表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/547

В.е 意外な一面 - 04

ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。

 通りの気配を伺い、様子を確認して、セシル達三人は裏道から飛び出していた。


 もう夕刻が近づき、当たりも日が暮れ始めている。

 三人は街外れにある野宿の場所に、一気に駆け戻っていた。


 セシルの呼吸はまだ上がっていて、これ以上無理はさせたくはないのだが、今は仕方がない。


「どうやら、()けられていますね」

「何人ですか?」

「一人だけです」


 ふっと、ギルバートが薄く笑い飛ばしていた。


 どうやら、狡賢(ずるがしこ)い輩が一人いて、昨日のセシル達の逃げっぷりから、今日も同じ行動をしているセシル達の動きを、ただ()()していただけなのだろう。


 それで、あわよくば、隠れ家を探し当て、自分一人だけ報奨をもらおう――なんて考えているような、愚鈍だ。


 そうでなければ、今頃、きちんと他の郎党達にも、セシル達の行動を見張るように伝えているはずなのに。


「では、街を出てから、(おび)き出しましょう」

「わかりました」


 郎党一人など、ギルバートの相手にもならない。随分と、ギルバートを舐めてくれたものだ。


 ギルバートの言葉通り、公爵領を抜け出し、人里離れた場所で隠れていたセシル達の前に顔を出した郎党は、ギルバートに、たった一発で簡単にノされてしまった。


 待ち合わせの場所で、待機していた二人の騎士にその郎党の始末を頼み、一応、布が敷かれている場所に、セシルを座らせる。


「私の部下が来るまで、少し休んでいてください」


 さすがに、貴族のご令嬢に、野宿で、地面に布を敷いただけのような場所で寝かせるなど、なんと非道な扱いだろうか……と、ギルバートは、初めから、セシルの野宿には賛成していない。


 だが、セシルは出会った時からそうだったが、こんな切迫して緊張した状態なのに、ただの一度も取り乱したことはない。


 いつも、どこまでも冷静で、驚くほど落ち着いていて、それで――野宿をしても、文句の一つもこぼさない、とても辛抱強いご令嬢だったと、ギルバートもそこで気がついたのだ。


 セシルは、普通の貴族の令嬢という概念も、常識も、全く当てはまらないご令嬢だった。


 たぶん、セシルは普段から動き回ることに慣れていて、歩き回ることも苦ではなくて、自らが行動し、そして、それをできるだけの能力がある――あまりに稀なご令嬢だということは、もう、ギルバートも言葉が出ない。


