表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/547

Д.б 領内視察 - 02

ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。

 ひとまず、目先の問題は片付いたので、ギルバートが少しだけ後ろを振り返る。


「私は、豊穣祭まで、ここで滞在させてもらうことになった。王太子殿下には、私から、直接、(ふみ)をだし、事情の説明をしておくつもりだ」

「わかりました」


「ただ――私一人だけが豊穣祭を満喫するのは不公平だろうから、体力が続くようであれば、そのまま引き返し戻ってきてもよい」

「よろしいのですかっ?!」


 二人の騎士が驚いて、目を輝かせる。


「構わない。他国の豊穣祭に参加させてもらえる機会など、滅多にあるものではないだろう?」

「はい」


 二人は、あまりに素直に頷いていた。なにしろ、王国の騎士団に属しているし、普段は王宮の警備や護衛を仕事としているだけに、滅多なことでは、王都から離れることだってできはしない。


 まして、それが隣国であろうと、他国に立ち寄って、そこの祭りに参加できる機会など――ほぼ皆無に近い。


「早馬で飛ばせば、行きと帰りで五日――または六日。豊穣祭の前日には、戻ってこられるだろう」


 思ってもみない休暇が舞い降りて、二人の騎士達も、密かにうれしそうだ。


「でしたら、通行書を発行した方がいいですね。豊穣祭前は、なにかと人の移動が激しい為、領地内では、通行書のない領地外の者の滞在を、禁止していますの」


「ご迷惑でなければ、お願いしても、よろしいでしょうか?」

「ええ、問題ありません」


 それで、王国から戻って来る二人の騎士も、問題なく、領地に入れてもらえるだろう。


「視察に関しては、執事のオスマンドに任せることとしましょう。今日から――うーんと……、五日ですね。豊穣祭前日辺りでは、祭りの準備で領民も忙しく、時間を割く余裕がないと思いますので、残りの数日は、少々、お相手をするのは難しいかもしれませんが――どうでしょう?」


「ありがとうございます。ご令嬢や、他の方々の迷惑にならない程度で、滞在させていただければ、それで十分です」


「いいえ、私達も、他国からの客人を迎えることは、滅多にありませんから、邸の者達も、領民も、きっと喜ぶことでしょう」


 ふふと、なんだか意味深な微笑を浮かべるセシルに、ギルバートも不思議そうである。


「皆様の視察は、元より計画されていたものではないので、その時間の調整を考えますと――タダではないのですが?」

「私のできる範囲でなら」


 そんな、タダでもらった好意を受け取るだけのギルバートではない。セシルの意図を察して、ギルバートも、その取引には反対しない。


 なにしろ、思ってもみない好意をもらったのだから。


「では、領地内の騎士の訓練を、お願いできますか?」

「それだけですか?」


 拍子抜けするほど、簡単なお願いだった。


()()()()、ではありませんよ。正規の王国騎士団の騎士の方から、訓練を受けることができるなど、早々、滅多にある機会ではありません。ですから、()()()()、ではありませんわ」


 その程度の仕事など、お手の物だ。常日頃からギルバートがしていることではないか。


「わかりました。訓練を引き受けさせていただきます」

「ありがとうございます。手は抜かなくても、結構ですのよ」


「よろしいのですか?」

「ええ、もちろん」


 にこやかに返事を返すセシルに、にこやかに相槌を返すギルバート。


 だが、そのギルバートのすぐ後ろにいたクリストフが、



「いやいや、そんな簡単に約束しちゃダメでしょ――」



と、少々、顔を引きつらせていたのは言うまでもない。


 セシルは知らないだろうが、このギルバートには、第三騎士団でも、有名なあだ名があるのだ。


 “鬼の副団長”。


 ギルバートがあまりに厳しい訓練を強いるものだから、第三騎士団で有名になっているあだ名――異名である。



* * *



 セシルは仕事が詰まっているらしく、失礼しますね、と執務室を後にしてしまったが、そのセシルと入れ替わりに、執事が部屋に入って来た。


 二人の前で、丁寧にお辞儀を済ませ、

「私は、この邸の執事を務めております、オスマンド・ベックと申します。皆様、お会いできて、とても光栄にございます。マスターより、皆様の視察を準備するようにと、言付かっております。視察のご案内の前に、何点か、ご質問させていただきたいのですが、よろしいでしょうか」


