスナックだ。


「――おいしぃっ!」

「おいしっ!!」


 二人は、生まれて初めて食べるお菓子であるかのように、目をまん丸くして、感動している。


「すごいっ!」

「にーちゃっ!」


 それで、二人は、すぐに、次のドーナツにも手を伸ばしていた。

 二人揃って仲良く、モグモグ、モグモグと、ドーナツを頬張っていく。それで、口の周りには、砂糖がいっぱいついていた。


「何度見ても、微笑ましい光景だと思われませんか? 初めてのお買い物。それも、自分で稼いだ初めてのお金で、自分の好きなものを買えるという実感は、もう、きっと何にも代えられない瞬間だと思うのです」


「――――ええ……、そうですね」


 二人の子供の様子を微笑まし気に見守っているセシルの瞳が、本当に嬉しそうだった。


 ギルバートも、この小さな兄弟を見守りながら、自分の心が温かくなっているのが判る。


 まだこんな小さいのに、それでも、兄弟で大切そうに、おいしそうに、その嬉しさを隠さず、満面の笑みで、兄が自分の力で働いたお金で買ってきたお菓子を、仲良く食べている光景は――ギルバートも、初めて見る光景だった。


 まだこの領地にやって来たばかりだという小さな子供達は、孤児で、それなのに、ギルバートの目の前にいる子供達は、どこから見ても、他の領民の子供達とも全く変わりはなくて、自分で稼いで買い物ができた兄の子供は、とても誇らしげだった。