 だからと言って、セシルが万能で、何にも全く影響が受けない女性だなどとは、ギルバートも考えていない。


 セシルはその外見の通り、かなり細見の女性だと、ギルバートは考えている。


 階段で支えた時だって、ほとんど重さなど感じさせなかった。

 先程だって、腕の中にいるセシルは、ギルバートの腕の中に、スッポリと収まってしまうほどの体躯だった。


 華奢過ぎる、というのではないだろう。それでも、細身で、ギルバート達のように、体力や力があるわけでもないはずだ。


 文句を全く言わないセシルを前に、ここ数日、ギルバートの気のせいかもしれないが、その顔色が少し落ちてきていることに、懸念が隠せないギルバートだ。


 アトレシア大王国にやって来てからというもの、セシルには、無理ばかりを強いてしまっている。

 さすがに、そのセシルに申し訳なくて、ギルバートはセシルの体調が心配でならない。


「では、お言葉に甘えて」


 セシルは抵抗もせず、毛布にくるまり、横になる。


 だが、数分もしないでセシルが静かに寝入ったことを、ギルバートも確認していた。


 昨日、今日で、かなり走らせ、ずっと緊張させたままだったから……。


 セシルの体力も切れ、心身共に疲労していても、全く不思議ではなかった。


「先程、私の気のせいだったのかもしれませんが、ご令嬢の付き人の子供を、見かけたような気がします」

「気のせいではないと思います。多分、様子を見に来ていたのでしょう。今夜、顔を出すかもしれません」

「そうですか」


 昨日は、子供達からの連絡はなかった。だが、あれだけ派手に騒ぎを起こしているので、街中でセシル達を見つけるのは、それほど問題ではないはずだった。


「このように、ご令嬢には多大なご迷惑をおかけし、本当に、申し訳なく思っております……」


 申し訳ない以上に、ギルバートの方が辛そうにセシルを見返している様子を、イシュトールが静かに観察している。


 このギルバートは王国騎士団の副団長で、第三王子殿下でもあるのに、今の所、一度として、セシルに文句を言ったことはないし、口を挟まない。


 セシルの指示を、ただ、静かに受け入れているだけだ。


 王太子殿下との契約がそうであっても、自分自身が王子殿下であるのなら、多少は威張り散らしても不思議はないが、このギルバートは――どうやら、セシルの能力を素直に認め、きちんと敬意を払っているようなのである。


 おまけに、ここ数日で判ったことだが、絶対にセシルを危険に(さら)さない為に、この副団長は、セシルの側から一時も離れたことはない。


 セシルは、



「この国の人間ですから、私のことを警戒しているのでしょう」



などと、そんな結論に達していたが、イシュトールは、そうだとは考えていない。


 随分、真面目で、真摯(しんし)な王子殿下が、セシルの側に付いたようだったのだ。


「マスターは、ご自分のなさることを、いつも、とても良く理解なさっていらっしゃいます。今回の事件のこととて、契約が結ばれているとは言え、ここまで深く関わる必要はありませんでした。ですが、マスターの邪魔をする輩、と判断なされたのでしょう。ですから、このように、ご自分から動かれていらっしゃるのです」


「そう、ですか……。本当に、ご迷惑をおかけしてしまいました……」

「無礼を承知で、一つ、お聞きしたいことがあります」


「何ですか?」

「マスターを利用し、一体、どうなさるおつもりなのですか?」


 その質問に、ギルバートがイシュトールを真っすぐに見返す。


「いえ、今回、一度きりです。契約の通り。我々が――この国では、契約違反も、違法行為も、常だと思われていらっしゃるかもしれませんが、そのようなことは、絶対にさせません。私の名に誓って」


 かなり侮辱した質問だったが、ギルバートは気分を害したでもなく、大真面目に、その返答を返してきた。


「それをお聞きして、安心しました。どうも、王家と言うものは、信用がならないものですから。なにも、あなたの国だけのことを言っているのではありませんので」


 王子に対する非礼、とも言える発言ではある。


 だが、ギルバートは、王子としての権力と立場を見せびらかす為に、騎士となったのではない。


「いえ、侮辱としては受け取っていません。そのような仕打ちを強いてしまったのは、我が国の失態です」


「マスターは、それで責めているわけではありませんが」

「そうなのですか?」


 もう、絶対に、この国の兵士だろうと騎士だろうと、セシルは許してはいないものだと、ギルバートも考えていた。


「マスターは、その程度の些末な問題で、根に持つようなお方ではありません。マスターは、我々など、到底、及ばないほどの広い視野をお持ちで、そして、違いを受け入れることができる、とても心の深いお方なのです」


「そうですか。そのような主に仕えることができて、羨ましいですね」


 それは、ギルバートの皮肉でもお世辞でもなんでもなかった。素直な感想だった。


 それが判って、イシュトールも素直に頷いた。


「はい。我々は、いつもそのことに感謝しております」



読んでいただきありがとうございました。

一番下に、『小説家になろう勝手にランキング』のランキングタグをいれてみました。クリックしていただけたら、嬉しいです。


Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Funtoki-ATOps-Title-Illustration
ランキングタグ、クリックしていただけたら嬉しいです (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
小説家になろう 勝手にランキング

その他にも、まだまだ楽しめる小説もりだくさん。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