「ええ、構いません」

「ありがとうございます。皆様のお荷物を、お部屋に運ばせてもよろしいでしょうか?」


「部屋を用意してくれるのですか?」

「はい」


「では、お願いします」

「かしこまりました。この邸では、侍従の数が限られておりまして、皆様の世話役となるのは侍女でございますが、よろしいでしょうか?」


「問題ありません」


「かしこまりました。お食事は、どのようになさいますか? 広間、または、くつろげるダイニングでお食事なさることも可能でございますし、お部屋に食事をお運びすることもできます。マスターは、邸を離れていることが多くございますので、皆様との食事を共にすることが難しいかもしれないと、言伝を預かっております。申し訳ございません」


「いえ、我々の方が押しかけてきてしまったので、気にしないでください。食事はどこでも構わないので、用意された場所に行きます」

「かしこまりました。お食事での、特別な指示がございますか?」


「いえ、ありません」

「かしこまりました。そのように、手配させていただきます」


 これだと、完全に、ギルバート達は(やしき)来賓(らいひん)扱いだ。


 突然、やって来たギルバート達で、視察だって、セシルの好意でさせてもらっているのに、なんだか――こんなにもてなされて、気を遣わせてしまった……。


「では、これから、視察のご説明をさせていただきます。ご質問がございましたら、どうぞ、お気軽に、いつでもお聞きください」

「わかりました」


 執事のオスマンドは、隣にあるワゴンの上に乗っている書類のようなものを、二人が座っている前のテーブルの上に並べるようにした。


「領地内の視察には、いくつかのコースを用意してございます」

「コース、でしょうか――?」


「はい。1日体験コース。まったり・のんびり領地巡りコース。実践型体験コース。短期集中型コース。その概要は、こちらに記載しておりますので、どうかご確認ください」


 テーブルの上に並べられた書類には、挿絵もついて、コース概要がズラリと書き込まれている。


 あまりに手慣れた様子で、おまけに、パンフレットもどきの書類までできているなんて、領地内の視察というのは、そんなに頻繁にやるものなのだろうか。


 その疑問を口に出そうかどうか迷ったギルバートは、いつでも質問してください、という最初の説明を思い出し、思い切って質問してみることにした。


 質問して恥でも、もう二度と会わないかもしれない縁だろうから、多少の恥をかいても、問題にはならないだろう。


「あの――お聞きしたいことがあるのですが?」

「はい、なんでございましょう?」


「こちらの――コース概要など、随分、手慣れていらっしゃるように見えるのですが――」


「はい。近年、この領地では、課外授業として、実地訓練、体験入学、社会見学といった、実践的に学べる試みを行っております。早くから、大人のしている仕事を観察し、仕事内容を理解し、そういった見分(けんぶん)を広め、自らの選択を増やしていくことを目的に、領地内の視察にも力を入れております」


「はあ、そうですか……」


「そして、領民には、自分達の仕事だけに携わるのではなく、領地でなにが起こっているのか、他の仕事はどういったものなのか、狭い視野に捕らわれず、そういった客観的な視点を広げることを目的に、大人用の視察コースも増加いたしました。領地では、未だに、人員不足が課題とされておりますので、その課題を克服すべく、少数でも、多々の仕事がこなせるようにとの、試みでもございます」


「はあ、そうですか……」


 今まで聞いたこともないような発想である。



読んでいただきありがとうございました。

一番下に、『小説家になろう勝手にランキング』のランキングタグをいれてみました。クリックしていただけたら、嬉しいです。


Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Funtoki-ATOps-Title-Illustration
ランキングタグ、クリックしていただけたら嬉しいです (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
小説家になろう 勝手にランキング

その他にも、まだまだ楽しめる小説もりだくさん。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