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Д.а 晩餐会の招待状 - 05

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「――“しょくちゅう毒”とは、腹を下すことのように、話されていましたが?」


 ギルバートの隣で、つい、セシルの説明を一緒になって聞いていたクリストフが、こそっと、ギルバートに話しかけてきた。


「確かに、そのようだと、話されていた。そういう病名なのだろうか?」


 セシルの説明はとても的確で、要点が明確で、おまけに、なぜ注意点が必要なのか、その理由と説明が詳細で、聞いているだけなのに、



「ああ、なるほど」



と、つい聞き入ってしまう話し方なのだ。


「衛生管理をしっかりとしなければ、また、“しょくちゅう毒”という症状が、出るようですねえ」

「そのようだ」


 セシルに付き添ってきたギルバート達だったが、なんだか、知らぬ場で、今日は――食品・衛生管理の為になる話を、(タダで) 聞かせてもらった感じだ。


 ギルバート達は、セシルに付き添って、勉強しに来たわけではなかったのだが、なるほど、と納得しながら、(ついつい) セシルの説明を、全部、聞いてしまっていたギルバート達だった。


 全部の注意点の説明が終わり、セシルは、並んでいる領民に向かって質問を始める。


 こう言った状況では、どう対応しますか?

 では、混雑して、行列ができている時に、こんなアクシデントが起き、どう対応しますか?

 食材が足りなくなり、追加分を取りに戻る時には、どうしますか?


 それぞれの質問が的を得ていて、質問を投げられた領民達だって、真剣にその答えを返答し合っている。


「では、今日の注意点を、常にしっかりと頭に入れ、混雑した時でも、パニックに陥らないよう、冷静を心がけてください。豊穣祭前日にも、もう一度、注意点の再確認をします。その時は、全員から、注意点を上げてもらいます」


「わかりました」


 なんだか、領民達の間からも緊張感が漂い、顔が引き締まっている。


「では、手伝い係りや子供達にも、今日、復習した注意点を、しっかりと説明しておいて下さいね。何度も繰り返しますが、食品を扱うお店では、ほんの些細なミステイクで、壊滅的なダメージを与えることもあります。領地の、豊穣祭の評判も、そのたった一つのミステイクで、多大な影響がでてきますから」


「わかりました」


 それで、締めが終わったようだった。


 頭を下げる領民達を残し、セシルが馬を引いて、その広場を去って行く。

 そのまま、やって来た裏通りで馬に乗り上げ、また、走り出した。


 そして、今度はずっと奥の、反対側の領境(りょうざかい)にやって来たようだった。


 その場でも、騎士達が領門で検問をしていたり、他の作業員のような領民達が、(くい)を打ったりと、大忙しである。


 セシルがやって来ると、作業をしていた領民達が頭を下げ、セシルの元に集まって来た。


 そこでは、今度は、作業中の注意点が繰り返され、作業の進行具合、怪我防止の注意点、それから、(くい)や柵を打ち込んでいる側と、普通の領門での検問作業の区分けを指示し、次から次へと、なにか――ポンポン、ポンポンと、セシルの指示で新たな課題が終わっていく。


 無駄がなくて、考え込んでいる様子もないのに、次から次へと、ポンポン、ポンポンと、指示を出すセシルは、そのテンポが止まらない。


 だからと言って、早口でもない。

 きちんと、説明が聞きやすいトーンで、説明内容もあまりに明確だ。


 その場での確認は、一時間ほど。


 また馬に乗って、次の場所に。

 そこでは、三十分程の確認を。


 今度は、通行門をくぐって、裏通りを軽快に走り去りながら、どこかの建物の前までやって来ていた。

 建物のすぐ前に、二人の騎士がセシルを待っていた。


「マスター」


 セシルがやって来ると、若い二人の騎士が一礼をする。


「夕食をお持ち致しました」

「あら、それは、わざわざありがとう」


 その建物の前には、馬を繋ぐ為の柵ができていて、セシルは自分の馬を繋いでいく。


 セシルがギルバート達を振り返り、

「もう、そろそろ夕食の時間になってしまいましたので、ここで、一息つきたいと思います」

「そうですか。わかりました」


「こちらに夕食を用意してあります。お行儀悪くてすみませんが、皆様も、立ったまま、食べてくださいね。テーブルを出すことができませんので。申し訳ありません」

「いえ――」


 野外での訓練では、外で食事をすることがある。煮炊きもする。

 だが、立ったまま食事を取るのは、初めての経験だ。


 控えている騎士のバスケットを覗き込み、セシルがおしぼりの束を取り上げた。丸く包まっているタオルが、全員の前に手渡される。


 またも、手を拭くタオルだ。

 まだほんわかとしたぬくもりが残っているが、たぶん、移動中で、少しタオルの温度が下がってしまったのだろう。


 手慣れた風に、セシルが手早く「おしぼり」 で手を拭いて、バスケットに戻していた。


 それで、セシルが隣にいる騎士のバスケットを覗き込み、中からなにかを取り上げた。どうやら、サンドイッチのようである。


 立ったままで(お行儀悪く)、セシルは気軽に、パクリ、とサンドイッチを口に含む。


 そして、視界の端で、(じーっと) セシルの動きを捕らえている王国騎士団の騎士達は、唖然として、完全に言葉なし。


 セシルは伯爵令嬢ではなかったのか?!

 貴族の令嬢が外で、それも、立ったまま、手づかみで食事を済ます所など、見たことがない!


 簡単に一口を食べ終えて、セシルは、また、バスケットの中にある大きな筒のようなものを取り出していた。


「イシュトール、蓋を開けてくれない?」

「わかりました」


 護衛の騎士に手伝ってもらい蓋を開けた筒の――どうやら中身は、飲み物だったようで、コップに注ぎこむ。


 セシルは、それも簡単に飲み干していた。


「あら? リンゴジュースにしてくれたのね。おいしいわ」

「そうですか。それは良かったです」


「私は会議に参加してきますので、二人は、皆さんの食事のサーブの手伝いをしてあげてね? きっと、遠慮なさってしまうでしょうから」

「付き添いはどうしますか?」


「すぐそこですから、いりません」

「わかりました」


「では、皆様、少しの間、失礼いたします。外で待たせてしまいまして、申し訳ありません。会議は三十分程ですので、近場のベンチにでも座って、休んでいてください」


「いえ、どうか、我々のことはお構いなく」

「わかりました」


 それで、セシルは、目の前にある建物の中に消えてしまった。


「オシボリは、バスケットの中にお願いします。こちらに食事がありますので、どうぞ」


 セシルの護衛をしていた騎士の二人が勧めてくるので、さすがに、無視するわけにもいかない。


 ギルバート達全員が、「おしぼり」 のタオルをバスケットに戻し、立ったまま、前に差し出されたバスケットの中を覗き込む。


 サンドイッチがたくさん並べられていて、ギルバートは、端から一つのサンドイッチを取り上げる。

 残りの三人も、ギルバートにならって、サンドイッチを手に取った。


 毒見は――今日は、必要ないだろう。


 モグモグと、立ったまま、(お行儀悪く) 食事を取るのは初めてだ。


 サンドイッチは摩訶不思議なものでもなく、卵が入っているものだった。塩味がきいて、中々、おいしいものである。



読んでいただきありがとうございました。

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