 自分のできることがあって、弟にもあげられるものがあって、兄の方は、とても誇らしげだった。


「ほらほら、二人とも、口の周りに、砂糖がいっぱいついていますよ」


 おかしそうに笑いながら、セシルが二人の子供の前で膝を折るようにした。


「ほら、口の周りが大変なことになっていますよ」


 自分で持っていたハンカチを取り上げ、セシルが、小さな子供達の口についた砂糖を払ってやっている。


「おいしかったですか?」

「はいっ」

「あまーいっ!」


「そう。それは良かったですね」

「もっと、ちょうだいっ!」


「それは、また今度の時ですね」

「えええっ!」


 小さな子供の方が不満そうに顔を膨らませたが、それで、グシャと顔を歪める。


「いやだぁ……」

「ああ……、リロ、ないちゃダメだよ」

「にーちゃ……」


「泣いている子供には、お土産はあたらないのですよ」


 それで、ピタっと、小さな子供が泣き止んでいた。


「おみやげ? なーに?」

「ふふ。孤児院に戻ったら、ちゃーんと、皆の分、今日のお楽しみがあります」


「ええ? なーに?」

「それは、帰ってからのお楽しみです。でも、ヒントはあげましょう」


「ひんと? なーに?」

「ふふ。きっと、甘くておいしいですよ」


 それで小さな子供だけではなく、兄の方も、二人揃って顔が輝きだす。


「あまいの? ぼくも?」

「そうですよ。皆に全員、です。ですから、買い物を終わったお兄ちゃんは、リロ君と手を繋いで、先生と一緒にいましょうね?」

「はいっ」


 それで、お兄ちゃんがしっかりと弟の手を握る。


「さあ、先生の所にお行きなさいな? 戻ったら、お土産が待っていますよ」

「はいっ」

「にーちゃっ、すごいっ!」


 それで二人大喜びで、嬉々とした元気な足並みで、すぐ近くで待っている大人の女性の元に、走っていってしまった。


「まあま、元気ですね」


 ふふと、セシルは、そんな光景も微笑まし気に眺めている。


 立ち上がったセシルはドレスのしわを伸ばすようにドレスを払い、またギルバート達の元に戻ってくる。


「――あのような小さな子供達の買い物が終われば、おみやげ? ――ですか? それは何ですか?」

「ふふ。べっこう飴です」


「べっこう、あめ?」

「砂糖を溶かして、飴にしたものです。それで細い棒にくっつけてあるのです。棒があるので、しばらく、飴を舐めたままでいられますからね」


 だが、一体、「べっこう飴」 というものが何なのか、全く想像できないギルバートだ。


「あの――先程、孤児院、とおっしゃっていたように聞こえましたが」

「ええ、そうです。豊穣祭で“初めてのお買い物”をしているのは、孤児院の子供達ですわ」


「――えーっと――10人程、いたように見えましたが」

「今年は、十人、いえ、十一人でしたわね。その年によって、数の上下差がありますけれど、大体は、十人ほどがいつもなのですよ」


「いつも、とは――そのように、頻繁に、孤児を受け入れていらっしゃるのですか?」

「ええ、そうです」


 セシルはギルバートの質問の意図を理解していないのか、全く問題にした様子もなく、あっさりと答えた。


「あのお兄ちゃんや、お姉ちゃんと呼ばれている子供達も、孤児なのですか?」


「ええ、そうですね。豊穣祭の午前中は、あまり人混みがなく、込んでいませんから、子供達が、自分達のお買い物を済ませるのには、丁度良い時間帯なのです。最初は“初めてのお買いもの”をする子供達で、次は、お小遣いを持ってきた子供達が、買い物をする順番なのです」


「おこづかい、とは何でしょうか?」

「自分で働いて貯めたお金のことです」


「――子供が働いているのですか?」

「ええ、そうです。この領地では、子供は五歳になると、働くことができます」


「そんなに小さいのにっ?!」

「非難なさるのですか?」


「いえ……、違います。――すみませんでした。ただ……、驚いてしまい……。ご令嬢を非難したつもりは、ありませんでしたので」


「そうは受け取っていませんので、謝罪もいりませんわよ」

「申し訳ありませんでした」

「いいえ」


 セシルは気分を害した様子もなく、あっさりとしたものだ。


「小さな子供の仕事――など、できるのですか?」

「ええ、色々な仕事ができますわよ」


「例えば?」


「例えば、毎日の天気日記がつけられますし、お兄ちゃんやお姉ちゃん達と一緒に行動しながら、街のゴミ箱の確認だったり、幌馬車の停車駅でのベンチがきれいかどうか確認したり、幌馬車のクッションが壊れていないか確認したり、幌馬車のリボンも確認したり、領地の大通りのゴミ拾いをしたり、色々ありますわよ」


「そう、ですか――」


 だが、すでに、自分の理解を超えている単語まででてきてしまい、ギルバートは、更に、混乱を極めている。


「……天気日記、というのは?」


「この領地では、毎日、天候を記録させていますの。字を書けない子供でも、絵柄は描けるものですからね。例えば、晴れの日は〇で、曇りの日は、こう、雲のような形を描かせ、雨の日は●とかなど」


「なる、ほど」


 そこで、「風の日は?」 などと、質問しないギルバートだ。


 すでに自分自身で混乱している為、これ以上――更なる混乱を防ぐ為、今は質問をしない方が絶対に身の為だと、ギルバートは自分に言い聞かせている。


「子供達にも給金を払っていたら、ものすごい出費になりませんか?」


「そうですけれど、でも、子供達の給金は、微々たるものですから」


 5歳から8歳の子供は、定額の5%以下ほどで。

 9歳から12歳の子供は、25%ほど。


「12歳から16歳の成人になる前の子供は、見習いになりますから、40~50%ほどの給金になります」


 現代で言えば、16歳だって、まだ子供だ。

 だが、ノーウッド王国や近郊の王国では、16歳が成人の年とされる。


 現代の子供と違って、この世界の子供、特に平民の子供などは、かなり幼い時から、労働力の一員として働きに出ている子供が多い。


 だから、体格などがまだ成長途中でも、精神年齢は、随分、大人に近いなと、セシルは昔に思ったことだ。



読んでいただきありがとうございました。

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