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Е. б 初めてのお買いもの - 02

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「おさいふ、とは何でしょう?」


 そして、今日は、もしかしなくても、また、一日中、質問攻めにしてしまうギルバート達なのではないだろうか……。


 申し訳ないとは思うが、質問があったらいつでも質問してくれていい、という好意に授かって、もう、知らないことが知らな過ぎて、ギルバートは、きっと、シリルを質問攻めにしてしまうのだろう。


「それは、お金を入れる袋のようなものです。先程、銀行の頭取から、お金を手渡された時に持っていた、あの小さな袋のことです」


「そうでしたか」


「「財布」 と言うものですが、子供だけではなく、大人も、お金も入れる為に使っています。ちなみに、私もそうです」

「そうなのですか?」


「はい。金銭を持ちながら歩いたり、移動したりする時には、「財布」 がとても役立ちますから。これは、“なんでも雑貨屋”で買うことができます」


 ちゃっかり、そこでお店の宣伝も忘れないシリルだ。


「子供の(しつけ)も、徹底していますね」


「ええ、もちろんです。金銭を持ち歩くことは、それだけで、スリのような危険も出てきますし、自分で管理していなければ、落としてしまうこともあります。お金がなくなってしまったら、大変なことになりますからね」


「そうですね」


 小さな子供達は、ほとんど全員が露店回りに向かっていたが、その中で、さっきの小さな子供連れの男の子は、まだそこから動けないようだった。


「いやだぁ……にいちゃ……。ぼくも、いく……」

「ええ? リロは……、いっしょに、いけないよ……」

「いやだぁ……にいちゃ……」


 傍にいる大人の女性が、泣き出している小さな子供をなだめているようだったが、ポロポロと泣きながら、小さな子供は言うことを聞かないようだ。


「じゃあ、仕方がありませんね」


 それで、ふわっと、セシルがその小さな子供を抱き上げていた。


「リロ君は、お兄ちゃんの買い物が終わるまで、私と一緒に待っていましょう」

「でも……、にいちゃ……」


「あら? リロ君のお兄ちゃんは、きっと、リロ君が喜ぶようなものを、買ってきてくれると思いますよ」

「でも……にいちゃ……」


 いじいじと、半泣きしながら、小さな子供は、指を加えたまま吸ってしまっている。


「大丈夫でしょう。お兄ちゃんが戻ってくるまで、ちゃんと、私が一緒にいてあげますから。お兄ちゃんが買い物できなければ、リロ君だって、お兄ちゃんが買える楽しいものを、見られなくなってしまいますよ。いいんですか?」


「……や……」

「そうでしょう? ですから、私と一緒に、ここで待っていましょう。お兄ちゃんが何を買ってくるか、楽しみでしょう?」


「……う、ん……」


 それで、小さな子供が、無意識で、ギュッと、セシルの首にしがみついてきた。


「さあ、ミーカ君、買い物に行ってきていいですよ」

「でも……」


「大丈夫ですよ。私が、リロ君と一緒にいますから」


 セシルを見上げている男の子は、迷ったように視線を揺らしている。それでも、これからの楽しい“初めてのお買いもの”の誘惑には、勝てないのだ。


「……いっても、いいですか……?」

「もちろんです。楽しんできなさい」

「……はい……」


 セシルが、男の子の後ろにいる大人の女性に目配せし、

「一緒についていってあげてください。買い物ですから、すぐでしょう。その間、私とシリルがここにいますから、大丈夫ですよ」


「はい、わかりました。では、お願いします」


 丁重に頭を下げた女性が、男の子の手を引いて、露店に向かう。


 シリルに促され、ギルバートは、セシルの近くにやって来た。


「寂しがりやの子供のようですね」


 ギルバートの前で、小さな子供はセシルにしがみついているままだ。


「そうですね。この子達は、まだ、領地にやって来たばかりですから、一人きりになることに慣れていないのでしょう。下の子は、お兄ちゃんがいないと、すぐに寂しがって泣いてしまうのです」


「――領地に、やって来たばかり?」

「ええ、そうですわ。まだ――一年も経っていないですわね」


 どこからやって来たのですか、と質問しかけて、ギルバートは口を閉ざしていた。


 子供ばかりが集まったこの場で、親らしき姿は見えない。

 大人の女性達が、子供達の面倒をみているようだった。


 それで、すぐに頭に浮かんだ憶測を口に出すことが失礼のように思えて、ギルバートは、そこで口をつぐんでいたのだ。


 小さな男の子は、セシルに抱き上げられていて、しっかりとセシルにしがみついている形だ。


「さあ、姉上」


 にこにこと、シリルが、なぜか、セシルに向かって、両腕を広げてみせるのだ。


 セシルは微苦笑を浮かべてみせて、

「今は――まだ、大丈夫ですよ」


 にこにこと、シリルもセシルと全く同じ微笑みを浮かべて――姉弟揃って、裏がありそうな微笑みである。


「なにをおっしゃっているんですか? もうそろそろ、その腕は限界にきているでしょう? 子供を抱き上げたままで、その腕が使い物にならなくなったら、どうするのです?」


「まあ、そうですけれど……」


 それで、仕方なく、セシルも、抱えている小さな男の子をシリルに受け渡していく。


「さあ、おいで」

「でもぉ……」


「大丈夫。お兄ちゃんが、ちゃんと抱っこしてあげるから。君のお兄ちゃんのお買い物を、待っているんだろう?」

「うん……」


 それで、もぞもぞと、セシルの腕から動き出し、小さな子供が腕を伸ばして、シリルにしがみついていく。


 シリルはまだ少年でも、しっかりと小さな子供を抱き上げていた。


「もう、以前はね、姉上が子供を抱き上げたままで、それからひっきりなしに、子供が寄ってきてしまって、腕がしびれて、次の日には、完全に使い物にならなくなってしまったんです」


 ご丁寧に、そんな昔話をギルバートに説明しなくても良いのに、ギルバート達もその説明を聞いて、なるほど、などと頷いている。


 まだ小さな子供などは、自分が買い物にいけなくなって悲しかったり、寂しかったり、それでいじけてしまうこともよくあることだ。


 それで、セシルがそんな子供を抱き上げて、運んでいるのを見た他の子供達が、セシルにせがんでしまって、その日は、ずっと子供を抱き上げている羽目になったのだ。


 それで、腕が疲れ、しびれてしまって、シリルが指摘するのではないが、次の日、完全に、腕が使い物にならなくなってしまったのだった。


 フォークを持つことでさえ億劫で、腕を上げるのに、すごい筋肉痛が襲ってきたほどである。


「リローっ――――!!」


 向こうから元気に走って戻ってくる子供が、元気に手を振っている。


「にーちゃっ!」


 自分の兄が戻ってきて、シリルに抱っこされている子供が暴れだす。


「ほらほら、落ちちゃうでしょう?」

「にーちゃっ!」

「リローっ!」


 兄の方がセシル達の所に戻って来たので、シリルが抱っこしている弟の方を下ろしてあげた。


「リロっ、みてみてっ! これ、ぼくがかったんだよっ」


 自慢げに、嬉しそうに、兄の方の子供が、手の中に持っていた茶色っぽい紙袋を、弟にみせるようにした。


「にーちゃっ、それなあに?」

「ドーナツ、っていうんだよ。すごいだろっ? ぼくが、かったんだよっ」

「すごいっ、にーちゃ」


 それで、待ちきれないかのように、いそいそと、子供の兄が、紙袋の口を小さな手で開けていく。


「ほらっ、みなよ、リロッ」

「これなあに?」


「ドーナツ、っていうんだよ。リロにもわけてやるんだっていったら、おじさんが、じゃあ、1こおまけしてやるぞ、ってくれたんだよ。それで、リロと、はんぶんずつになって、おなじかずになるからっ」


 兄の話はよく分からないが、覗き込んでいる袋の中から、なにか甘い香りが漂ってくる。


 それで、よだれがでそうだ。


「ほらっ、リロっ。たべようよっ」


 自分で働いて、そして、初めて買った、()()()()お買い物である。


 初めて、自分で手に入れた大切なものである。



読んでいただきありがとうございました。

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